アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアンのソフトウェアデザインマネージャー、マティアス・シュレック(Matthias Schreck)が、自分のキャパシティを超えた仕事量をオーバーワークに陥ることなくこなす方策を紹介する。

仕事の優先順位づけと整理整頓における留意点

本稿では、仕事の優先順位を最適化する方法について詳しく論じるつもりはない。ただし、ご参考までに仕事の優先順位を決めるうえでの要点について簡単に触れておきたい。

まず、仕事の優先順位づけを行ううえでは、仕事の「重要性」と「緊急性」の2点が最も重要なポイントとなる。そして、この2点を測るうえで考慮すべき点となるのが以下のような事項となる。

  • 仕事の依頼主は誰か。
  • その仕事の目的は何か。
  • その仕事は、どのプロジェクトに属する作業であり、プロジェクトの目標達成にどれほど貢献するのか。
  • その仕事のフォーカスポイントはどこにあるのか。
  • その仕事の難度はどの程度か。
  • その仕事に対する個人的な興味・関心・メリットはどの程度か、など。

仮に、あなたの会社の組織構造が完全な縦割り型で、チームのメンバーは所属チームの仕事をこなしているだけで良い場合には、上記のポイントに対する答えは比較的容易に導き出すことができる。それに対して、特定の機能を持ったチーム(例:デザイン)と事業部(例:Marketplace – アトラシアン製品に追加して使用するアプリを配布するプラットフォーム)がマトリックス化された組織の中で働いている場合、仕事の優先順位を決める交渉相手も複数となり、合意形成の難度が上がることになる。チームAから依頼された仕事は、そのチームにとっては最優先であり、チームBにとって最優先である別の依頼を引き受けるために引き下げるといった交渉をまとめるのは非常に難しい作業なのである。

とはいえ、すべての交渉をオープンに行うことで適切な解決策が見いだせるチャンスは十分にある。例えば、一部の作業をチームメイトに委託したり(これにより委託先のチームメイトの業務量を調整する必要があるものの、その方が簡単な場合がある)、交渉相手に期日の延期をお願いしたり、要求される品質を下げてもらうことが可能になる。

「交渉を行う」vs.「仕事を断る」

以上のように自分のキャパシティを超える仕事を新規に引き受けるにあたっては、仕事の依頼主との交渉に相応の手間がかかることが多い。

ゆえに、ビジネスパーソンの中には「そのような手間をかけるぐらいなら、仕事を断ってしまったほうが良いのではないか」と考える人もいるだろう。

しかし、単純に仕事を断るのと交渉を行うのとでは、もたらされる結果に大きな違いが出る。

例えば、自分のキャパシティを超えた分の仕事はすべて断るというスタンスをとった場合、あなたの仕事に対する周囲の理解は深まらない。それに対して、仕事を引き受けることを前提にスケジューリングの交渉に臨めば、仕事の依頼主はあなたがどのような状況に置かれているかの理解を深めることができる。これは、組織運営のあり方を適正化させるうえでも大切なことだ。

実のところ、会社のマネジメント層にとって、従業員一人一人の働き方を常にウォッチし続けるのは不可能に近い。そうした中で、自分というプレートの上にいま、どのような仕事・ミッションが乗せられているかをオープンにしながら、仕事の依頼主たちと仕事の優先順位について話し合う機会を設けることは、あなたの仕事量やミッションに対する再考を促すうえで有効と言えるのである。

また、あなたに仕事を依頼する人は、追加注文がどの程度の金銭的な価値を生むものであるかを知っている。したがって、あなたの仕事の優先順位づけが費用対ベネフィットに基づいていると、仕事の依頼主たちは自分の追加注文の優先順位をどうすべきかの判断がしやすくなるかもしれない。

いずれにせよ、ビジネスパーソンが自分のプレートに多くの仕事・ミッションを乗せ過ぎてしまう理由を突き詰めていくと、ほとんどの場合、その人のキャパシティや現在抱えている仕事についての情報が足りていないマネジメント層の存在にたどりつく。したがって、自分のキャパシティを超えたところで新規の仕事の依頼を受けたときには、自分のマネージャーとミーティングを持ち、仕事の優先順位についてのコンセンサスをとることを忘れてはならない。また、マネージャーとの対話を通じて、自分に対して会社が期待する仕事の処理量と現実とのギャップを調整することも重要と言える。

疲弊を避けるためのレベル別取り組み

以上、仕事の依頼を断らずに、オーバーワークを回避するための方策について述べてきた。ただし、現実には、上記以外にも成すべきことはいくつもある。そこで以下では、私の過去の失敗経験も踏まえつつ、新しい仕事を依頼されたときの心構えについてまとめておく。ちなみに、以下に示す事柄の中には実践の難度の高いものがある。難度を表すレベルも併せて参考にされたい。

レベル1: マネージャーがトレードオフの議論を主導する

チームを率いるリーダー(マネージャー)が成すべき重要な仕事の一つは、時間をかけてチームに投資をして保護することである。したがって、チームが疲弊しないよう仕事の優先順位づけを適切に行い、トレードオフをサポートし、チームとして引き受けない(引き受けたくない)仕事がある場合にはそれを上層部にしっかりと伝えて了承を取り付けなければならない。また、この責務を正しく履行するために、マネージャーは以下の質問をチームに投じることを忘れてはならない。

「仮に、この仕事をチームで引き受けた場合、アウトプットの品質を適正に保つためにどの仕事を切り捨てる必要があるか」

私はこの質問を自分のチームに対して投じることを幾度か忘れてしまった経験がある。そのようなミスは犯してはならない。

レベル2: 自分の専門領域のタスクを重視してしまう悪癖に打ち勝つ

ビジネスパーソンの悪い癖の一つに、自分の得意分野、あるいは専門分野の仕事を重視しがちになることがある。私の場合は、デザインに関する仕事を優先しがちで、デザインとは直接関係のない作業──例えば、人材採用などに関する作業をついついなおざりにしてしまうことがよくある。ただし、場合によってはデザインの仕事よりも、人材採用の優先度のほうが高いことがある。よって、自分の専門分野の仕事を重視しようとする衝動を抑え込むことが大切と言える。

また、事業部の規模が大きいと、ビジネスを成功させるために必要な事柄のすべてに精通することが難しいケースもある。そのような場合も、人は自分の専門領域の仕事を無意識のうちに重視しようとするので留意されたい。

さらに企業の上層部は、マトリックス化された組織が一人ひとりのメンバーとマネージャーに与える重圧の大きさを過小評価しないほうが賢明と言える。例えば、私がマネージするデザインチームは複数の事業部に組み込まれているが、機能部門の一部でもある。その2つの役割のバランスをとるのは、かなり難度の高いマネジメントと言い切れる。

レベル3: 在宅勤務体制がキャパシティに与える影響を考慮する

在宅勤務が仕事のキャパシティにどのような影響を及ぼすかは人によってさまざまである。私の場合、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が流行する以前は、在宅勤務をした経験がなかった。ゆえに、コロナ対策として在宅勤務を始めた当初、生産性の落ち込みが激しく、現在のキャパシティもオフィスで働いていたころよりも小さくなっている。仮に、あなたが私と同じような影響を受けていると感じているならば、マネージャーと率直に話し合ったほうが良い。

レベル10: 沈黙を守ることがベストの場合があることを理解する

自分のキャパシティを超えたところの仕事であっても、自発的に手を上げる場合は引き受けることを厭(いと)わない人が多い。ただし、手を上げる前に、それを引き受けることで現在抱えている仕事にどのような影響が出るかを考慮したほうが無難と言える。

それでも、呼びかけに対して周囲が沈黙していると、その気まずさに耐え切れなくなることがある。そのようなときには、手を挙げつつも、仕事を引き受けることで、いま抱えている何らかの仕事を切り捨てることになると正直に宣言すべきである。

なお、デザイナーとデザインチームのマネージャーとを兼務する私は、想定外の新しい仕事を任されることが非常に多くなっている。参考までに、そうした状況が何によって生まれているかについて以下に付記しておく。

  • マトリックス化された組織の弊害:事業部が私に何かを期待する時、デザインチームは別の何かを依頼してくる。事業部とデザインチームは、それぞれ異なるタイミングで、違う方法で計画を練っている。
  • 発見の連続:仕事を通じて新しい洞察がさまざまに得られたが、同時に、予測も計画もしていなかったことへの配慮が要求されている。
  • 人をマネージする役割での難しさ:採用面接、メンバーに影響を及ぼす問題への対処、組織再編など、すべて対処が必要とされるが、その作業がいつ必要になるかの予測・計画を立てるのは難しい。

もちろん、新しい状況や仕事に対応すること自体はビジネスパーソンにとって決してネガティブなことではなく、むしろ歓迎すべきことである。問題なのは、自分のプレートがすでに満杯の状態にあり、そこに仕事を一つ追加するだけでオーバーワークに陥り、ワークライフバランスが崩壊の危機に瀕することである。そのような事態を避けたいと考えるならば、本稿を読み返していただきたい。

人をマネージする立場の難しさ:採用面接、メンバーに影響を及ぼす問題への対処、組織再編など、すべて対処が必要とされるが、その作業がいつ必要になるかの予測・計画を立てるのは難しい。