地域コネクティッドは道州制単位の経済圏で

サツドラHDが掲げる地域コネクティッドビジネスは、どのような発想から生み出されたのか。最初の取り組みは14年の北海道地域の共通ポイントカード「エゾカ」の立ち上げだった。買い物でたまったポイントを、現金の代わりに利用できるほか、共通お買い物券などに交換できる。
エゾカの活用は年々広がり、自治体とタイアップして子育て世帯への特典を提供するほか、サッカーJリーグの北海道コンサドーレ札幌など、スポーツチームとコラボしたカードも用意。発行手数料や利用額の一部をチームに還元させる仕組みを作っている。現在ではドラッグストアと並び、事業の大きな柱に育った。
エゾカを運営している子会社をリージョナルマーケティングと名付けたが、この社名には「地域コネクティッドビジネスへの思いを込めた」と富山社長は語る。
「リージョナルの意味はローカルでもナショナルでもない、地域の生活圏の単位です。日本では今後、道州制の単位程度の経済圏を作っていく必要があるのではないでしょうか。市町村単位では成り立たないけれど、北海道の規模であれば経済圏として成り立ちます。北海道を全国のモデルケースにしようという思いを込めて、あえて社名にも北海道とは入れずにリージョナルマーケティングと名付けました」
エゾカはドラッグストアとともに、サツドラHDが目指す「地域のOS」のベースになる。もともとドラッグストアとしての知名度がある中で、エゾカや教育事業を面として広げていく。あくまで経済の側から地域づくりをしていく発想だ。
「大阪や福岡などは行政が引っ張っている感じを受けますが、本来は民間企業が地域を引っ張っていくべきではないかと思っています。特に新しい分野を生み出す時にはスピードが重要で、民間の方がやりやすいのではないでしょうか。地域の民間企業が経済圏を形成して、もし乗っていただけるのであれば、自治体は後から乗ってきてもらえればと考えています」

北海道コンサドーレ札幌をサポートするプログラム「コンサドーレEZOCA」

ビジネスとしてのマネタイズとエコシステム

北海道の広い経済圏で地域コネクティッドビジネスを展開すると、投資にはかなりの費用がかかる一方、利益を生み出すのは難しいのではと疑問が湧く。しかし、富山社長は「あくまでビジネス戦略として進めています」と胸を張る。

「地域コネクティッドビジネスを進めることは経営面でも意義があります。地域の生活インフラを担っている業者だからこそ、還元モデルが成り立つと考えています。

確かにエゾカはポイントカード事業だけで考えると非常に薄利です。大手のポイントカードに比べると、半額くらいの手数料で提供していますし、地域の企業も高い手数料は払えません。

ただ私たちには、利益が薄くても、面を広げることによって経済圏を広げれば、ドラッグストア側でマネタイズできるモデルがあります。エゾカをブロックチェーン技術でデジタルコイン化するプロジェクトも進めています。人もデジタルもつながることで、エゾカのデータを生かした循環モデルが実現できると考えています」

教育事業についても子会社のシーラクンスを立ち上げると、すぐにビジネスとして成立させた。シーラクンスではデジタル社会に通用する人材の育成を目的に、幼児からシニアを対象とした「D-SCHOOL」などを道内で展開。北広島市の札幌日本大学学園とはパートナーシップ提携を締結し、21年度の中学校のプログラミング教育必修化に向けて共同でカリキュラムを作成している。

また、恵庭市の北海道テクノロジー専門学校ともIT人材育成のために提携し、共同で講師の派遣やイベントなどを企画。シーラクンスの小中学校向けのプログラミング教室を専門学校で実施し、専門学校の学生が講師をするというエコシステムも構築した。

「学校との連携もビジネスとして実施しています。北海道内でIT人材が育ってくれば、地場企業からも人材が欲しいという声が出てくるでしょう。シーラクンスは人材事業も展開しているので、そこでもマネタイズができます。教育事業に厚みが出ることで、新社屋のシェアオフィスも満室になりました。地域コネクティッドビジネスは、一石何鳥にもなっていると思っています」

小売業は単一事業では残れなくなる

富山社長は札幌などの都市部だけでなく、町村や離島も含めてビジネスの面を広げている。過疎地域といわれるような場所であっても、地域コネクティッドビジネスが貢献できることは「まだまだある」という。

「25年には北海道内の179市町村のうち、50%以上の自治体が人口5000人以下になります。5000人以下で成り立つ小売業がどれほどあるでしょうか。小売業だけでなく、全てのサービス業、行政インフラ、生活インフラも成り立つものは少ないでしょう。

人口減と高齢化率の上昇といった課題を解決しようと考えたときに、『選択と集中』というような言い方をする人もいますが、サービス業が単一事業で残るのは難しいと考えています。ではその町から人がいなくなるかといえば、そんなことはありません。医療、健康、移動、生活インフラなどの問題を全てつなげて、面で取り組むことによって、持続可能なまちづくりができるのではないでしょうか」

2050年代には日本の人口が1億人を切ると見られている。国は仮想空間と現実空間を融合させたシステムによって経済発展と社会課題の解決を図る「ソサエティー5.0」という考え方を提唱。サツドラHDは北海道から「ソサエティー5.0」を実践しようとしている。

「北海道は全国の中でもいち早く人口減と超高齢化が進んだ状態になります。日本の地方はどこも遅かれ早かれ同じ状況になり、多くの社会課題が顕在化するでしょう。ソサエティー5.0に私たちのビジネスがどうフィットするのかを見ながら進めていきたいですね」

いかに変化できる企業になれるか

サツドラの地域コネクティッドビジネスは、今後日本が抱える課題の解決を視野に入れている。その際に必要なのは、理解者や仲間を増やすことだ。

富山社長はメディアプラットフォームの「note」に、北海道経済コミュニティーの「えぞ財団」を立ち上げた。参加しているのは北海道内の企業のほか、自治体の首長や職員、医師、主婦などさまざまだ。オープンスクールの開催や、副業のプロジェクトなどの活動をしている。

特徴は、実際にプロジェクトを動かしている途中で情報発信を行うことだ。その情報を知った人がまたそのプロジェクトに集まってくる。大事なのは「フラット」で「オープン」であることだという。

「経済団体のようなものは別に悪いわけではないですが、誰かの講演を聞くためにスーツを着て集まって、名刺交換はするけれども、その後は何もしないこともありますよね。昭和時代にできた仕組みは、地域経済を動かすためには変えていかなければならないと感じていました。そのためにフラットでオープンなコミュニティーをつくっています」

では、同じ志を持つ仲間を見つけるにはどうすればいいのだろうか。コラボレーションの秘訣を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「草の根運動じゃないですかね。企業に対してだけでなく、これからは人に対して草の根運動をする必要があります。意思決定が遅く、新しいことを受け入れない人が多い企業でも、内部には共鳴してくれる人が必ずいるはずです。そういう人たちが企業を超えてつながっていくのではないでしょうか。

変わることができない企業は、中にいる人が飛び出しますよね。サツドラも変わらない企業になれば、変わらないことが好きな人が集まる会社になるし、変わろうとすれば、変わることに共鳴する人が集まるようになると思っています」

ドラッグストアから地域コネクティッドビジネスへと大きな転換を遂げているサツドラHDは、これからもさまざまなコラボレーションを進めていく。それは20年後、30年後の未来を見据えてのことだ。

「iPhoneが世の中に出てきて、まだ13年しか経(た)っていないことを考えると、どんな未来になるかは誰にも分からないですよね。その未来を生き抜くためには、いかに変化できる企業になれるかが必要なことだと考えています」

北海道を盛り上げたい企業や個人が、共に学び、行動していくためのコミュニティー「えぞ財団」(「えぞ財団