アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアンのインテリジェントオートメーション部門の責任者であるモヒット・ラオ(Mohit Rao)が、イノベーティブなチームの姿勢と文化を育むための5つのTIPSを紹介する。

本稿の要約を10秒で

  • イノベーションのアイデアは、企業内の誰もが想起でき、あらゆる組織・チームがイノベーションを引き起こすことができる
  • イノベーションを引き起こすうえで大切なのは、イノベーション、あるいは改善の取り組みを日常化することである
  • イノベーティブなチームの姿勢と文化を育むうえで有効な方策はいくつかあり、それを5つのTIPSとして紹介する

ハッカソン、ブレスト会議、オフサイト会議でイノベーションが生まれると思うのは錯覚!?

これはあくまでも私見である。だたし、いわゆる「イノベーティブなプロダクト」を生み出さなければならない立場から言わせてもらえば、多くの企業が定期的に催している「ハッカソン」イベントや、チームの定例的な「ブレーンストーミング会議」(以下、ブレスト会議)「オフサイトミーティング」などによって、イノベーティブな何かが生まれるとは思えない。

逆に、イノベーションを引き起こすうえでは、こうしたイベントや会議が必要になるという固定観念こそが、組織・チームにおけるクリエイティブでイノベーティブな発想や取り組みの邪魔をしているように感じている。

そもそも、イノベーティブなアイデアは、会社が選んだ人、形成した場、タイムフレームの中で生み出されるようなものではない。もし、本当にそうだと思っている人がいるのなら、その考えを私は真っ向から否定したい。

イノベーションのためのアイデアは、企業内の誰もが想起しうるものであり、あらゆる組織・チームにおいても、そして、どのようなタイミングでも、イノベーションは起こりうる。ゆえに、イノベーションを引き起こしたいと望む組織・チームのリーダーは、上記のようなハッカソンイベントを催すよりも、組織・チームの要員が常にクリエイティブでいられようにサポートしてあげること、あるいは、社員の全員がイノベーションをいつでも引き起こせるような文化、環境を醸成、整備することのほうが大切と言える。

加えて言えば、イノベーションを引き起こすうえでは天才的な頭脳や専門的なスキルを持った人材は特に必要とされない。その理由はいたってシンプルだ。それは、上でも触れたとおり、イノベーションのアイデアは企業内のすべての社員、チームが想起でき、具現化できるものだからである。

実際、私がアトラシアンに入社したばかりのころ、アトラシアンの人的リソースは今日に比べて圧倒的に少なかった。ゆえに、私の主たる仕事は、チームの新しい働き方を生み出し、それによって生まれた人的リソース上のゆとりを新しいプロダクトづくりに振り向けることだった。そうして私のチームが生み出した最初の発明がデータ活用のためのプラットフォームであり、それは今日、「Socrates」と呼ばれるアトラシアンのデータプラットフォーム(データレイク)へと発展を遂げている(参考文書 (英語))。

イノベーティブな精神と文化を育む5つのTIPS

繰り返すようだが、組織・チームにおけるイノベーションを生む能力を高めるうえでは、社員たちがイノベーションを引き起こしやすい環境と組織文化を整備、醸成することが重要となる。加えて、常にイノベーティブであろうとする精神を育むことも大切だ。

そこで以下では、私のこれまでの経験にもとづきながら、チームにおいてイノベーティブな精神と文化を育むための5つのTIPSを紹介する。

TIPS①日常業務にイノベーションを組み込む

イノベーションは技術開発に限った話ではない。新しい価値を生むために仕事のやり方や働き方を変えたりするのも、イノベーションである。ゆえに、企業内のあらゆるチームがイノベーションを引き起こすことができ、組織・チームのリーダーは、そのことをしっかりと認識しておかなければならない。そのうえで、社内のいたるところで継続的な改善が行われるようチームを後押しすることが重要となる。また、すべてのチームがこれまでよりも良い成果を生み出せるように、多様な意見を取り入れ、建設的な議論を行い、自分たちのアイデアに磨きをかけることを奨励するのも大切である。

先に触れたとおり、私は、チームのイノベーションを後押したり、奨励したりする目的でハッカソンのようなイベントを定期的に、そして日常的な業務から切り離されたかたちで催すことには反対である。というのも、イノベーティブなアイデアは会社が決めたタイミングで思いつくものではないし、イノベーションの場を日々の業務から切り離したところに置くことで、社員たちがイノベーションに対する取り組みを、自分たちの本来業務とは関係のないものと見なしたり、自分の仕事の邪魔になるものと嫌ったり、イベントへの参加を負担に感じるリスクがあるからである。

では、イノベーション、あるいは改善、改革が、常に引き起こされるようにするには何をどうするのが適切なのか。

その答えの一つは、すべてのチームにイノベーションのプロセスを普段の仕事の一部として取り入れてもらい、それを通じてビジネスや業務上の課題を解決してもらうようにすることである。イノベーションが日常業務に組み込まれていることで、社員たちはイノベーションに自分のエネルギーを自然に注入するようになる。結果として、イノベーションを引き起こすための「組織・チームの筋肉」が鍛えられていく(と、私は確信している)。

また、あらゆる物事の変化が激しい今日では、企業で働くすべての人が、イノベーションを特別なモノとして扱うことをやめなければならない。加えて言えば、イノベーションは一握りの天才が引き起こすものでもなければ、魔法のようなプロセスでもない。一大変革のうねりを巻き起すことだけがイノベーションでもない。イノベーションとは、優れたアイデアづくりにチームで取り組み、何らかの価値を生むことなのである。

さらに、イノベーションを引き起こすためのアイデアは、すべてが「斬新」である必要はない。むしろ、斬新さよりも「シンプルさ」のほうが大切であり、チームがすばやく実装して試して鍛え上げ、価値の創出につなげられるようなアイデアが望ましい。

例えば、アトラシアンのITチームは以前、新型コロナウイルス感染症の影響でオフィスが閉鎖されたことでチームの士気がダウンし、チームミーティングに対するメンバーの参加意欲や貢献意欲も(ミーティングの場がオフィスからビデオ会議へと切り替えられたことで)著しく低下したことがあった。その状況を打開すべくチームが着想し、実践したのがチーム内のコラボレーションとコミュニケーションのあり方をVR(仮想現実)技術によって変えるというシンプルなアイデアだった。そのアイデアを実践したことで、チーム全員の働く意欲が高まり、ミーティングへの参加意欲・貢献意欲の向上にもつながった。

TIPS②改善のチャンスについて絶えず自問する

企業のあらゆる組織・チームは「何かを改善するチャンスはあるか」という自問を継続的に行うことで、イノベーションのためのマインドセットや思考法を身に付けていくことができる。

また、「何かを改善するチャンスはあるか」というシンプルな問いかけは、チームがより効率的、効果的になるために「働きやすさをどのようにして増すか」「現状より優れたワークフローとは何か」「どのような技術を取り入れるべきか」といった一連の疑問に対する答えを探し当てることにもつながっていく。

アトラシアンでは、イノベーションはどのチームからも、誰からでも生まれると考えている。ゆえに、私自身も、経験豊富なメンバーからのアイデアや意見だけではなく、アトラシアンでそれほど経験を積んでいない若手のメンバーからのアイデアや意見にも常に期待をかけている。また、そうした若手のメンバーが忌憚なく自分のアイデアや意見を言えるような環境づくりや後押しを行っている。

イノベーションを引き起こす際にはアイデアが新鮮であればあるほど良く、そうした新鮮なアイデアは、数多くの成功体験を持つメンバーよりも、ビジネス経験の少ない若手のメンバーのほうが想起しやすいことが多くある。

また、新鮮なアイデアを生むうえでは、多様なスキルや経歴、才能を持った人材によってチームを組むこと、あるいは、そうした多様な人材の視点や考えを取り込むことも重要だ。それによって、現状の打開・打破に向けて、これまではとはまったく異なる視点からアプローチすることが可能になる。

ここで「チームのメンバーに自身のアイデアを出してもらうには、具体的にどうすれば良いのか」と考えている人がいるかもしれない。

実のところ、メンバーからアイデアを募るための手段はいくつもあり、その中から自分のチームにフィットするものを選び、複数用意しておくことが無難だ。というのも、アイデアを想起して他者と共有するための手段については、人によって好みが異なるからである。例えば、対面式のブレスト会議で自分のアイデアを共有するのを心地良いと感じる人もいれば、自分のアイデアを発信する前に、一人で考える時間が必要な人もいる。

TIPS③イノベーションの成功と失敗を等しく「祝う」

イノベーションの試みは、大抵の場合、失敗に終わる。したがって、アイデアをいくつも試して、早期に失敗と改善を重ねていくことが理想的と言える。

「早期に失敗する」というフレーズに違和感を覚えた人もいるだろう。ただし、早く失敗できるということは「効率的に失敗できている」ことを意味し、これによってチームはアイデアに磨きをかけるための学びを早いタイミングで得られるのである。

また、失敗に対して「早期に」という時間的制約を加えることは、アイデアの仮説検証を効率的に回すための革新的で有効な方法を見い出すことにつながる。ここでは、アイデアのデモンストレーションを頻繁に行い、異なるタイプの人から、リアルタイムのフィードバックを多く集めることをお勧めしたい。

いずれにせよ、イノベーションの取り組みで重要なことは、失敗を成功に向けたプロセスととらえ、成功と同じように「祝う」ということだ。

加えて、チームのクリエイティビティを育むために、イノベーティブな取り組み自体を評価する姿勢もリーダーには求められる。要するに、目に見える成果物だけではなく、たとえ失敗に至った取り組みであっても、その仮説検証プロセスの革新性を称えるようにするのである。

さらに、すべてのアイデアに対して建設的な態度をとることも忘れてはならない。新しいアイデアが正しく評価されるまでに相応の時間を要することがある。ゆえに、十分な検討をしないまま、アイデアを否定してはならない。

TIPS④取り組みが滞っても仮説検証の反復を続ける

イノベーションの取り組みにおいては、多くのアイデアを仮説検証のプロセスに乗せたものの、一向に価値の創出につながらないことがある。また、一度失敗したアイデアを成功させるために、チームが必要以上に長い時間をかけてしまい、イノベーションの取り組みが停滞してしまうこともある。そこで私は、イノベーションに乗り組むチームの全員に対して「早く失敗することが目標である」と言い聞かせるようにしている。

アイデアを検討する際には、アイデアの有効性が時とともに変化する可能性についても考慮に入れなければならない。実際、組織が十分に成熟していないためにアイデアが機能しないことは往々にしてある。また、アイデアが有効に機能するためには、技術のさらなる成熟、進化が必要である場合もある。したがって、特定のアイデアをしばらく試してみて価値の創出につながらないようであれば、そのアイデアをいったん棚上げし、また別のアイデアを試すようにすることをお勧めする。棚上げしたアイデアは、あとから、いつでも試すことができるからである。

例えば、コミュニケーションツールの「Slack」には、利用者からのよくある質問(FAQ)に対応するインテリジェントなチャットボットが備えられている。Slackを使うアトラシアンでは、そのボットの回答精度を上げる取り組みを、インテリジェントオートメーションチームが中心となって進めようとしたが、当時はどのチームもボットを機械学習によって鍛えるのに十分なネットワークの帯域幅を確保できていなかったので、試みは保留となった。ただし、その試みを通じて行ったチャットボット技術の調査・分析・評価の作業は、私たちにとって非常に貴重なものとなった。つまり、この作業によって、アトラシアン製品のチャットボット技術を評価するための指標を得ることができ、かつ、取り組みかかわったメンバーは、チャットボットに関する知識のレベルを大きく引き上げたのである。

このように、アイデアの仮説検証のプロセスを繰り返し実行することは、何らかの価値を私たちにもたらしてくれる。一方で、理論の学習と観察だけでは、学ぶことはできても実践による失敗も、成功も体験できず、実効性の高い知識、ノウハウは獲得できない。ゆえに、新しいアイデアを試して失敗し、また試すの繰り返しは重要であり、それによって、たとえ、ある時点ではアイデアを成功させることができなかったとしても、次のアイデアや仮説検証を洗練させ、進化させるうえで有効な知識を豊富に手に入れることができるのである。

TIPS⑤イノベーションのプロセスを受け入れる

企業は、その規模の大小にかかわらず、個人レベル、チームレベルでイノベーションを引き起こすことができる。組織・チームを率いるすべてのリーダーは、現場主導で引き起こされる、こうしたイノベーションのプロセスを受け入れ、自分の組織・チームがいつでもイノベーションを起こせるようにする必要がある。具体的には、組織・チームのあらゆる要員に対して、イノベーションを主導できる機会を提供し、かつ、より良いアイデアを生み出すための能力を開発するようにすべきである。

こうしたリーダーの努力によって、社員たちの好奇心やクリエイティビティが育まれ、組織・チームにおける課題解決のプロセスがより独創的で機能的になる。そして、成功だけでなく、失敗も祝うことで、チームとしての成長・発展をサポートし続けることができるのである。