アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。コーチングの専門家であるパトリシア・オモクイが、チームでの心理的安全性を確保するための術について説く。

個々のメンバーに興味・関心を持つ

チームのリーダーが、メンバーの脳を安心した状態にするうえで大切なことは、神経科学について学び、それを自分の意識改革やマネジメントに活かすことと、メンバー各人に対して関心を持ち、本当に理解したいと思うことだ。人は自分に対して関心が向けられていることを敏感に察知し、自分に興味・関心を持った相手に対して安心感を抱くからである。

以下では、上記の作業をより実践的なステップとして示す。今後の参考にされたい。

ステップ1: SCARFモデルを使い、自分とメンバーの意識の状態をチェックする

NeuroLeadership Instituteでは、人のSCARFの状態を評価するためのツール(英語版)を無償で提供している。このツールを使い、まずは自分の意識の状態をチェックすることをお勧めしたい。これにより、5つの要素(つまり、SCARF)のどれが、仕事における自分の行動にどのような影響を与えているかをとらえることが可能になる。また、チームにも同ツールによる自己評価を実施させる。そうすれば、メンバーの全員がそれぞれ、自分の心理的安全性を阻害している要因について理解を深められるようになる。

ステップ2: メンバー各人の傾向をとらえる

今週行ったチームミーティングやメンバー各人との1on1ミーティングを振り返り、メンバー各人との対話のダイナミズムについて確認する。それを通じて、チーム内の誰が、自分の意見や思いをあなたと共有するのを躊躇(ためら)っているのか、あるいは、不快に感じているのか、また、そうした感情・行動はSCARFのどれをトリガーにして引き起こされているかを分析する。

ステップ3: 自分のパターンとトリガーを見つけ出す

人には、自分なりの定型パターンがある。そのパターンを探求すると、特定の事象によって同じ行動を幾度も繰り返していることに気づくはずである。それに気づいたら、1日の終わりに同じ行動につながった事象が何であったかを、数日間記録してみる。そのうえで、同じ行動につながった状況を追体験する。これにより、脳内に新しい神経経路が出来上がり、次にその状況と対峙した際に、より良い行動をとる準備が整えられることになる。

なお、特定の事象に対するあなたの反応・行動の変化が、周囲を驚かせる可能性もある。チームリーダーの変化に応じて周囲も変化する点は留意されたい。

ステップ4: 好奇心を持ち続ける

チームリーダーにとって明るく、謙虚でいることは重要であり、自分はメンバーに何が起きているかを知っていると思い込まず、好奇心をもってメンバー各人のことより深く理解する努力を払うことが大切である。言い換えれば、メンバーの発言・行動から各人の評価を下すのではなく、なぜ、そのような発言・行動に至ったのかの理由を突き止めることに力を注ぐ。その際には「あなたにとっていまの最大の懸念事項は何なのか」「どうすればあなたをサポートできるのか」といった質問を投げかけるのが有効である。

ステップ5: 沈黙を受け入れて発言を乞う

上記のステップを踏んだとしても、ミーティングの際などに、あなたにとって受け入れ難い沈黙がチーム内で発生するかもしれない。深く呼吸し、まずは沈黙を受け入れる。そして次のように発言を乞うのである。

「これはあまり愉しい話ではないかもしれないけれど、私はみんなの意見を心の底から聞かせて欲しいと思っている。チームの問題は全員で解決すべきことで、そうでなければ一緒に働く意味が
ない。声を挙げるのはなかなか勇気のいることかもしれないが、このテーマについてオープンに対話したいし、そうしてもらえると助かる」

こう言っても沈黙がなかなか破られないとすれば、それは心理的安全性の欠如が深刻なレベルにあると考えたほうがよい。即刻、メンバーとの信頼関係の構築、ないしは強化に向けて動き始めるべきである。最も手早い方法は、1on1ミーティングの頻度を上げることである。そのうえでメンバー各人を勇気づけ、それぞれの意見に真摯に耳を傾けるようすれば、メンバーはリーダーに対する信頼感と安心感を増し、最終的にはチームミーティングの場でも安心して自分の主張を繰り広げられるようになるのである。

筆者プロファイル
パトリシア・オモクイ:プリンストン大学卒の元プロバスケットボール選手。主として経営層・中間管理職層のコーチングを専門とし、リーダーシップ開発とポジティブ心理学のコンサルタントとして20年以上の経験がある。