アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。WORK LIFE編集長のローレン・パーカー(Lauren Parker)とライターのサム・ミルブレイス(Sam Milbrath)が、デジタルワークスペースにおける非言語コミュニケーションのあり方について考察する。

本稿の要約を10秒で

  • ボディランゲージ、表情、ジェスチャー、アイコンタクトなどから構成される非言語コミュニケーションは、他者の感情や考えを把握するうえで驚くほど重要な役割を担っている
  • 実オフィスとデジタルワークプレイスでは適切な非言語コミュニケーションの方法が異なり、リモートワーク、ないしはハイブリッドワークが一般化した今日では非言語コミュニケーションのスキルを刷新する必要性が高まっている
  • 非言語コミュニケーションのあり方やスキルを見直すことで、組織・チームに相応のベネフィットがもたらされる

言葉で伝えられる感情は全体の「7%」

非言語コミュニケーションとは、言葉ではなく、ボディランゲージや顔の表情、ジェスチャー、アイコンタクトといった身体的なシグナルによるコミュニケーションを指している。

日常生活における非言語コミュニケーションの重要性については、学術研究によってさまざまに証明されてきた。例えば、数十年前に発表された、ある研究結果(英語)によれば、人が言葉で伝えられるのは自分の感情の「7%」でしかないという(感情の38%は声のトーン、55%がボディランゲージなどの非言語的なサインで伝えられるとする)。

この研究結果があらゆるスタイルのコミュニケーションに当てはまるかどうかはわからない。ただし、いずれにせよ、人が他者の感情を把握するうえで、身体的なシグナル、ないしは非言語コミュニケーションがきわめて重要な役割を演じることは確かなようだ。

非言語コミュニケーションは、言葉によるコミュニケーションの背後で機能しており、言葉によるコミュニケーションと同様に「誤解」や「誤認」を生みやすい。とりわけ、リモートワークやハイブリッドワークを採用している組織・チームでは、人と人との直接的な交流がどうしても少なくなり、他者の身体的なシグナルを日常的に目にしていない。ゆえに、非言語コミュニケーションが誤解や誤認を招くリスクが大きくなる。

ちなみに、デジタルコミュニケーションの指南書として話題を呼んだ書籍『Digital Body Language: How to Build Trust and Connection, No Matter the Distance』の著者であるエリカ・ハバン(Erica Dhawan)氏は、現代人の多くがデジタルコミュニケーションのスキルが十分になく、ボディランゲージについても誤って使ってきたと指摘する。

私たちは、ボディランゲージの基本的なルールを学んで育ちましたが、デジタルの世界でボディランゲージをどう使うべきかについては学んできませんでした。ゆえに、多くの間違いを犯し、カジュアルな振る舞いをケアレスミスに変えてしまったのです

言うまでもなく、リモートワークやハイブリッドワークはいまやナレッジワーカーの標準的な働き方となり、デジタルワークプレイスを通じたコラボレーション、コミュニケーションをいかに効率的で、有効なものにするかがすべての組織・チームにとって重要な課題となっている。

ゆえに、デジタルワークプレイスにおける非言語コミュニケーションについても、可能な限り、誤解や誤認を避けるようにすることが大切だ。以下、その観点から、デジタルワークプレイスにおける非言語コミュニケーションの正しいあり方について見ていくことにしたい。

非言語コミュニケーションの4タイプ

デジタルの場か、リアルの場かによらず、人が自己の感情を表現する非言語のシグナルは通常、4つのカテゴリーに分類することができる(*1)。

*1 ここで示す4つの分類は、脳の機能が一般の人とは異なる「ニューロダイバージェント(神経多様性者)」に類する人には当てはまらない可能性がある。ニューロダイバージェントと組織・チームを組む場合には、そうした脳機能の違いに対する理解を深め、心理的安全性を確保することが重要である。

カテゴリー①ボディランゲージ、姿勢、動作

私たちの身体的なシグナルは無限に近い組み合わせがあり、そのすべてが現在の精神状態、感情につながっている。

かつての職場では、座り方や立ち方、歩き方によって、自分の感情や精神状態を的確に表現でき、他者と交流するうえでの基調もかたち作れていた。ただし、組織・チームにおける対面式の交流の場は、その中心がオフィスからビデオ会議へとシフトしている。その中では、座り方や立ち方、歩き方で自分の精神状態や感情を表現する手法は、ほとんど使えなくなっている。

ビデオ会議の場で重要なのは、うつむいたり、そわそわしたりせず、前傾姿勢をとって、あなたが会議に積極的に参加していることを示すことだ。また、ビデオ会議を使った1 on 1ミーティングの場では、相手に頼みごとをする前や悪い知らせをする前に、あごをしゃくったり、腕を組んだりしないように注意すべきである。

カテゴリー②顔の表情

私たち人間は、生まれてから歩くことを学ぶ前に、人の表情の意味を読み取ることを学ぶ。そして、1963年にニコちゃんマークが登場して以来、それに類する絵文字を非言語的なシグナルの代用ツールとして使用するようになり、デジタルコミュニケーションが日常化するのに伴い、絵文字への依存度を高めている。

前出のハバン氏によれば、こうした顔の絵文字はデジタルワークプレイスにおける正当なツールとなっており、自己の感情を示す効果的な手段であるという。

確かに、絵文字は言葉だけでは表現し切れないさまざまな感情を伝えるのに役立つ。また、メンバーの全員が各地に分散して働いているチームであっても、絵文字を通じて社会的なつながりを維持することが可能になるのである。

ビデオ会議でカメラをオフにするのは間違いなのか?

ビデオ会議の普及とともに、会議中にカメラをオフにすべきかどうかという議論が生まれ、いまだに結論は出ていないように思える。非言語コミュニケーションを重視するならば、カメラをオフすべきではないという結論に至るだろう。ただし、チーム内の会議であれば、髪がぼさぼさであったり、食事を口に含んでしまっていたりと、カメラをオフにしたほうが良い場面も多くあるはずである。したがって、カメラのオン、オフなどのチーム内のルールは、民主的に、かつ、エンパシー(相手への思いやり)をもって決定されるべきであり、自分のチームのためになるルールを決めればそれで良いということになる。

自分の感情を絵文字で伝えるにせよ、実際の顔というアナログな表現に頼るにせよ、行動には慎重さが求められる。要するに、感情をストレートに出して良いときと、良くないときを見定めながら、可能な限り、意識的に自分の表情を変えるように心がけるべきということだ。

カテゴリー③ジェスチャー

ボディランゲージや顔の表情は、主として自分の感情を表すものだが、「ジェスチャー」はより具体的なメッセージを相手に伝えることができる。

こうしたジェスチャーは社会的に合意されたシグナルであり、デジタルの場でも、リアルな場でも、言葉によるコミュニケーションの代用ツールとして使うことができる。もっとも、ジェスチャーが意味するところは、国や地域、あるいは文化的背景によって微妙に異なる。例えば、人差し指と親指で輪を作る「OK」サインや親指を立てるサインは、イランの人やブラジルの人に深刻な誤解を与えてしまうリスクがあるようなので注意が必要である。

カテゴリー④アイコンタクト

アイコンタクトとは、他の人と目を合わせることを意味し、それだけで非言語コミュニケーションの柱と成りえる。

アイコンタクトは、ロマンチックな関係であっても、プラトニックな関係であっても、もちろん仕事上の関係であっても、人との社会的なつながりを築き、あなたが相手の話を聞いていることを示すための普遍的なベストプラクティスといえる。ただし、ビデオ会議では、相手の顔ではなくカメラを見なければならないので、特定の誰かとアイコンタクトをとるのは不可能ではないにしろ、かなり難しい。したがって、ビデオ会議の場では、アイコンタクト以外の手段を使って同僚の話に耳を傾けていることを示す必要がある。要するに、姿勢を正して、注意深そうに画面をみつめるということだ。また、注意を払うべきときに、手元にあるスマートフォンに目を落とし、メールをチェックするなど、他の作業を行うのは厳禁である。

さらに、ビデオ会議の設定を調整することで、自分自身の姿を隠すことができる。そうすれば、他の人が話しているときに自分の髪を直したくなることもなくなるはずである。

非言語コミュニケーションスキルを刷新することの意義

今後、デジタルワークプレイスでのチームの働き方やコミュニケーションのとり方について新しいルール、ないしは社会規範が生まれるかもしれない。ただし、デジタルの世界でどのようなルール、規範が形成されるにせよ、非言語コミュニケーションのスキルを磨くこと、あるいはリフレッシュすることは重要であるといえる。というのも、リモートで働くチームのメンバー同士が相互理解を深めて互いのつながりを強化するうえでは、良質な非言語コミュニケーションが欠かせないからである。本稿の記述を参考にしながら、デジタル時代に適した非言語コミュニケーションのあり方を探り当て、そのスキル獲得に動いていただきたい。