「行き詰った資本主義社会」が変わる兆し

コロナ禍をきっかけとして社会の在り方が大きく変わろうとしている。そういった変化に対して、我々はどのように臨むべきなのだろうか。

目まぐるしく変わっていく世界に対して、どう向き合い、チャンスをつかめばよいのか示唆を与えてくれるのが本書だ。筆者は未来創造企業プロノイア・グループを率いるピョートル氏。プロノイアとはギリシア語で「先読みする」「先見」を意味する。

本書は、著者の考えの記述とそれに関連するインタビューで構成されている。インタビューの対象として、さまざまな分野からパラダイムシフトを実践するリーダーたち21名が選ばれている。企業経営者や投資家だけでなく、教育委員会教育長やジュエリーコレクタ、さらには動物園経営者といった、この種の書籍では取り上げられることのない職種が入っている点がユニークだ。

まず、本書では「行き詰った資本主義社会」を取り上げる。格差や環境問題など、これまでの資本主義がうまく機能しなくなってきた。そこで競争で成り立つ現在の資本主義に代わるシステムが必要であり、そのためのパラダイムシフトが求められている。

一方、シェアリングエコノミーやブロックチェーンの活用といった新しいビジネスモデルが登場し、社会の価値を起点にビジネスを起こし、資本やアイデアを独占することなく共同体として社会課題の解決に取り組む兆しが見えている。例えば、あすかホールディング会長 谷家衛氏はインタビューで、「より多くの人が幸せと思える場所をつくるもの」に投資をしたいと語っている。

パラダイムシフトへの適応は避けて通れない

次に、新型コロナウイルスの蔓延は、パラダイムシフトのきっかけの1つになることを説明する。地球にとって人類が生存し続ける意味という大きく本質的なテーマに立ち返って考えれば、パラダイムシフトの不可避性と必要性も明らかになる。

スカイプの共同創業者 ヤン・タリン氏はインタビューで、人類を一掃する可能性のある最大のリスクとして「①生物学的リスク、②AI、③未知の未知」の3つを挙げる。また、C Channelの社長 森川亮氏は「変わる状況を止めることはできない。変化は強みにするべきだ」と強調する。

変化の振れ幅やインパクトが大きく、速いスピードで状況が代わっていくときには、様々なバイアスの存在を意識したうえで、自分の状態に気付くことが重要となる。

NTTドコモ・ベンチャーズの社長 稲川尚之氏はインタビューで、「働き方改革や技術革新を伴う大きなパラダイムシフトが起こり、それに適応することで、より心地よい世界ができる」と語る。エストニアのジョバティカルの創業者 カロエイ・ヒンドリックス氏は、「強いチームというのは、ともに働きながらそれぞれが自分の状況を確かめ、その都度、テコ入れできる組織のことだ」と指摘する。

協業により新たな価値創造を目指す

続いて、本書では「働く」の意味を問い直す。仕事というアウトプットを生み出すために自分に最適な働き方をプログラム化する。それが本来の働き方となるはずだ。

サイボウズの社長 青野慶久氏はインタビューで「人間の幸福より企業理念が優先されることなどあってはならない。企業理念ごときが子育てよりも優先されるはずがない」と語る。

そして、ポスト資本主義の時代には、競争により利益追求を目指すのではなく、協業により新たな価値創造を目指すようになる。freeeのCEO 佐々木大輔氏は「新しい価値観に出会うということは、本質に還るということなのではないか。本質に還るということ自体、新しいやり方、それまで使っていなかった技術なりと向き合うことで初めて可能になる」とインタビューに答える。

働くことは自己実現の大事なプラットフォームだ。価値を生み出し、社会に提供し、その一方で、また次の価値の源泉となる学びや成長、やる気や充足感を得る。そのサイクルこそ、働く本質だ。

人は幸せに働くためには自己実現が不可欠

本書は「学び」についても触れていく。ビジネス構造が大きく変化する中で求められるのは、これまでにない発想を持ち込んでくれる人材だが、こうした変化が、学びのパラダイムにも大いなる刺激と変容をもたらす。

広島県教育委員会教育長の平川理恵氏はインタビューで、コロナ禍は「個々に最適化された学び、アダプティブな学びができる時代になるきっかけになるのではないか」と指摘する。

そして、人は幸せに働くためには自己実現が不可欠だ。TimeLeapの代表 仁禮彩香氏は「人類の生きるプロセスに貢献できるもの、自分が心から共感できるもの、かつ今後の自分に役立つ学びがあるものという観点で仕事を」しているという。

さらに、本書はコロナ禍によるリモートワーク体験により大都市集中から地方回帰が起きている点についても取り上げる。スノーピークビジネスソリューションズ代表の村瀬亮氏はインタビューで、自然とテクノロジーの2つを融合した人間性の回復を目指しているが、「合理性だけでなく、人としてどうあるべきか、コミュニティって一体何だろう、関係性ってどういうことなのだろうかといった根本的な問題をきちんと考えることが大切」だと説明する。

これから求められるのは、機能的な思考から多様性の思考への移行。つまり、学び、遊び、働きの境を超えた新たなコミュニティの形成だ。

自分の軸をしっかり持って常に変化に構える

以上のように、本書では、パラダイムシフトを既に実践している識者のインタビューにより、パラダイムシフトの必要性と課題が示されている。それは現在の困難な状況を打破したいと考えている読者に勇気を与え、先へ進むための指針となるに違いない。

ただ、インタビューで幅広い業種・職種の識者たちに話を聞いているが、いずれも広い意味ではパラダイムシフトに関連する内容ではあるものの、あまりに幅を広げすぎた感があるように受け取る読者もいるかもしれない。そうはいっても、本書が示した「自分の軸をしっかり持って常に変化に構えていられることの重要性」は読者にとって有益な知見となるだろう。

著者   :ピョートル・フェリクス・グジバチ
出版社  :かんき出版
出版年月日:2020/12/2