アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンの開発部門マネージャー、グレーム・スミス(Graeme Smith)が、生産性の低下を招く脳の「認知的過負荷」に対処する方法を説く。

認知的過負荷を回避する方策

繰り返すようだが、認知的過負荷がかかると仕事の能率が落ち、生産性が低下する。場合によっては、何から手をつければ良いかがわからなくなり、頭の中が真っ白になるかもしれない。あるいは、大量の情報が煩雑に入り乱れる中で、重要な事柄や緊急の用件を見落としてしまうおそれも強まる。

ならば、認知的過負荷を回避する、あるいは抑止するにはどうすれば良いのだろうか。以下、そのためのTIPSを紹介する。

TIP 1: ツールによるコミュニケーションを適正化する

メールやチャットなどのコミュニケーションツールは、生産性の向上に役立つ仕組みである反面、それらを通じて入ってくる大量のメッセージが仕事の妨げになる場合もある。ゆえに、自分にとって必要な情報(メッセージ)のみを効率的に受け取れるよう、コミュニケーションツールの設定を最適化することが重要だ。またそれが、認知的過負荷を回避する一手となる。例えば、アトラシアンでは、チーム内のコミュニケーションに主として「Slack」 を使用しているが、それを通じて入ってくるメッセージをコントロールする目的でメッセージの通知をスヌーズしたり、特定のチャンネルをミュートしたりしている。これらはSlackを有効活用するうえでのTIPSといえるものだが、その実践によって認知のフローを適正化することができる。

TIP 2: Webブラウザで開くタブの個数に制限をかける

1つのWebブラウザウィンドウ上で多数のタブを開くと、集中力に負の影響が出る。そのため、一般的には、Webブラウザ上で開くタブは数個(ないしは1つ)に制限することが望ましいとされている。なかには、タブを管理するためのツールや拡張機能を使用している人もいるようだが、私個人は、こうしたツール、拡張機能の使用は問題を悪化させるだけで終わると見ている。

TIP 3: 戦略的タイムマネジメント(時間管理)を実践する

仕事の時間を戦略的に活用するTIPSとして、インターネット上には「ToDoリストの活用法」をはじめ、「ポモドーロテクニック(=タスクを25分単位で分割し、5分間の休憩をはさみながら決められた時間内でタスクを実行していく時間管理のテクニック)」「画期的な通知管理のテクニック」など有益な情報が数多くある。ぜひ、インターネットを検索してそうした情報を探し当て、自分に適したタイムマネジメントの戦略を描き、実践されたい。

TIP 4: バッチ処理を採用する

インプットされた情報のバッチ処理は、ライターのティム・フェリス(Tim Ferriss)氏が自身の著書『The 4-Hour Workweek』で紹介し、人気を博した手法だ。似たようなタスクをグループ分けし、生産的なタスクのうねりを自らつくりあげ上げ、コンテキストのスイッチングを最小限に抑えるというものだ。

TIP 5: エネルギーの流れを適正化する

人によって、1日のエネルギーの流れは異なる。朝が最も元気な人もいれば、ちょっとした運動や散歩のあとが元気な人がいる。また、夕方が一番元気な人もいるだろう。いずれの場合でも、1日における自分のエネルギーレベルとタスクによる認知的負荷の高低が一致するように1日をスケジュールするべきである。

TIP 6: 事前にタスクの計画を立てる

アップルの創設者であるスティーブ・ジョブズ氏は、いつも同じ服装で仕事をしていたことでもよく知られている。同氏がそうしていた理由は、1日内で決断すべきことを1つ減らし、その分の精神的エネルギーをより重要な事柄に振り向けるためだ。

このように、どうすべきかを考える必要をなくせばなくすほど、より多くのタスクを処理する脳内の余裕が生まれる。したがって、事前にそうした余裕を生めるようなジョブスケジュールを立てておくことが、認知的過負荷を避け、生産性を高いレベルで保つことにつながる。

具体的には、以下を実行すればよい。

  • タスクの所要時間を予測し、いつ実行するかを決める
  • タスクを完了するために参照するWebページやファイルのリストを作成しておく
  • タスクの方向性を詳細に記したメモを作成しておく

どう築く!?デジタルワークスペースの近未来

新型コロナウイルス感染症の流行を境にしたリモートワークの一般化によって、コラボレーションツール、ないしはデジタルワークスペースに対するナレッジワークの依存度はかつてないほどに高まっている。アトラシアンは、そうしたコラボレーションツールやデジタルワークスペースの市場でビジネスを展開している関係から、そのテクノロジーの近未来像をどう描くべきかで常に考えを巡らせている。例えば、以下のような具合だ。

  • 自分の仕事の関係者やコメントスレッドのコメント数、あるいはコンテンツそのものの内容に基づいて、通知の重要性や緊急性を判断できるツールがあったとすれば、どうだろうか。
  • 数々の通知をバッチで一挙に処理しやすくするには、どのような機能を実現すべきだろうか。
  • メッセージ通知の機能とカレンダーなどを連動させ、タスクとタスクの合間など、適切なタイミングで通知を送るようにできないか。
  • コラボレーションツールを介して送られてくるコミュニケーションメッセージには「自分に対する直接的な質問」や「チームで決定すべき事項に関する議論」「参考情報の連絡」など、自分に求められるレスポンスの内容に応じて自動でグループ化し、それぞれの通知設定を最適化できないか。
  • 人の認知的負荷を定量的に計測し、生産性や「ウェルビーイング」が低下してしまうリスクを事前に検出できないか。
  • 通知によるワーキングメモリの消費量やコンテキストスイッチによる生産性の低下をモニタリングすることはできないか。
  • 認知負荷が生産性やウェルビーイングに与える影響を定量化できないか。

いずれにせよ、コラボレーションツールなどで構成されるデジタルワークスペースで仕事をしていると、日々、大量の情報が私たちのもとに届けられる。それらを処理するテクノロジーは、活用の仕方によって、仕事の能率、あるいは生産性を上げてくる強力なパートナーになりうるが、使い方を間違えると、私たちの認知的過負荷を常態化させ、生産性を低下させる要因となる。

今日、コラボレーションツールやデジタルワークスペースの進化によって情報やナレッジを他者と共有し、従来よりもはるかに効率的に仕事がこなせるようになったとされている。ただし、現実はそれとは異なり、情報が人の認知能力の限界を超え、ナレッジワークの生産性を阻害しないよう、情報の無駄な流入を避け、その交通整理を徹底することが求められている。また、情報の整理整頓、交通整理をインテリジェンスに、かつ自動的に行えるテクノロジーは今後、デジタルワークスペースで働くナレッジワーカーに多くのメリットをもたらすことになるはずだ。理由はシンプルで、デジタルワークスペースでの情報の流れが自然にスローダウンすることはまずありえないからである。アトラシアンは、そうした近未来を見据えながら、コラボレーションツール、そしてデジタルワークスペースの進化に貢献していくつもりである。