新型コロナウイルスの感染拡大により、経済への打撃が広がっている。同時に企業は、テレワークの導入など、働き方を変える必要にも迫られている。その状況は、世界のどこでも同じだ。

しかし、日本企業のリーダーの多くは、まだ古い考えに固執しているように見受けられる―。そう指摘するのは、2000年に来日し、モルガン・スタンレーやGoogle Japanなどで長年人材育成とリーダーシップの開発に取り組んだ経験があり、現在はプロノイア・グループで代表取締役を務めるピョートル・フェリクス・グジバチ氏だ。

アフターコロナを見据えて、マネジメント、チームの文化の形成、コミュニケーションの在り方を考え直す時期にきていると話すピョートル氏に、いまこそリーダーが取り組むべきことを聞いた。

ピョートル・フェリクス・グジバチ

ポーランド生まれ。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を経て、2006年よりモルガン・スタンレーにてラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデント、2011年よりGoogle Japanにてアジアパシフィックでのピープルデベロップメント。さらに2014年からは、グローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。現在は国内外さまざまな企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティングを行うプロノイア・グループの経営と他1社の相談役を務める。『NEW ELITE』『0秒リーダーシップ』など著書多数。

コロナショック下で自己認識を深める

「コロナショックによって、何が正しくて何が正しくないかを考えることで、これまでの社会のでたらめに気付かされたのではないでしょうか」

現在2社の経営にかかわるピョートル氏は、アフターコロナを見据えて企業のリーダーは何を変えなければならないのかについて日々思いを巡らしているという。「社会のでたらめ」とは何かと問うと、コロナショックによって気付かされた、働き方や生き方のことだった。

「私たちが東京のような都市に住む理由は、仕事で活躍できるからです。すると、通勤時間が70分以内の場所に住みたいと考えます。70分以内だと、住居の購入価格や家賃は、国内や世界平均に比べても高いですよね。それでも頑張って、もっといい生活ができるように、仕事や出世にまい進しようとします。

私は目黒区のマンションに住んでいます。目黒区の住宅価格は高く、子どもが授業料の高い私立学校に通うのも珍しくありません。スーパーの商品の値段も高いですね。知らないうちに何でも高くなる悪循環に入ってしまっています。

でもよく考えてみれば、本当に目黒区に住む必要があるのかは疑問です。なぜならホワイトカラーの仕事は、オンラインでもできるからです。そうすると、目黒区ではなくても、例えば高知県や愛知県でもいいはずです。

個人的な話をすれば、以前は毎晩のように懇親会や食事会が入っていましたが、なくなっても自分の可能性は狭くなっていません。むしろ出費は10分の1以下です。たまにZoom飲みがあるくらいで、これでいいのではないかと思っています。コロナショックによって、働き方や生き方、遊び方など、私たちの日常の全てが疑われたのではないでしょうか」 

ピョートル氏は、何を変えなければならないかを考える際に、まず自己認識、つまり自分についての認識を深めることが必要だと説明する。

何が大事で何が大事ではないのか。何をしたくて、何をしたくないのか。自分のミッションやビジョンを持っていれば、コロナショック下やアフターコロナにおいても、自分らしい生き方ができるはずだと主張する。

「私たちが採っている選択には責任があります。ただ生きていて、ただ職場に足を運ぶだけではなく、どんな仕事をするのか、その仕事によってよりよい世界をつくることができるのかといった、自分の仕事の意義を考えるべきです。存在意義に気付けば、アウトプットは10倍格好よくなると思っています」

リーダーはコミュニケーションの在り方を再考せよ

アフターコロナにどう向かっていくのかを自己認識することによって、人それぞれの生き方や働き方は変わってくる。その際に、会社の組織はどのように対応すればいいのか。ピョートル氏は、こう話す。

「会社は何らかの社会的な価値を生み出す仕組みです。価値を生み出すためにビジネスモデルがあり、仕事をするのは人です。まず結果を描いて、その結果を出すために逆算して仕事のプロセスを作っていきます。これはアフターコロナにおいても変わりません」

新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの企業はテレワークができる環境を整備する必要に迫られた。国内で緊急事態宣言が解除された後も、テレワークは推奨されている。この機会にリーダーは結果を出すためのプロセスを考え直す必要があると、ピョートル氏は指摘する。

「私がメインで経営しているプロノイア・グループでは、緊急事態宣言が出るかなり前からテレワークをしています。テレワークを導入する際には、物理的な環境変化に合わせて、何をどう変えていくのかを考える必要があると思います。

まず、コミュニケーションの在り方ですね。これまでは実際にオフィスで会っていれば、いつでも何でも聞けるので、スケジューリングを綿密にする必要はありませんでした。しかし、テレワークの場合はどこかでまとまった時間をとってコミュニケーションをする必要があります」

一方でピョートル氏は、人と対面する利点も否定していない。仕事でも大切な話をするときは対面の方がいいし、例えば恋愛関係はデートをしなければ成り立たない。ピョートル氏は「テレワークでPCの画面ばかりみていると、天気が良くない日は眠くなる」と話し、実際に人と会っていれば眠気も薄れ、元気も出てくるという。

そう考えると、テレワークでのコミュニケーションはより対面でのそれに近づけていく必要がある。そのときにリーダーに必要なのは、信頼関係を作るコミュニケーションだという。

「人間らしさをどのように仕組みの中に取り入れるかは大事ですね。テレワークで画面越しに話すときは、みんな実際に会うよりもエネルギーが低くなっているので、リーダーが元気になる刺激を作ります。

例えば、私の会社には「PLAYWORK(遊ぶように働く)」という行動指針があるのですが、私がPLAYWORKと書いたTシャツを来てテレビ会議に出れば、みんなが盛り上がります。くだらない話ですが、私は納豆が大好きで、今日は納豆にアボカドを混ぜて食べましたと話すと、それをきっかけに話も弾みます。

メンバーの顔が疲れているように見えれば、『少し休んだ方がいいよ』『家の中だからもっと楽な服装でいいよ』と声をかけます。通勤がなくなったから楽になったという思い込みは避けた方がいいですね。ストレスがあったら解決してあげます。テレワークだと1対1の話もしやすいので、コーチングやメンタリングなども対応できるのではないでしょうか」

以前のように対面でのコミュニケーションが減った分だけ、テレワーク時代ではリーダーがメンバーの変化に敏感であらねばならない

リモートワークに移行できない日本の企業

ピョートル氏が経営に関わる会社や、多くのIT企業では、すでにソフト面でもハード面でも環境整備は進められていて、社員がテレワークに移行することは可能だという。つまり、オフィスではなく、単に自宅で働けばいいだけだ。会社で使っているPCなどの端末を外に持ち出せるかどうか、オンラインに接続する環境があるかどうか、セキュリティ対策をしているかどうかなど、組織が日頃から準備していれば問題はない。

ところが、政府がテレワークや時差通勤を経済界に要請した2月末以降、現在までテレワークに移行できていない企業は少なくない。経営者であるピョートル氏から見れば、テレワークに移行できないことは、事業を継続するうえで大きなリスクがあるという。

「日系企業は、残念ながら古い考えを持っている企業が多いのではないでしょうか。保険や金融の企業関係者と話をすると、多くの社員がZoomを使っているようです。ところが、どこで使うのかと聞くと、オフィスからだと言います。ノートPCを会社の外に持ちだせないのですね。それはセキュリティを間違った方向に捉えている可能性があります。

火事で建物が燃えてしまった、もしくは地震で建物が壊れてしまったら……。そのときオフィスは使えなくなりますよね。私の場合、自分のオフィスはMacBookであり、もっと言えばGoogleのG suiteのアカウントです。ネットに接続する環境さえあれば、スマートフォンでも使えます。

つまり、リモートの仕組みを、テクノロジー、ソフト、ハードの順番で作っておかないと、予測できなかったリスクによって全て台無しになってしまいます。テレワークやデジタルトランスフォーメーションと聞いても、さっぱり分からない役員が多いのも問題です」

その原因はどこにあるのか。ピョートル氏は、そもそも日本の伝統的な企業には、マネジメントストラクチャーがないのではないかと考えている。その理由の1つは、あいまいな企業のスローガンに表れているという。

「日系企業はいろいろなスローガンを発信しています。でも不思議なのは、そのスローガンはどういう意味で、貴社の中でどういう役割を持っているのですかと社長や役員に聞くと時折、『あれはどこの広告代理店が作ってくれたのだったかな』と答えが返ってくることです」

もう1つは、日本企業が民族性や文化度などが近い人たちが集まっている「ハイコンテクストの文化」であることも背景にあると分析する。

「大手企業でも中小企業でも、歳を取れば少し偉くなります。その部下たちは、以心伝心で上司の顔をうかがって、こういうことをしてほしいのだろう、頑張ったら喜んでくれるだろうと考えながら動いていますよね。逆に、私が働いてきたモルガン・スタンレーやGoogleは異なる背景を持つ社員が集まるローコンテクストの文化でしたから、働くときも具現化、言語化に特化しています。

日本の文化が具現化、言語化できないのは、いい面もあります。京都の料亭でファストフードのような効率は求めないですし、舞踊を見て、これはどういうことですかと聞いても意味のない会話になります。伝統文化に関してはそれでいいのですが、ホワイトカラーの仕事では、以心伝心や忖度が美徳という考え方はやめた方がいいですね」

アフターコロナに必要なのは「チームの文化をつくること」

それでは、テレワークが当然という状況になったときに、企業の組織やチームはどのようにして構築すべきなのだろうか。ピョートル氏はそのキーワードに「文化」を挙げる。「日系企業で一番問題なのは、組織の文化を作ることに力を入れない、もしくは興味がないことですね。文化というのは、行動パターンです。国でも、会社でも、家族でも、行動パターンの塊が文化になります。

私が経営するプロノイア・グループでは、月曜の定例会議、金曜日の週報提出などの行動パターンを作っています。チームで目標を考える際には、組織と働く人の目標を結び付けるOKR(Objective and Key Results)のフレームワークを使います。このフレームには3つのレベルがあります。まず、ルーフショットが7割。これは会社の売り上げに直接つながる目標です。次に、ムーンショットが2割。間接的に売り上げにつながる目標ですね。最後の1割はジュピターショットです。売り上げは考えなくていいので、とにかく大きいことを考えてもらっています。

また、必ずペアワークでプロジェクトを組んでいます。責任を持つのは2人です。なぜなら、ペアワークなら1人が休んでもプロジェクトを進めることができるからです。一方で、2人で取り組んでいるのでお互いにサボることはできません。ピアプレッシャーはとても大事です」

ピョートル氏は他にも、「優しさ」「厳しさ」「茶めっ気」という言葉を使って、人に優しいけれども結果に厳しい文化をマネジャーの役割に組み込んでいる。取引先をお客さんやクライアントとは呼ばずに、パートナーと呼ぶことで、「誰かのために」ではなく「誰かとともに」という働き方を目指すといった原則も作っている。

「日系企業のリーダーには、テレワークを導入したけれども、みんなが本当に仕事をしているのかどうか分からないと話す人がいます。でも、仕事は結局アウトプットですよね。物理的に同じ空間にいなくても、アウトプットやプロジェクトの進捗が把握できる技術的ソリューションは必ずあります。

大きな原則を示して、仕事のアウトプットを逆算してプロセスを作れば、目的のゴールにはたどり着けます。テレワークなどの影響でこれまでのプロセスがうまくいかなくなったのであれば、変えるべきだと思います」

正しい選択をすればチャンスはある

文化が行動パターンなら、会社組織はもちろん、チームでも、個人でも作ることが可能だ。アフターコロナに向けて何を大事にするのかを選択すれば、おのずとこれからの働き方にあった文化が作れるという。

「文化を作ると聞くと、みなさんすごく大変だとか、難しいと思ってしまいますが、そんなことはありません。シリコンバレーでは、全ては実験だと考えます。今日までこういうルールでやってきたけれども、もっといいルールもあるはずです。チームのレベルで大事にしていること、大切にしたいことを話して、みんなで実験していけばいいのではないでしょうか」

新型コロナウイルスによって、世界中で多くの人が命を落としている。経済的に大きなダメージを受けている企業も多い。それでもいまが変わる時だとピョートル氏は前を向いている。

「感じていることはテクノロジーの可能性です。テレワークにしても、オンライン会議システムの普及によって、5年後にやろうと思っていたことが、一気にできるようになりました。

これまでの働き方や組織の在り方を見直して、これから正しい選択をしていけば、チャンスばかりではないでしょうか。自分たちがやりたいこと、変えたいことを、今こそ実行すべきです」