アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、Zoom社CIOへのインタビュー内容をレポートする。

サービスの爆発的な成長を支えたITリーダー

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響により、一躍、世界で最も有名なソフトウェアの一つとなったZoom。その開発・提供元のZoom社でCIO(最高情報責任者)を務めているのがハリー・モズリー(Harry Mosley)氏だ。

CIOの役割について知らない方がいらっしゃるかもしれないので改めて説明すると、CIOとは会社の情報化を担う役員を指し、会社のITチームはCIOの配下にある。ITチームの主な役割は、自社の情報システム/IT基盤の運用管理だ。

アトラシアンのWORK LIFE編集チームでは、今回のコロナ騒動が起きるちょうと1年前に当たる2019年3月に、モズリー氏にインタビューを行い、ITチームの役割をどのように変化させようとしているのか、また、アジャイルなチーム作りをどう進めているかについてお話を伺った。

それから1年強が経過した先ごろ、私たちは再度、モズリー氏にインタビューへの対応をお願いした。テーマは自社の爆発的な成長をITチームとしてどのように支えたかである。早速、モズリー氏との一問一答の内容をご紹介する。

サービス利用者が1日3億人規模に膨らむ中で

アトラシアン:Zoomを使って行われる会議への参加者数(延数)は2019年末時点で一日当たり1,000万人だったと記憶しています。それが、2020年4月時点で3億人と、わずか4カ月間で30倍に跳ね上がりました。このような爆発的な成長を、どの程度まで予測していたのでしょうか。また、急成長の初期段階で、どのような技術的および組織的な措置を講じていたのですか。

モズリー氏(以下、敬称略):おっしゃるとおり、2019年12月時点で1日当たり約1,000万人だった参加者数は2020年3月に2億人となり、4月に3億人へと増大しました。私たちは“メトリクス駆動型”の組織なので数値は常に観察しているのですが、伸び始めの当初は意外と緩やかな成長軌道を描いていました。それがのちに、まさしくロケットのようなスピードで上昇を始めたわけです。

もっとも、Zoomの構造は、オラクルやAmazonのクラウドプラットフォームの拡張性をフルに活かすかたちで、柔軟なスケールアップが行え、急激なビジネス成長をサポートできるように設計されています。ですので、構造を作り変えるような手間のかかる技術施策を講じる必要はありませんでした。

とはいえ、サポートチケットの数はかなり増加したので、ITチーム内の配置転換で、顧客に対するサービスレベルの維持・向上に当たる要員を増強したり、のちには、要員を外部から補充して、その新たなスタッフに対するトレーニングを毎週末行ったりしました。コロナの影響もあり、こうした要員の配置転換や増強、トレーニングの全てを、リモートで行ったのですが、それでやりにくいと感じたことはなく、逆に全てがデジタル空間の中で処理できたので楽(らく)でしたね。

いずれにせよ、当社に限らず、多くのテクノロジーカンパニーにとって、必要なときに必要なITリソースがスピーディに調達できるクラウドプラットフォームの活用は、ビジネスを成り立たせるための必須要件になっています。今回のケースも、クラウドプラットフォームの活用なしではまず乗り切れなかったでしょう。

また、私たちにとって幸運だったのは、ネットワークのキャパシティをきわめてスピーディに拡張してくれるパートナーに恵まれていたことです。彼らの偉大な働きがなければ、事態はもう少し深刻になっていたかもしれません。

子どもたちへの教育支援でもZoomのスケーラビリティが生きる

アトラシアン:Zoomの爆発的な成長が続くさなか、幼稚園・小中学校(K-12)の教育者に向けてZoomのライセンスを無償で提供するという施策も展開されました。この施策展開に向けて、技術面での準備はできていましたか。

モズリー:学校教育に対する支援は、私たちが非常に重視している取り組みです。実際、米国の大学の大半はすでにZoomを活用しているので、このエリアで必要とされるニーズを理解しています。幼稚園・小中学校の教育は、優れた人材の土台を形成するもので、教育の中でも特に重要なものです。ゆえに、私たちはK-12の教育者に対するZoomの無償ライセンスに踏み切ったわけです。

先に触れたとおり、クラウドプラットフォームのおかげで、Zoomのスケールアップは容易です。ですので、K-12の施策に乗り出すうえでも特別な技術施策は講じていません。もちろん、新たなサービスを始動させる際には、不測の事態が起きることを覚悟して臨まなければなりませんし、慎重さも大切です。ただし、子どもたちへの教育が絡む今回のケースについては、とにかく始めることのほうが重要だと考えました。

『Zoom爆弾』問題を迅速に解決したチームワークとは

アトラシアン:Zoomの急成長が続いた数カ月間、最も頭を悩ませたことは何でしょうか。

モズリー:それはやはり、Zoomのセキュリティとプライバシーについての情報がさまざまなメディアで報じられたことです。ただ、私たちがこの問題の解決に向けてとった行動は市場での高い評価が証明しています。実際に多くの組織が、私たちがどれだけ迅速にセキュリティ問題を解決したかについて評価のコメントを出しています。

加えて、私たちはすでに、異なる業界/地域の顧客企業で働くCISO(最高情報セキュリティ責任者)で組織された協議会を発足しています。本協議会は、プライバシー保護とセキュリティに関するアドバイスをまとめ上げ、当社に提出する役割を担ってくれる組織で、40名のCISOが参加しています。

アトラシアン:Zoomのセキュリティ問題は『Zoom爆弾』の呼称で、世間一般に広く知られることになりましたが、どのような体制で問題解決に当たったのでしょうか。ITチーム、製品開発、カスタマーサポート、PR・マーケティングなど、関係各チームがどのように連携し、迅速な問題解決につなげたかについて教えてください。

モズリー:このセキュリティ侵害は、Zoomだけではなく、どのビデオ(Web)会議プラットフォームでも起こりうる問題だったので、Zoom社内では『ミーティング破壊 (meeting disruption)』と呼んでいます。

この問題の解決に向けて、私たちがまず行ったことは、いくつかの機能の使用権限を高めて、会議のホストにしか使えないようにしたことです。例えば、会議のロック機能や、画面共有が行える参加者を制御する機能などがそれです。加えて、パスワードの管理機能を強化しましたし、暗号化のサービスを「AES 256 GCM」へとアップグレードしました。また、暗号化機能を強化するプロジェクトには、暗号学者のチームにも参加してもらいました。そして2020年6月には、全てのZoom利用者にエンドツーエンドの暗号化サービスを提供することを発表しました。当社が提供する暗号化サービスは、顧客企業を大規模にサポートできるフロントエンドサービスでもあり、その実現は非常に興味深い取り組みだったと言えます。

全社的な体制も、かなり機能的だったと言えます。もともと、当社はコラボレーションを組織文化として持つ会社なので、ITチームからPR・マーケティング、製品開発、カスタマーサポートに至るまで、全てのチームが関与し、相互に連携しながらことに当たりました。その中では、各チーム間でキュリティの強化と使いやすさのバランスをどうとるかについて活発な議論も交わされましたね。

Zoom自体のリモートワークはどうだったのか

アトラシアン:Zoom社では、コロナの世界的流行以前から、国をまたいだ分散チームで開発を行っていたと伺っています。コロナ対策で各国の企業がオフィス閉鎖を余儀なくされたとき、他社よりもスムーズな対応が図れたと感じていますか。また、全社員がリモートワークで仕事をするという経験から学んだことは何でしょうか。

モズリー:おっしゃるとおり、Zoomは世界各国に18のオフィスを構えていて、分散チームで仕事を行うことは私たちのDNAになっています。とはいえ、今回の件からは学びがありました。

学びの1つは、チームの全員がオフィスにいる、ないしは全員がリモートにいるとコラボレーションは簡単に行えるが、メンバーがオフィスとリモートに分散している“ハイブリッド”の状態になるとコラボレーションが難しくなることです。もっとも、私個人は、必要なときにだけチームに呼ばれて、仕事に巻き込まれるという状況にあります。私の立場上、それはしかたのないことで、最悪の状況ではないと言えますが、ときおり、『もっと頻繁に仕事に混ぜてもらいたいなあ』とは感じますね。

もう一つ、“完全リモート”の状態になって感じたことがあります。それは、この状態は全てをフラットにする効果があるということです。Zoomによる会議の場では、全員が同じ大きさで画面に並びます。

その一方で、ビデオ会議では、内向的な人と外向的な人との差が鮮明になります。例えば、1時間の会議の場合、外向的な人は61分間でも喜んで話し続けようとします。それに対して内向的な人は1時間の間、一切話に加われず、リアルな会議の場以上に窮屈さを感じるはずです。そのような人には、ビデオ会議のチャット機能を使用してコミュニケーションをとることを勧めています。

最後に、この状況が終わったとしても私が個人的に続けるであろう点は、以前ほど出張する必要がないことです。コロナ以前の私は、顧客訪問のために週に3~4回は飛行機に乗っていました。ただし、そうした顧客訪問は、コロナ対策によるテレワーク中も、Zoomを通じて続けていたので、それに対して顧客も私も違和感を覚えなくなっています。おそらく、世界中にいる多くのビジネスパーソンが、私と同じように「あ~、自分はどうしてあんなに出張をしていたのか」と感じているはずです。ゆえに私は、コロナ後で移動が自由になっても、飛行機での出張は月に3~4回に抑えるつもりです。

雑談Q&A

以上、モズリー氏へのインタビュー内容をレポートした。ただし、実際のインタビューでは、上で紹介した以外にも、今回の本題とはあまり関係のない、個人的な興味レベルの質問をモズリー氏に投じている。ZoomのCIOにインタビューできる機会はそうあることではないので、そうした“雑談レベルのQ&A”についてもご紹介しておく。

アトラシアン:Zoomの仮想背景でお好きなものは何ですか。

モズリー:私はシンプルなものが好きなので、通常はZoomのロゴを背景に使っています。

アトラシアン:Zoomでのリモート会議をより良くする一番のTIPSって何でしょう。

モズリー:大規模な会議を行うなら、24時間前に全てをロックしてしまうことをお勧めします。24時間前にはコンテンツにも参加メンバーも一切の変更を認めずに、「これが今回のコンテンツです。この人が今回のスピーカーです。これは一連のショーなので、何も変更はありません」といったイメージです。

アトラシアン:2020年内に読んでおくべきと考える、お勧めの書籍は何かありますか。

モズリー:最近読んだ本の中では、『No Room for Small Dreams』が大変役に立ちました。これは、2007年~2014年までイスラエル大統領を務めたシモン・ペレス(Shimon Peres)氏の自伝です。優れたリーダーシップを発揮した人物なので、この本からは多くの教訓が学べました。

アトラシアン:最も好きなご趣味はなんですか。

モズリー:好きなのは、友人とのディナーパーティーを催すことなのですが、時節柄、全く行えていません。とにかく、これは趣味というよりも、セラピーで、ゲストについて考え、メニューを考え、買い物をして、音楽を聴き、ワインを用意して、料理をして、食事を楽しみ、皆で笑う。大好きです。