アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのIT・アプリケーションチームのヘッドで副社長のプラナフ・シャヒ(Pranav Shahi)が「ヒト・ファースト」のマネジメントを遂行するための10カ条を説く。

第5条:「ノー(No)」と言う理由を明確に

私はよく、マネージャーになりたての人に「ノー(No)と言いたいときには、ノーと言っても構わない」といったアドバイスを贈っている。ただし、ここで留意すべきなのは「ノー」と言うときには、必ずその理由も併せて伝えなければならないことだ。

私自身、まだ新米のマネージャーだったころ、チームのメンバーやステークホルダーに「ノー」とは言えても、なぜ「ノー」なのかの理由をしっかりと説明できていなかった。ゆえに、チームのメンバーやステークホルダーは、「ノー」と言う私の判断を正しく評価することができなかったのである。これは、マネージャーへの信頼にかかわる問題である。

マネージャーの中には「ノー」の理由を説明することに怖れに似た感情を抱く人もいる。しかし、仕事に関する事柄については、すべて透明性を確保しなければ、周囲はマネージャーのリーダーシップに疑念を抱くようになる。ゆえに「ノー」と言うときには、理由を併せて伝えることが不可欠であり、可能であれば「ノー」と言う前に、理由を文面にしていただきたい。仮に、理由が簡潔に、かつ明確に書けないのであれば、熟慮をせずに判断を下してしまっている可能性が高い。

第6条:「自分」と「チーム」を一体化させる

チームのマネージャーになった瞬間から、その人は個人ではなくチームの代表者となり、チームの価値観やミッションを象徴する存在へと変容する。ゆえに、チームのメンバーの規範として振る舞い、チームに貢献し、さらには成功や失敗を体現しなければならない。

また、職場での「政治(politics)」は良くないと言われるが、私は、頭文字が大文字の「Politics」と「politics」には違いがあると認識している。頭文字が大文字の「Politics」は"組織の利益"を意味し、「politics」は、"自己利益"を意味する。したがってチームマネージャーは、自己利益の「politics」から組織利益の「Politics」へと考え方を移行させる必要がある。

加えて、チームマネージャーは、チームの成功のために適切なガードレールを構築する必要があるほか、チームの盾であり、旗印として、チームによるポジティブな成果とネガティブな成果の双方を受け止めることも大切である。ゆえに、チームマネージャーが何らかの決断を求められた際には、チーム、その文化、価値観を象徴的に反映させた判断を下す必要がある。

第7条:自分のスタイルを貫く

チームをマネージしていくうえでは、自分が持つ強みを最大限に活かしながら、自分なりのスタイルを貫くことが大切である。というのも、ありのままの自分でいるほうが、自分ではない誰かを装うよりも使うエネルギーが少なくて済むからである。また、自然体でいることで、チームのメンバーとのかかわり合いが一層快適になり、少し厳しい話をする際も、誠実で正直な対応ができるようになる。加えて言えば、常に自然体でいることは、リーダーシップの重要な側面である「自分の弱さも包み隠さず見せる」ということにもつながる。

また、人は誰でも、自分ならではの強みを持っている。したがって、新任のマネージャーにはぜひ、自分の強みがどこにあるかを認識しておいていただきたい。

例えば、私は自分の強みを常に把握する目的で、自分を取り巻くチームのメンバーや同僚のマネージャー、さらにはステークホルダーに対し、「360度」のフィードバックをもらうようにしている。また、そのフィードバックを補うかたちで心理学的自己評価のサイト「Instinctive Drives」なども活用している。

ちなみに、私はマネージャーになってから、自分の改善すべき点を気楽に人に話せるようになった。そのため、人に対して自分への評価や助けを求めることに一切の抵抗を感じなくなっている。このとき大切なのは、フィードバックによって自分の自然なスタイルを崩さぬようにすることだ。そのうえで、仕事のやり方の改善にフィードバックを役立てていけば良いのである。

第8条:型にはまらない人材を採用する

私は、チームのメンバーとして、必要な技術スキルを備えた伝統的なIT人材とはまた別に、伝統的な型にはまらず、成長マインドセットを持った人材を常に求めている。例えば、好奇心が旺盛でIT業界のブレークスルーに対してオープンマインドであり、新しいスキルセットの獲得や自身のスキルに磨きをかけることに常に意欲的な人材である。

言うまでもなく、今日の技術革新のスピードが猛烈に速い。したがって、より多才で、従来とは異なる視点を持ち、特定の技術に対して過度に執着・信奉しないメンバーがITチームには必要とされているのではないだろうか。

また、型破りな人材をチームに加えることで、チームのエネルギーと学習曲線が勢いよく上昇することが間々ある。同様に、型破りな人材が、視点の多様化と既成概念にとらわれない問題解決手法の創出という点において、大きなプラスの影響をチームにもたらすこともある。

第9条:メンバーの離職に備える

チームマネージャーは、ときとしてチームのメンバーが志向するキャリアアップをサポートできない場合がある。また、チームのメンバーが他の職場で新しいキャリアにチャレンジしたいと望むこともある。

チームマネージャーとして「ヒト・ファースト」のマネジメントを志向するのであれば、こうしたメンバーに対して、チームに残るよう説得するのは間違いである。チームのメンバーがどこに行こうとも、それぞれの願いや幸せを追求することを奨励すべきである。そしてもし、彼らがチームからの離脱や転職を決意しているのであれば、社内での異動を可能にするために最善を尽くすことが大切である。その際には、自分の人生に対する彼らの願望が、組織の利益とどのように結びつくかも併せて考え抜くことが必要とされる。

第10条:失敗を祝う

失敗は、チームにとって絶好の学習機会でもある。したがって、メンバーの失敗をチームの学習機会へと転換できるよう、メンバーが自分の失敗や弱さを包み隠さず、安心してチームと共有できるようにしなければならない。そのうえで、誰かの失敗を「責める」のではなく「祝う」という文化を築き上げることがチームには必要とされる。

リスクテイクとイノベーションを強く奨励するアトラシアンでは、失敗を祝う文化がしっかりと根づいている。そうした文化をチームに浸透させる一番の方法は、マネージャーが自分の失敗について詳細に語り、そこから何を学んだかを話すことである。

チームがすでに持つ強みを最大限に生かすことは大切だが、新しい何かにチャレンジして失敗し、そこから多くを学ぶことも同様に重要である。その意味でもぜひ、あなたのチームでも、メンバー各人の失敗談をチームで共有しながら、そこから何を学んだかを話し合っていただきたい。それを通じて、学びから生まれたリスク回避の手法やイノベーションを称えつつ、失敗を祝うための自分たちなりの方法を見出すことが大切である。

すべての失敗に価値があり、実験における失敗でも、人材採用の失敗でも、オペレーション上の失敗でも、どのような失敗からも学ぶことができる。

チームが自らのスケールを拡大し、パフォーマンスを上げていくためには、相互の思いやりや情報のオープンな共有だけではなく、大胆さも必要である。そして、大胆な挑戦には必ず大きく失敗するリスクがある。それを怖れるのではなく、たとえ失敗しても、それを自らの成長の糧にする心構えと準備が大切なのである。