アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。同社の取り組みから、“リモート・オンボーディング”成功の要件を導き出す。リモート・オンボーディングとは、オンラインで面接を行い、入社し、テレワーク のまま会社の一員として活躍するまでの道のりを指す。

要件1: 必要なハードウェアをスムーズに提供する

リモート・オンボーディングのプロセスで重要なステップの最初一つは、新入社員に対してリモートワーク用のPCを提供することである。

「これは簡単そうに思えるでしょうが、オフィスで作業ができない中で実行するには工夫が必要です」と、アトラシアンのWorkplace Productivity担当マネージャーであるアダム・フローレス(Adam Flores)は指摘する。彼は、コロナ禍の影響からアトラシアンがオフィスを閉鎖した際、社員のリモートワーク環境を急いで整える必要に迫られた。

「リモートワーク環境を整えると言っても、アトラシアン社員には在宅勤務の経験者が多く、ほぼ全員が自宅にネットワーク環境があったので、彼らの必要に応じてノートPCを調達して送るだけのことでした。通常であれば、それは難しい仕事ではありません。ただし、オフィスの閉鎖が決まったのが急だったこともあり、調達したPCをどこにストックして社員に配送するかを検討し、体制を整える余裕がありませんでした。そのため、全社でリモートワークを始めた当初、私を含めてチームの全員が、各人の自宅の一室を“PCの倉庫兼配送センター”として使わざるをえなくなり、私の場合で約80台のPCを自宅の客室にストックして、そこから各社員のもとに郵送していました。正直、大変でしたね(笑)」(フローレス)。

言うまでもなく、このような状態を長く続けるわけにはいかない。そこでフローレスのチームは、社員用に調達したPCのストックとキッティング、管理、配送までを信頼のおけるサプライヤーに担ってもらうことにした。今日では、そのサプライヤーが新入社員にPCを直送している。

要件2: 適切なガイドを提供する

リモート・オンボーディングでは、新入社員が「道に迷う」ことがないよう、適切なガイドを用意し、提供しなければならない。

アトラシアンの場合、コロナ以前からフルタイムのリモートワーカーで構成されたチームが存在し、そのチームではリモートでチームに参加した新入社員用のガイドブックをすでに有していた。それに多少の肉付けを行ったものが、アトラシアンが現在使用しているリモート・オンボーディング用のガイドブックだ。

「このガイドブックは30ページ構成のPDFドキュメントを中心にしたもので、そのドキュメントにはPCを業務用にセットアップする手順が示してあります。これに従ってアトラシアンの社内システムにアクセスできるようになると、仕事用の環境をきわめて簡単に整えることが可能です」(フローレス)。

要件3: ITチームを“会社の顔”として機能させる

フローレスによれば、リモート・オンボーディングのプロセスではITチームが“会社の顔”として機能することになるという。

「リモート・オンボーディングで入社した新入社員が最初に接する相手はITチームであり、入社後の1週間、最も頻繁にやり取りするのもITチームです。ゆえにITチームは、“会社の顔”としてしっかりと機能できるように準備しておくことが大切です。要するに、新入社員から尋ねられるであろうすべての質問に即答できるようにしておくことが重要だということです」(フローレス)。

要件4: 過剰に近いコミュニケーション

「リモート・オンボーディングを成功させる要件の一つは、計画された密接なコミュニケーションです」と、アトラシアンのオンボーディング担当タレントリードであるニッキー・ベリントン(Nicki Bellington)は指摘する。

「リモートでの新入社員とのコミュニケーションは、料理を作るためのレシピやガイダンスと同じで、説明は詳しければ詳しいほどよく、対話の頻度は多ければ多いほど良いと言えます。実際、アトラシアンでは、チャットツールのSlackや情報共有・コラボレーションツールのConfluenceを仕事で日常的に使用していますが、新入社員の全員がそれらのツールを使った経験があるわけではありません。なかにはMacを使ったことのない人もいます。そうした点を加味してコミュニケーションを設計する必要があるといことです」

要件5: 新入社員への情報の過負荷を避ける

上述したとおり「過剰に近いコミュニケーション」は必要であるものの、それによって新入社員に負荷をかけ過ぎないようにすることも大切であるとベリントンは言う。とりわけ、ZoomなどのWeb会議システムを通じた仕事上のコミュニケーションは、人に相応の負荷をかける。

「ゆえにアトラシアンでは、新入社員が働き始めてから最初の数日間は、Web会議の時間に制限を設けて、働き始めるうえで必要不可欠な情報だけを伝えるようにし、足りない情報はSlackで補うようにしています。大切なことは適切な情報を適切なタイミングで漏らさず提供することです。大切な情報ではあるものの、入社初日や二日目の社員には不必要と思えるものはあとから伝えればいいということです」(ベリントン)。

要件6: チームメイトの力を最大限に活用する

アトラシアンでは現在、「Donut」と呼ばれるSlackのアドオン機能を新入社員育成の目的で試験的に活用している。

「この試みは、Slackを通じて新入社員とベテラン社員とのつながりを深める取り組みで、2週間ごとに新しい人とのペアリングがランダムに実行されます。これにより、新入社員は組織内のさまざまな人と知り合うことができ、働くうえでのコツを早期につかむことができると期待しています。ちなみに、Donutの社内での評判は良好です」(ベリントン)。

要件7: マネージャーにもガイドを提供する

言うまでもなく、アトラシアンがリモート・オンボーディングのプロセスを全社的に始動させた当初、そのプロセスに慣れたマネージャーは社内にほとんどいなかった。そのため、マネージャー用にもガイドブックを作成して配布したとベリントンは振り返る。

「このガイドブックは、オンボーディングプロセス中の新入社員に対して、どう導くのが適切なのか、どのような質問にどう答えるのが適切なのかをまとめたものです。その内容をベースに、マネージャーが新入社員を受け入れる際のチームのトーン設定し、プロセスを淀みなく回せています」

要件8: チーム内のつながりを意図して築く

前述したとおり、リモート・オンボーディングで入社した社員に対しては、チームに歓迎されていると感じさせることが重要であり、それにはチーム内の人と人とのつながりを維持・強化する取り組みを意識して行うことが必要になるとフローレスは指摘する。

「たとえば、私のチームでは、新入社員の入社後数週間をかけて自分たちの目標や目標の達成に向けてどのように取り組んでいるかを詳細に説明します。その後、週1回の頻度でコスチュームパーティーや雑学クイズ大会といった懇親会をオンラインで催し、チームの絆(きずな)の維持・強化に努めています」(フローレス)。

要件9: チーム全員の情報をオープンに共有する

アトラシアンが提供している「Team Playbook」には、チーム内コミュニケーションの活性化や課題の解決、チームの創造性向上に役立つ無料のワークショップやリソースが含まれている。ベリントンのチームでは、このTeam Playbookを、新入社員とチームのメンバーが互いに知り合うためのツールとして有効に活用しているという。

「Team Playbookには、チームで働くメンバーの『ユーザーマニュアル(=メンバーの使い方が記されたマニュアル)』があり、そこには各人の『仕事のやり方』『好きなこと』『イライラするもの』などが記入できます。そのマニュアルをメンバー全員でオープンに共有することで、新入社員はオフィスでやり取りするよりも、より早く自分のチームメイトのことを知ることができます」(ベリントン)。

さらに、ベリントンはこう付け加える。

「動植物を強く育てるには、そのために必要な食物・養分をしっかりと与えて、世話をしなければなりません。それは新人の育成も同じことで、私たちが日々目指していることでもあるのです」