アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。プリンシパルライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が「燃え尽き症候群」の撃退法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 慢性的なストレスは、記憶力や意思決定を鈍らせる。休暇は心身の疲れを癒し、リチャージ(再充電)するための良い機会である
  • 屋外でのゆとりある時間や新鮮な体験、そして休息は、休暇による心身のリフレッシュ効果を高める要素となるが、それがすべてではない
  • 「畏敬の念」が心身的なストレスの解消につながる
  • 遠出をしたり、冒険をしたりしなくても、休暇の効果を得られることがある

休暇の効果を高める要素

2022年6月のある日、私は自宅の庭ですばらしいひと時を過ごすことができた。

その日は、いつものように午前6時に起床して家族の朝の日課をこなしてから8時間以上仕事に集中し、のちには夕食の準備に追われた。そんな目まぐるしさの中で「ああ、休みたい」と考えていた。そこで、子供たちをベッドに寝かしつけたのち、私は庭に出て初夏の熱を帯びた空気を思い切り吸い込んだ。すると、近くの変圧器がいきなり爆発し、近所一帯が停電になった。その音に驚いて家から飛び出してきた娘は、庭にいる私を見つけて駆け寄ってきた。

停電のおかげで娘の読書灯も、私のWi-Fi回線も使えない。ゆえに2人はしばらくの間、庭に敷いたレンガの近くにペタンと座り込み、周囲の様子を楽しむことにした。つまりは、頭上の月や木々の間を飛び回るコウモリを眺めたり、庭を舞うホタルを見つけて喜んだり、レンガに残る日中の熱を触れて楽しんだりしたのである。このひと時によって心身のストレス、疲労はかなりのレベルまで回復できたといえる。

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の世界的な流行によって、2年以上の間、人々は自宅で休暇を過ごさざるをえない状況に置かれてきた。そんなコロナ禍もようやく終息へと向かい、心身の疲れをとるために、海外旅行を計画する人も増えている。もっとも、心身のバッテリーへの充電は科学的なプロセスでもあり、休暇によるストレス軽減の原理を理解していれば、遠いどこかに旅に出ずとも、自宅から少し歩くだけで同じような効果を得ることができるのである。

休暇がもたらす5つの心理的効果

私たちは休暇を取るとき、心身のバッテリーを充電し、ストレスを解消しようと試みる。そうすることは、心身の健康を保つうえで非常に有効であると、米国マサチューセッツ大学心理学・脳科学教授のスーザン・クラウス・ウィットボーン(Susan Kraus Whitbourne)博士は指摘する。

慢性的なストレスは、感染症などに対抗し、生命を維持しようとする身体のメカニズムの一部を破壊してしまいます。加えて、睡眠と消化の妨げになるほか、イラつきや不安を増幅させ、記憶力・判断力を低下させます。 そして、それらの悪影響が複合的に作用し、心身のストレスを一層強めていくという悪循環に陥ってしまうことが多いのです。
── ウィットボーン博士

また、心理学者たちは、休暇がもたらす心身のリフレッシュ効果についてさまざまに指摘している。彼らの指摘をまとめると以下の5つの心理的効果に集約することができる。

効果①「畏敬の念」を抱くことで意思決定の判断力、批判的な思考力が向上する

海外旅行者は、現実離れした夢の中にいるような感覚を味わうことが多い。日常を過ごす地域との「言語の違い」「匂いの違い」「路上を走る自動車の姿かたちの違い」など、さまざまな違いを肌身で実感することができるからだ。そして、それらの違いをすべて受け入れることで、意識的・無意識的に抱く日常的な期待感から解き放たれ、暑い日に冷たい湖に飛び込んでリフレッシュするのと同じような爽快感を得ることができるという。

また、中国におけるいくつかの大学の研究チームによると、私たち人間は物事に「畏敬の念」を抱くことで平凡な日常の悩みから解放されるという(参考文書 (英語))。畏敬の念とは、物事に対して純粋に「すごい」と恐れ敬うことを指す。この念は、私たちを自我から引き離し、既知のもの、あるいは、永久のもの、当たり前のものと考えていた物事を再考するように促す。実際、畏敬の念は、時間の感覚を変え(参考文書 (英語))、今この瞬間に没入させるほど強力な感情といえる。

また、畏敬の念を抱くことで、意思決定の判断力や批判的な思考能力が向上することも研究により明らかにされている。例えば、米国アリゾナ州立大学の研究によると、畏敬の念を抱くと、間違った主張に説得されにくくなるという。言い換えれば、休暇中に畏敬の念を抱くことができれば、仕事に戻ったときに最も重要な仕事に集中し、より賢明な選択ができるようになるというわけだ。

ちなみに、休暇中に畏敬の念を経験するには、過密なスケジュールを避けるようにすることが重要である。休暇中に予定のない時間を作ることで、畏敬の念に気づき、自分が存在する世界に感謝できる可能性が広がるのである。また、これは私見だが、畏敬の念を抱くために異国を旅する必要はないように思える。自宅の庭先や周辺でも、畏敬の念を感じる瞬間は十分に探せるのである。

効果② 新しい体験は脳内ドーパミンを刺激する

ワクワクするようなものを発見したり、冒険していると感じたりすると、人の脳はドーパミンを放出する。ドーパミンは「報酬が得られる」という喜びの感情に関係する神経伝達物質だ。書籍「Felt Time:The Psychology of How We Perceive Time」の著者で研究者のマーク・ウィットマン(Marc Wittmann)氏によると、新しい体験はより記憶に残りやすく、休暇をより長く感じさせる効果もあるようだ。

新しい体験は遠出をせずとも、日常を変えるだけで味わうことができる。例えば、地元の観光スポットを改めて見直し、まだ行ったことのない場所に赴いたり、1週間をかけて、街中のアイスクリーム店、ないしはカクテルバーをすべて制覇してみたりする。そうするだけで新しい体験が得られるはずである。また、休暇を自宅で過ごすと決めたならば、書棚の本を隅から隅まで読み直したり、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」3部作を一挙に鑑賞したりするのも良いかもしれない。さらに、1日3食を徹底している人は、1週間、朝食と昼食を抜いて代わりにブランチに切り替えるだけでも新しい発見があると思われる。

効果③ 身体を動かすとストレスが解消される

カルガリー大学の研究者らは、900人の弁護士を対象にした研究(参考 (英語))を通じて、身体を動かすこと(ゴルフのような比較的穏やかな運動であっても)が仕事上のストレス軽減につながる事実を突き止めた。ゆえにもし、あなたが自転車やハイキング、冒険をするタイプでないのなら、休日にウォーキングを取り入れたほうが良いといえる。近所を散策したり、朝夕の散歩を楽しんだりしてみてはいかがだろうか。

効果④ より良い睡眠は、すべてを改善する

休暇中の観光では、オフィスから離れた場所にいることができ、かつ、大抵の場合、普段以上に歩く。それによるストレスの解消によって、休暇中はぐっすりと眠れることが多いようだ。また、休暇のときは、夜にぐっすり眠れたとしても、昼寝をするのをためらってはならない。何もしなくても良い贅沢な時を満喫することが重要なのである。

ちなみに、人は、新鮮な空気をたくさん吸える涼しい環境で最も安らかな眠りが得られる傾向にあるようだ。したがって、可能であれば、バルコニーで寝たり、野外でキャンプをしたり、窓を開けて寝てみるのが良いだろう。

効果⑤ 大切な人との時間はオキシトシンの分泌を促す

大切な人と一緒にいると、オキシトシンの分泌が促される。オキシトシンは、信頼感や社会的支援をもたらす神経化学物質であり、この物質にはストレスを和らげ、心身のウェルビーイング(心身の健康状態)を上向かせる効果があるとされる(参考 (英語))。したがって、休暇・休日のときは、可能な限り、家族や大切な人と一緒に過ごすよう心がけるべきである。さらに、パートナーと一緒にハイキングに出かけると、なぜその人を最初に好きになったのかを思い出すかもしれない。

日常的にストレスを減らす努力も続ける

日常生活に新しい体験を取り入れることで、休暇の効果をより長く持続させることができる(参考 (英語))。例えば、週末はブランチをとることを習慣づけても良いし、いつも歩いている道を急いで通り過ぎるのではなく、立ち止まって小さな感動を味わう習慣を身につけるのもストレスの解消に役立つはずである。

仕事の進め方に関していえば、できる限りノートPCを屋外に持ち出して、周囲の景色を変えたり、新鮮な空気を吸ったりしながら、仕事を行うようにすることをお勧めしたい。また、自分の仕事上のストレスの原因が、マンネリ化や自分の仕事が重要ではないと感じていることにあるならば、自分の脳裏にある「夢のプロジェクト」のアイデアをすべて洗い出して、今がその1つを追求する絶好の機会かどうかを検討されたい。自分にとって有意義と思える仕事に取り組むことは、燃え尽き症候群の発症や退屈を抑えるバッファとして有効に機能しうるからである。