「失敗」を知的創造につなげるための指南書

本書は、失敗を新しい発見や価値創出につなげる手法を説いた一冊だ。著者のポール・ルイ・イスケ氏は、オランダのマーストリヒト大学ビジネス・経済学部の教授であり、オープンイノベーションとビジネスベンチャリングを専門とし、同学の「輝かしい失敗研究所(Institute of Brilliant Failures)」でCFO(Chief Failures Officer:最高失敗責任者)を務めている(本書執筆時点)。

本書によれば、輝かしい失敗とは、単純な過失や犯罪のことではなく、価値を生み出そうとしたものの本来意図した結果が出せなかった試みを指し、失敗の当事者である人・組織にとってかけがいのない経験となりうるものであるという。また、輝かしい失敗は人や組織の成功・成長に向けた学習プロセスの根幹を成し、そこから学んだ教訓や学習経験は、ときとして、本来意図した結果以上の価値をもたらすこともあるとする。

ちなみに、輝かしい失敗の定義や、そこから学ぶことがなぜ大切なのかを分かりやすく伝える目的で、本書ではトーマス・エジソンの次の言葉を引用する。

(私は)1,000回失敗したのではない。1,000のステップを踏んだ発明が電球である。

要するに、輝かしい失敗とは偉大な成功に不可欠なステップ、あるいは学習・成長のためのプロセスでもあるというわけだ。

本書では、豊富な事例を交えながら、輝かしい失敗がなぜ生まれるのか、輝かしい失敗にはどのようなパターン(型)があるのか、人と組織は失敗とどう向き合うべきなのか、さらには失敗から学び、知的創造につなげるにはどうすればよいかが、以下に示す11の章(Chapter)を通じて展開されている。

  • Chapter1:「輝かしい失敗」とは何か
  • Chapter 2:失敗は私たちのDNAである
  • Chapter 3:複雑系が失敗を生み出す
  • Chapter 4 :イノベーションと起業家精神のための風土
  • Chapter 5:輝かしい失敗の「16の型」
  • Chapter 6:学習から知識創造へ
  • Chapter 7:失敗する前にシナリオに学べ
  • Chapter 8:安心して失敗できる場をつくる
  • Chapter 9:文化がもたらす失敗への影響
  • Chapter 10:「輝かしい失敗研究所」の活動
  • Chapter 11:実践的知恵としての輝かしい失敗

失敗から学ぶ実践手法を提示

失敗の原理や法則を扱った書籍は数多くあり、失敗から学ぶことの大切さもさまざまに唱えられてもいる。ゆえに本書の中には、既視感を感じる記述もなくはない。例えば、失敗の原理について言及している部分は、本サイトの書評でも紹介した書籍「失敗の科学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)とかぶるところが多い。

ただし、人・組織の成長・成功へとつながる失敗(=輝かしい失敗)にフォーカスを絞り込んでいる点はユニークであり、興味深い(ゆえに、人気の書籍「知的創造企業」/「失敗の本質」の共著者として知られる一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏も、本書を“明るい失敗の本質”と高く評価しているのかもしれない)。

また、先に本書には既視感のある記述がなくもないと述べたが、それを逆に言えば過去数年来、数々の書籍やメディアで論じられてきた「失敗から学ぶことの大切さ」「失敗を許容することの大切さ」についてまとめて学習(復習)できることでもある。しかも、事例も豊富であるので、輝かしい失敗とはどのようなものなのか、なぜ失敗が引き起こされたのか、それぞれの失敗から当事者が何を学んだのかが臨場感をもって理解することができる。

加えて、失敗を知的創造や発見、あるいはイノベーションにつなげるための方法論も解説されているほか、各章の最後には、章で解説された内容に基づいて演習(プラクティス)を行うためのヒントも記載されており、実践的でもある。