リモートワークは組織・チームの人間関係・情報共有を阻害するのか?
ところで、前編でフォーカスした「リモートワーク(在宅勤務)中心」の働き方に対しては、組織内・チーム内でのコミュニケーション、あるいは意思疎通が図りづらくなり、組織・チームでの人間関係や情報共有に負のインパクトを与えるといった指摘がよく聞かれる。
リモートワークか否かに関係なく、上司はまったく私の仕事を把握していない。これは働き方の問題ではなく、組織の問題だと思う(40代 女性)
現状は、チームというよりほぼ個人事業主に近い働き方で、組織に所属する意義が目に見えづらい。コミュニケーションは電話、チャットを中心にしているが、ほとんど問題なく、対面よりむしろコミュニケーションが取りやすいかもしれない(30代 男性)
果たして、実際にはどうなのだろうか。本論から少し横道にそれるが、今回の調査結果もとにその点を確認しておきたい。
まず、図6は「人間関係(対人関係、信頼関係)」の良否と働き方との相関関係を割り出した結果だ。
この結果にあるとおり、組織・チームにおいて良好な人間関係が築けている割合は「オフィスワーク(出社)中心」で働いている就労者よりも、「リモートワーク(在宅勤務)中心」、ないしは「ハイブリッドワーク型(在宅勤務とオフィスワークの折衷型)」で働いている就労者のほうが高くなっている。
これは要するに、リモートワーク中心、ないしはハイブリッドワーク型といった働き方が、組織・チームの人間関係に負のインパクトを与えるようなことはなく、むしろプラスのほうに作用している可能性もあるということだ。また、良好な人間関係が築けるかどうかは、組織・チームの働き方の問題ではなく、文化の問題ともいえるかもしれない。
では、「意見交換・情報共有の開放性・正直さ」と働き方との関係はどうなのだろうか。図7は、それを調べた結果である。
この図を見てのとおり、オープン(開放的)で正直な意見交換・情報共有ができている比率も、「オフィスワーク(出社)中心」で働いている就労者よりも、「リモートワーク(在宅勤務)中心」、ないしは「ハイブリッドワーク型(在宅勤務とオフィスワークの折衷型)」で働いている就労者のほうがかなり高くなっている。組織・チーム内で有意義な意見の交換や有効な情報の共有ができるかどうかは、就労者がどこにいるかとは無関係であり、組織・チームの文化や信頼関係、心理的安全性などに大きく依存した問題といえそうである。
また、ともに働く組織・チームの各人が分散して働いていることで、無駄な意見・情報のやり取りが減り、かえってコミュニケーションが効率化・有効化する可能性も高いのである。
ミドルマネージャーがまともにチームをマネジメントできていないので、適切なコミュニケーションが成立していない(40代 男性)
働く環境の実態③ 目標、ミッション、ビジョンの明確化・共有化
就労者にとって、働くことの目的が不明瞭であることはストレスや意欲の減退につながる大きな要因といえる。言い換えれば、就労者の働く満足度を高めるうえでは、自分、ないしは自分の組織・チームが「何のために働いているか」という目的を示す「目標、ミッション、ビジョン」が明確であることが必須になるというわけだ。
経営層の思いつきや勘違い、気分によって目標やミッションが大きく変わり続ける。ビジョンにしても一貫性がない。これは非常に困りものだ(50代 男性)
では、今回の調査回答者の組織・チームでは、この要件をどの程度満たせているのだろうか。それを尋ねた結果が、図8である。
上の図6に示すとおり、自身の組織・チームにおいて目標、ミッション、ビジョンの明確化・共有化ができていると「感じる」回答者は45.2%と半数に満たず、そう強く感じる(=「非常にそう感じる」)とした回答者になると全体の5.6%でしかなかった。
この結果からは、日本のかなり多くの組織・チームが、就労者の満足度向上に向けて働く目的(=どのような目標、ミッション、ビジョンの達成に向けて働くのか)を明確にし、共有化を図る必要があることがわかる。実際にも、組織・チームにおける目標、ビジョン、ミッションの明確化・共有化は、就労者の満足度と強い相関関係が見られている(図9)。
以上、今回の後編と前編の2回に分けて、アトラシアンが実施した調査の結果を報告した。
新型コロナウイルス感染症の流行という大規模なパンデミックによって、大多数の組織・チームは働き方の大幅な変更を強いられた。また、業績の悪化を余儀なくされたところも相当数あるはずである。
そうした状況を加味すれば、今回の調査で就労者の半数近く(46.1%)が、自分の組織・チームで働くことに対して満足感を抱けているというのは、日本企業の地力の強さを表すものといえるかもしれなない。
とはいえ、理想はすべての就労者が、自分の組織・チームに対して満足感を抱くことであり、その満足感からくる働く意欲やエンゲージメント(会社・組織・チームへの能動的な貢献意欲)が、組織・チームのパフォーマンスを向上させ、さまざまな変化・課題への対応力を強めることになるはずである。ゆえに、日本のすべての企業が、就労者の働く満足度と意欲を向上させることが大切であり、それに向けて働き方の柔軟性を高め、心理的安全性の確保によって意見交換・情報共有の開放性・正直さを増し、さらには、目標、ビジョン、ミッションを一層明確にして共有化し、就労者の共感を獲得すべきといえるのではないだろうか。