ステップ3: 異なる見解を探し当て戦略を調整する
競争戦略を策定するうえで絶対にしてはならないことは、過去の成功体験に基づいて戦略を定め、かつ、そうすることを安全策と見なすことである。変化の激しい今日では、昨日まで通用していた戦略がいきなり通用しなくなるようなことがいつでも起こりうる。それを前提に、新しい境地を切り拓く意識をもって競争戦略の策定に臨むことが重要である。
また、集団思考に陥ることも避けなければならない。そのためにも、さまざまなバックグラウンドやスキルセットを持つ人から意見を収集することが大切だ。前出の「ポッドキャスト」の競争戦略であれば、マーケティング部門、プログラム管理部門、経営層から人を集めてワーキンググループを組織することで、視点の多様性を確保できるはずである。
ちなみに、私が以前、戦略策定のワーキングループを組織した際には、メンバーの各人にそれぞれに戦略を策定してもらい、それを売り込むピッチ(短いプレゼンテーション)を作成してもらった。そして、ピッチに対する評価に不要なバイアスがかからぬよう、ピッチを匿名化したうえで共有し、議論して投票し、優れたアイデアを選り抜いた。また、それと並行して戦略のアンカーとして機能する原則と信条を定義するために多くの時間を費やした。「ポッドキャスト」の競争戦略の場合であれば、アンカーとして機能しうる原則・信条は次のようになる。
1. 今日、多くのチームが完全な分散型、ないしはリモートワーカーとオフィスワーカーが混在したハイブリッド型で仕事をこなしている。そして、すべてのチームは、チームとして機能するために“儀式”や“プラクティス”など、人と人とを結束させる何かを必要とする。そのニーズは、アトラシアンの強みとなる。
2. チームワーク(特に分散型チームにおけるチームワーク)を良好に保つためには、適切な製品とプラクティスが必要であり、プラクティスを正しく行う難度は高い。
ステップ4: シンプル化を徹底する
最高の戦略は明快でわかりやすい。そして、わかりやすい戦略とは、フォーカスが絞り込まれている戦略を意味している。ちなみに、イギリスの著名な法制史学者フレデリック・メイトランドは次のように述べている。
「シンプルさは大仕事の最終結果である。それは始まりではない」
この言葉は、私が経験してきた競争戦略策定のプロセスそのものと言える。さまざまなアイデアを、相当の時間をかけて検討し、最終的にフォーカスすべきポイントを絞り込み、戦略を徹底的にシンプル化する──。それによって優れた戦略が完成するのである。
また、戦略のシンプル化によって「成すべきこと」を絞り込んだ際には、併せて「行わないこと」を明確にしておくことも重要となる。例えば、「ボッドキャスト」の戦略であれば「私たちは、オーディオコンテンツにフォーカスを絞り込んでおり、いまのところ動画コンテンツは戦略の対象外となる」といった具合だ。
会社のリソースは有限であり、すべてを一挙に行うことはできない。ゆえに、戦略を策定するうえでは意図的に何かを切り捨てなければならず、それを理解しておくことでフォーカスの絞り込みとトレードオフの作業がスムーズになる。
ステップ5: テストし、振り返り、調整する
戦略を文書としてまとめたのちには、勝利の道筋を見出すまで、テストと振り返り(レトロスペクト)、調整のプロセスを繰り返すことが必要とされる。
振り返りは、チームで推進している物事について何が機能しているか、何が機能していないか、何を調整する必要があるかを洗い出すための有効な手立てである。プロジェクトの振り返りは2週間ごとに行われるのが一般的と言えるが、戦略の振り返りについては、テストの内容によって毎週ペースで行うのが適切な場合もあれば、毎月のペースで行うのが適切な場合がある。
競争戦略はハードであり、まやかしではない
アトラシアンで競争戦略の策定に携わる以前、私にとってその仕事はあまりにも謎めいていて「家具の組み立て」や「巻き髪」と同じように「自分にはうまくでない」という劣等感を抱く対象の作業だった。
ただし、言うまでもなく「家具の組み立て」や「巻き髪」などとは異なり、競争戦略の策定は、自分が所属するチーム・組織・会社、そして自分自身が変化の激しい市場で勝ち残るための重要な取り組みである。ゆえに、それを任されたときには「不器用な自分にはできそうにない」「自分には優れた戦略を立てる才能はない」などと言ってはいられない。文字どおり全力でそれに取り組む必要があり、また、そうする価値が競争戦略の策定という仕事にはあるのである。
私にできたことが、あなたにできないはずはない。よって、戦略的なプロジェクトを任されたのであれば、何も怖れずに立ち向かうことをお勧めする。また、適切なテンプレートと信頼の置けるチームメイトがあなたのそばに存在するならば、戦略策定に関するあなたの可能性に限界はないと言える。競争戦略の策定はハードな仕事だが、決してまやかしではない。ぜひ、挑んでいただきたい。