アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、会社と従業員とを結ぶ「社内広報」の役割をどう担っていくべきかのガイドラインを示す。

社内広報って、一体、何をすれば……

会社で働いていると、時として想定外の任務に当たらなければならなくなる。「社内広報(インターナルコミュニケーション)」と呼ばれる任務は、その一つだ。この役割を与えられるのは、総務や人事、あるいはマーケティングの担当ディレクターであることが多いようだが、どのような職域のビジネスパーソンも、社内広報に関する専門的で正式な教育・訓練を受けてきたわけではない(はずである)。いわば、大多数のビジネスパーソンが、社内広報の初心者である可能性が大きいというわけである。

社内広報の役割は、社内の全員に対して常に適切で正確な情報を提供し、彼らが仕事に集中できる環境を築くことである。特に、有事の際には短時間でこれを行わなければならず、難易度も、負担も一気に跳ね上がる。

とりわけ、今回のパンデミックのような災害は先が読めず、コントロールも利かない。ゆえに、全ての事象について、それが起きた瞬間に猛烈なスピードで整理して、情報を組み立て、社内に伝えなければならない。それは、航空機に空中で給油するどころの話ではなく、飛行中に航空機を組み立てているのと同じような作業と言える。

では、このような時に社内に情報を発信するプロセスを、可能な限り、「リアクティブ(事後対応的)」なモードから「プロアクティブ(事前対処的)」なモードへと移行させるにはどうすれば良いのか?そのための有効な方法の一つが、「社内広報計画」の策定である。その計画を立てるうえでの要点について、アトラシアンの社内広報責任者ラティシャ・リアン(L’Teisha Ryan)は、次のように話す。

「社内広報には、規律と慎重さが必要とされますが、同時に、厳格さを追求しすぎないことも大切です。大切なのは、しっかりとした計画を立てつつ、実務を回しながら、常にコミュニケーションの改善・進化・調整を試みることです」

さらにラティシャは、こうも続ける。

「コロナ危機が発生したとき、私たちは、即座に創業者の二人から社員に向けたメッセージをメールで一斉に送信したほか、Zoomを使ったQ&Aセッション、Confluenceでの情報更新とFAQの共有を図りました。また、オフィスを閉鎖した後には、『自分は常に会社とつながっている』という感覚を維持してもらうためにメッセージビデオのアップデートを続けました。アトラシアンでは、少なくとも今年末(2020年末)まで、世界中のオフィスを閉めたままにして、全従業員の在宅勤務を継続させますが、それに向けて、社内広報上の施策をさらに拡充・調整していくつもりです」

以下、こうしたアトラシアンでの取り組みも交えながら、社内広報計画を適切に策定し、そこから相応のメリットを得るための方法について明らかにしていく。

なぜ、社内広報計画が要なのか

言うまでもなく、社内広報の計画は、担当者の頭の中で思い描くものではなく、明文化された計画書として策定されるべきものである。

その計画書には、社内広報の対象となるオーディエンスは誰なのかに始まり、発信すべき情報の内容や種類、情報発信に使うコミュニケーションチャンネル、情報発信の頻度などを定義しておく必要がある。また、社内広報の成否を計測するための指標として、例えば『CEOから従業員に向けたメールの開封率は80%をキープする』といった数値目標を定めておくことも大切だ。

社内広報計画の内容については、全社で共有する必要は特にない。ただし、計画を遂行するうえでの協力者に対しては、すべての情報をオープンにしておくことが大切である。また、この協力者の中に、人事系の担当者を含ませることも忘れてはならない。彼らは重要な情報を正しく社内に通達するうえでとても頼りになる存在だからである。

おそらく、コロナの影響によって、企業における社内広報担当者の多くは、文字どおり、息つく暇もないほど多忙をきわめているはずである。したがって、なかには、社内広報計画の策定に時間をかけるよりも、目先の業務をこなすことに集中したいと考える向きがいるかもしれない。ただし、どんなに忙しくても、社内広報計画の策定に時間を費やすことは有益であり、その苦労には多くの見返りが期待できる。

例えば、計画の策定によって、従業員とのコミュニケーションに一貫性が確保できる。これにより、緊急事態下にあっても、会社はしっかりと機能しているという安定感・安心感を従業員に与えることができる。

その反対に、自分の経験や勘だけを頼りに社内広報の業務に当たるというのは、短期的には正しいことのように感じられるかもしれないが、中長期的には、悲惨な結果を招くおそれが強い。

例えば、公式の社内広報チャンネルを通じて十分な情報が得られなかったり、何らかの経路で従業員の耳に届いたりすると、自分なりに情報を作り上げ、勝手に発言し始める。結果として生じる社内の混乱は、従業員たちの仕事の妨げになるばかりではなく、誤情報に基づくプロジェクト計画/予算の見直しという事態に発展しかねないのである。

計画策定の原理原則

企業における他のあらゆる計画と同じように、社内広報計画に関しても戦術をもって策定に臨まなければならない。そのための準備作業として必要とされるのは、自分なりのガイドラインを定めておくことだ。

前出のラティシャと彼女のチームの場合、社内広報におけるコアの原則として、アトラシアンのカンパニーバリューである 『オープンな企業文化、デタラメは無し(Open company, no B.S.)』『心を込めてバランスを考えて作る(Build with heart and balance)』の2つを定めている。以下は、そんなアトラシアンの社内広報チームが、社内広報の出発点として提唱しているポイントである。

透明性

会社に関するあらゆる情報を社内全体で迅速に、シンプルに共有する。ここで言う会社の情報には、解雇や内部不正、給与カットなどの悪いニュースも含まれており、逆に、そうした悪いニュースも包み隠さず、すばやく全従業員に伝えることが、透明性を確保することの本来的な意義でもある。

ある調査によると、企業のリーダーの多くは、悪いニュースを全社に伝えることに抵抗感があり、とかく伝達が遅れがちになるという。ただし、悪いニュースの社内伝達を後ろ倒しにすればするほど、そのニュースが社内に及ぼす負の影響は大きくなっていく。というのも、ニュースの当事者は、それが社内に伝えられる恐怖をより長く感じていなければならないし、従業員たちの一部はニュースのことをすでに知っていて、なかなか社内で公表されないことに憤懣を募らせているかもしれないからである。

いずれにせよ、悪いニュースの隠蔽(いんぺい)や伝達の遅れは、会社に対する従業員の信頼を損なわせることになる。ゆえに社内広報では、透明性の確保が出発点であり、基本中のキホンの原則ということになる。

相手への共感

感情的知性に基づいて人にアプローチするというのは、常に効果的だ。したがって、社内広報においても、自分たちが発信しようとしている情報に対して、その受け手である従業員たちがどのような感情を抱くかを熟慮したうえで、伝えるべきこと適切な表現で伝えるのが大切である。

またこのとき、伝えなくてもいい情報まで相手に伝えることで、相手が情報量に圧倒されてしまう場合がある。それを避けるうえでは、相手に伝えるべきことだけを完結に伝えるよう心がけることが大切と言える。

一方で、行き過ぎた思いやりによって、伝えるべきことを伝えられず、それが相手の不利益につながる場合もある。例えば、あるとき昼食をともにした友人の歯に、ほうれん草がはさまっていることを発見したとする。このようなとき、人はなぜか、相手が傷つくと思い込み、それを指摘することをためらってしまう。ところが、自分が指摘しなかったせいで、その人は、ほうれん草の存在に気づかずに、午後の会議に出席しまうかもしれないのである。

相手に対する共感、ないしは思いやりもってコミュニケーションをとることは、いかなる場合においても重要である。そのときに、伝えなければならないことと、相手に対する共感・思いやりとのバランスをいかに適切に保つかが、社内広報においても大きなテーマとなる。

情報の見つけやすさ

ラティシャのチームは以前、従業員とのコミュニケーションチャンネルとしてさまざまな経路を使っていたために、情報が分散してしまい、必要な情報が探しづらくなっていたことに気づいた。そこで、Confluenceに各種情報へのハブとなるページを設けて、過去に発信した情報とその更新履歴を簡単に参照できるようにした(画面)。これにより、アトラシアンの従業員たちは、自分が必要な社内の伝達事項や情報に簡単にアクセスできるようになり、結果として、ラティシャたちが問い合わせを受けることも無くなったという。

画面:Confluence上に構築した社内情報ハブの画面例

順応性

社内広報の業務は、状況の変化や従業員からのフィードバックなどに柔軟に対応していくことも大切だ。したがって、社内広報計画についても、数週間ごとに内容を確認し、必要に応じて調整していくことが求められる。

社内広報計画のカスタマイズ

社内広報計画では、従業員に対して、適切な情報を、適切なチャンネルを通じ、適切なタイミングで届けるための方法についても定義しておく必要がある。その際には、 1〜2時間かけてドラフトを作成し、チームからのフィードバックに基づきながら、内容を調整していくことになる。その具体的な手順は以下のとおりである。

ステップ1: コミュニケーション計画表の作成

まずは、コミュニケーション(コンテンツ配信)計画表を作成する。具体的には、表計算ソフトのシートを使い「4列×7行」のテーブルを作成する。テーブルの各列と各行の項目は次のようなものだ。

  • 列項目:「コンテンツ」「オーディエンス」「チャンネル」「目的/目標」
  • 行項目:「毎日」「毎週」「隔週」「毎月」「四半期」「毎年」「アドホック(その都度)」

サンプル(英語)公開中

ステップ2: オーディエンスの分類

次に、コンテンツの受け手であるオーディエンス(つまりは従業員)をどのようにグルーピングするかを考える。ラティシャのチームでは、コロナ危機が発生した際、オーディエンスを「経営役員」「人事チーム」「マネージャー」「一般従業員」などのグループに分類し、必要に応じてコンテンツの出し分けを行っている。

ステップ3: コミュニケーション手段の設定

オーディエンスのグループ分けを行ったのちには、それぞれのグループとコミュニケーションをとる際の最も効果的な方法を決定する。また併せて、各オーディエンスとどのようなコンテンツを、どのツールを使って共有するかも決める。ちなみに、アトラシアンでは、経営幹部と従業員とのライブQ&AにZoomを活用し、全社的な発表や伝達事項の発信にはSlackを使用、さらに、創業者からのメッセージ発信には、Confluenceのブログ機能や電子メールを組み合わせて使っている。

ステップ4: コミュニケーション計画表へのデータ入力

上記のステップを終えたら、いよいよ先に示したコミュニケーション計画表にデータを入力していく。この際にはもちろん、オーディエンスグループごとに、どのような情報(コンテンツ)を、どのチャンネルを使い、どの程度の頻度で配信すべきかをしっかりと検討する。

また、各コミュニケーション(コンテンツ配信)の「目的/目標」を明確に定めることも大切だ。すなわち、そのコンテンツ配信は、リーダーと従業員とのつながりを維持・強化するためのものなのか、それとも、単なる事務的なアナウンスなのかといったかたちで、それぞれの目的/目標を明確に定めるのである。こうすることで、各コンテンツの配信頻度や方法を決めるのも容易になる。

また、グループごとにコンテンツ配信のタイミングを変える必要があるかどうかも検討する。例えば、ラティシャのチームでは、全従業員にコンテンツを配信する前に、その内容を各部門の幹部/チームリーダーに伝達するというステップを踏んでいる。

「このステップを踏むことで、コンテンツの配信が、チームにどのように影響するかについて正確につかみ、従業員からの質問をあらかじめ予測して、思慮深い回答を準備することが可能になります」と、ラティシャは言う。

さらに、従業員とのコミュニケーションを進める中では、対話のための新しい手法を取り入れたり、既存のツールを進化させたりする必要性に気づくかもしれない。例えば、アトラシアンで、コロナ対策の一環として全従業員をリモートワーク(在宅勤務)に切り替えたとき、離れたチームメンバーをまとめるのにどうすれば良いか分からないという声が寄せられた。そこで、人事のチームはリモートでのチーム運営のベストプラクティスを学ぶための一連のWebセミナーをトレーニングとして展開し、この好評を博したのである。

いずれにせよ、コミュニケーション計画表へのデータ入力を完了させたのちには、その計画内容を、全ての利害関係者と共有して、レビューを行う。このステップは、従業員に発信する内容に漏れがないかどうかを確認するうえでとても有効である。

TIPS
社内広報では、情報を伝えられた従業員からのフィードバックを効率的に得るための仕組みづくりも重要である。アトラシアンのJira Service Deskやgoogleフォームを使用すると、従業員からの意見や質問に応じるための仮想の投書箱やQ&Aボックスが簡単に作れるので便利である。

「ありのまま」が成功につながる

社内広報計画は慎重に立てる必要があるが、配信するコンテンツの中身に完璧さを求めるよりも、それを必要とする人に、タイムリーに情報を届けることのほうが重要だ。この点について、ラティシャは次のように話す。

「私たちは、マイク(アトラシアンの創設者の一人)から従業員に向けたメッセージの発信チャンネルとしてビデオ配信を選びましたが、これはメッセージに“人間味”を付加したかったからです。結果として、メッセージ配信中のマイクの部屋に娘が乱入し、従業員たちは普通にマイクからメッセージを受け取るよりも、何倍も癒(い)やされたはずです。例えば、『なるほど、あのマイクも自分たちと同じ状況にいるんだな。』って(笑)。その点で、私たちの目論見は図らずも大成功したというわけです」

従業員に向けたメッセージ配信中のアトラシアン創業者(マイク)の部屋に乱入し、マイクの代わりに従業員を勇気づけたマイクの娘

一方で、社内広報の任に当たるうえでは、モノゴトの変化に対する見方や感情の動きが、人によって千差万別であることも忘れてならない。ラティシャのチームにとって、それは、コロナ禍によるオフィスワークからリモートワークへの切り替えに対して、全ての従業員が肯定的ではないことを理解し、その理解をコミュニケーションに組み込み、従業員各人に自分たちの考えが認められていると感じさせることだったという。

ともあれ、社内広報の担当者が、パーソナリティを発揮しつつ、さまざまな変化について率直にモノゴトを伝えようとすることで、従業員たちに安心感を与えられるだけではなく、新鮮な空気を彼らのもとに送り込むことも可能になる。また、そうした姿勢を保つことで、社内広報のコミュニケーションはより効果的になるのである。