著者:山口周
出版社:ダイヤモンド社
出版年月日:2019/7/4

これからの時代に求められるビジネスパーソンの思考・行動様式を説く

モノや情報が溢れ、テクノロジーが猛烈な勢いで進化・発展し、市場のニーズが目まぐるしく変化し、多様化している──。本書は、そんな社会の変化を、「6つのメガトレンド」として提示したうえで、これからのビジネスパーソンに求められる思考・行動様式を、「ニュータイプ(=これから成功する人材)」と「オールドタイプ(=これまで成功してきた人材)」との対比の中で解説している。著者の山口周氏は、株式会社ライプニッツ代表で、独立系研究者。電通やボストンコンサルティンググループなどで戦略策定や文化政策、組織開発などに従事し、話題の書籍『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者としても知られている。

その著者が、本書の中で提示する6つのメガトレンドは以下のようなものだ。

  1. 飽和するモノと枯渇する意味:モノの過剰供給により、市場には便利なモノが溢れ、モノの価値が下落。モノを作る意味、購入する意味が枯渇しつつある。その中では「役に立つモノ」を作ろうとする行為には価値がなくなり、一方で、希少化する意味を世界に与えることの価値が高まっている。
  2. 問題の希少化と正解のコモディティ化:モノやサービスが過剰に供給されている現代社会(日本の社会)では、人々が日々の暮らしの中で「不満・不便・不安」を感じるケースが少なくなっている。これは問題が希少化し、ほとんど全ての問題に対して答えがすでに存在し、正解がコモディティ化していることを意味している。
  3. 意味のない仕事の蔓延:「モノの過剰化」と「問題の希少化」によって、意味のない仕事が会社組織の中に蔓延している。ゆえに、組織の創造力や付加価値生産性は一向に上がらないのに、労働時間が減らないという矛盾が生じている。
  4. 社会のVUCA化:VUCAとは、「Volatile(不安定)」「Uncertain(不確実)」「Complex(複雑)」「Ambiguous(曖昧)」の頭文字を合わせた言葉。今日の社会は、まさにVUCAが進行している状況にあり、結果、「過去の経験」「未来の予測」「(現状のシステムに対する)自らの最適化(の取り組み)」が無価値化している。
  5. スケールメリットの消失:インターネットの発達などにより、巨額の資金を投じて巨大な生産設備を整え、大量に生産したモノを、巨額の広告費をかけながら、巨大な流通機構に乗せて売りさばくという、スケールメリット追求型のビジネスモデルが崩壊した。結果、組織や設備の量的・物理的なスケールの大きさが競争力を削ぐ要因になりつつある。
  6. 寿命の伸長と事業の短命化:人の平均寿命が「100歳」に近づき、60歳で引退という人生モデルが壊れ、80歳まで現役で働くことが必要になりつつある。一方で、事業(ビジネスモデル)の寿命はどんどん短くなり、結果、全てのビジネスパーソンが、人生の途上において複数回のキャリアチェンジを余技なくされる(ことが確実となりつつある)。

本書では、上述したメガトレンドの記述を第1章で展開し、のちにニュータイプの思考・行動様式を、以下の7章にわけて詳しく解説するという構成になっている。

  • 第2章 ニュータイプの価値創造/問題解決から課題設定へ
  • 第3章 ニュータイプの競争戦略/『役に立つ』から『意味がある』へ
  • 第4章 ニュータイプの思考法/論理偏重から論理+直感の最適ミックスへ
  • 第5章 ニュータイプのワークスタイル/ローモビリティからハイモビリティへ
  • 第6章 ニュータイプのキャリア戦略/予定調和から偶有性へ
  • 第7章 ニュータイプの学習力/ストック型学習からフロー型学習へ
  • 第8章 ニュータイプの組織マネジメント/権力型マネジメントから対話型マネジメントへ

正解を出す力に価値はない

第1章で展開されているメガトレンドの記述についても、のちの各章で記されているニュータイプの思考・行動様式についても、その内容に異を唱える向きはとても少ないはずである。というのも、本書に書かれていることのほとんどが正論であり、論の裏づけも豊富にあり、本書が示すような考え方や行動をとらないと、ビジネスパーソンとして、これからの時代を生き抜くのは難しいと思えるからである。

例えば、第2章では、問題が希少化している現代社会においては、かつてのエリート(成功する人材)に必須の能力とされてきた「与えられた問題に対して正しい答えを出す力」は価値を失い、代わりに、自ら課題/問題を探し当て、提起し、それを解決する能力が強く求められるとの主張が展開されている。

課題/問題発見能力の重要性は、他のビジネス書でもさまざまに指摘されているが、確かにこの力は、AI(人工知能)などのテクノロジーやサイエンスには持ちえない能力で、その点でもこれからのビジネスパーソンには必要不可欠な力と言える。

同じく第2章では、未来を予測することの無意味さに言及しながら、「未来を構想する力」の大切さ、価値の高さも訴えている。こうした「未来の構想力」と、その構想に周囲を巻き込み、リードし、実現してしまう力は、テクノロジーカンパニーのカリスマたちの多くが持っていた力でもある。変化の激しいテクノロジーの世界で成功を収めてきたカリスマたちと同じような力を持てば、変化の時代を生き抜くことができるのは当然と言える。

続く第3章では、人のモチベーションが、現代社会における最大の資源であるとの考え方の下、ビジネスパーソン(特に、組織のリーダー)にとって、モノゴトに「意味」を与え、それに対する人(部下たち)の共感とモチベーションを引き出すことが、いかに大切かを唱えている。

例えば、部下に仕事を割り振る際、オールドタイプは、指示と目標値だけを与え、KPIによって管理しようとするが、そのようなやり方では、部下のモチベーションは上げられず、結果として、組織のパフォーマンスも高められないという。ゆえにリーダーにとって大切なのは、なぜ、その仕事を行う必要があるのか、それは何を目的にしたものなのかという意味づけを明確に行い、部下たちの共感とモチベーションを引き出すことであり、それを遂行できる能力を持つのが、ニュータイプであると本書は説く。また、そうした「意味」を明確に掲げる“ニュータイプのリーダー”に率いられた組織は、他を圧倒するパフォーマンスを発揮しているとも指摘している。

このような意味の明確化、あるいは、仕事に対する「Why(理由)」「What(目的)」の明確化によって、人のモチベーションを喚起し、組織のパフォーマンスを高める取り組みは、成長企業の多くで実践され、成果を上げているものでもある。第3章は、その正しさを改めて訴えていると言えるかもしれない。

ニュータイプと自身との適合性を点検する

以上のように言うと、本書は既視感のある記述が多いように思えるかもしれないが、著者ならではの視点や調査研究、考え方に基づく論もかなりある。

例えば、第4章で展開されている「直感が意思決定の質を上げる」との指摘は、その一つだ。著者によれば、近年の研究により、高度に複雑な問題への答えを過度に論理的に出そうとすると解の品質が悪化することがすでに証明されているという。ゆえに、ケースバイケースで、理論のみならず、「直感」「感性」を適切に用いること大切であり、それによって高度に複雑化した問題に対する意思決定のパフォーマンスと品質が高められるという。

また、「役に立つモノ」は論理によって生み出せるが、現代社会では、そうしたモノが過剰に供給されており、それを作ることで他との差異化を図ることは困難になっている。それに対して、モノゴトの「意味」や「ストーリー」は希少化し、それを生むことは差異化の戦略となりうるが、意味やストーリーを生み出すのは論理ではなく、直感・感性であるという。そのため、論理で全てを解決しようとするオールドタイプは、これからの時代の差異化の原動力とはなりえず、問題の内容によって論理と直感・感性をしなやかに使い分けられるニュータイプがより強く求められていると、本書は指摘する。

加えて、本書によれば、イノベーションは偶然によって生まれることがほとんどであり、革新的な業績を上げている企業の多くは、生産性を確保するための「規律」と、偶然の発見を戦略的に取り込むための「遊び」を絶妙のバランスで保っているという。ゆえに、これからの組織のリーダーは、生産性のみを追求しようとするオールドタイプの考え方を捨て去り、遊びを巧みに取り込むことが必要であると、本書は論じる。

さらに、オールドタイプは、組織のルール・規範に従って「無批判」に行動しようとするが、今日では、テクノロジーやビジネスモデルの進化・変化が激しく、それに対して、社内的なルールの制定が間に合わないケースも増えている。こうした時代では、自身に内在する道徳観・価値観、あるいは美意識に従って行動することが必要とされ、それがニュータイプの行動様式の一つであると本書では説いている。

リベラルアーツが大成功のカギ

これからの働き方やキャリア設計に関する著者の考え方も興味深い。

例えば、オールドタイプは、一つの組織に所属し、とどまり、定年まで勤めあげようとする意識が強いが、ニュータイプは、リスク分散のために複数の組織を越境しながら働くことに抵抗感を感じないようだ。また、自身のキャリア設計において、オールドタイプは綿密に計画を立て、粘り強く実行しようとするが、成功者の8割のキャリアは偶然の機会がもたらしたものであるという。ゆえに、一つの組織で努力を重ねるよりも、偶然の機会を呼び込むために、自分の可能性を数多く試して、自分の勝てる場所を探し当てることが重要であり、それがニュータイプのキャリア戦略であるという。

もう一つ、著者は本書(の第7章)において、これからのビジネス界で活躍するニュータイプには、リベラルアーツ系の知識と、それによって鍛えられた美意識・直感が必要とされると唱えているが、これも著者ならでは記述として、とても興味深い。

その記述によれば、サイエンスは与えられた問題を解くうえでは有効であるものの、サイエンスだけでは、自社や社会のあるべき未来を構想し、それと現状とのギャップを見出すこと──言い換えれば、現状の問題点を見出すことは難しく、それにはリベラルアーツ系の知識、あるいはその知識に根ざした思考が必要とされるという。

なぜ、未来を構想するのに、リベラルアーツ系の知識が必要とされるのかの詳しくは本書をお読みいただければわかるが、要点は、リベラルアーツ系の知識があると、現在の常識に対して、それが本当に正しいことなのかという疑いの目を向け、常識に内在する問題点を見出すことができるということである。本書では、その好例として、アップルの創始者で元CEOのスティーブン・ジョブス氏の例も挙げられている。ジョブス氏がリベラルアーツ系の知識をどの程度蓄えていたかは知らないが、確かに、アップルの製品は、サイエンスではなく、ジョブス氏の美意識に基づいて構想され、作られたであろうプロダクトが多い。だからこそ、商業的に失敗する製品も多かったが、成功した製品が社会に与えたインパクトは絶大だったのかもしれない。

また、ジョブス氏に限らず、今日のビジネス界で大きな成功を収めているリーダーの多くは、リベラルアーツ系の知識や学位を持ち、高い構想力を有しているという。そのため、より大きな成功を望むエリートたちは、リベラルアーツ系の学位を取得し、美意識を鍛えることに熱心であると、著者は説明している。

自分はオールドタイプか、ニュータイプか

このほか、ニュータイプの組織マネジメントについて書かれた第8章の内容も、なかなか刺激的である。その記述の中で著者は、社会のVUCA化が進み、過去の経験の無価値化が進行している今日では、これまでのように「経験豊富な年長者」に意思決定を委ねていると、意思決定の品質が壊滅的に毀損される可能性が高いと警鐘を鳴らす。

事実、美意識や道徳観を何も持たず、過去の経験だけを頼りに新しいことを学習しようとしない年長者(劣化したオールドタイプ)が権力を握ってしまったことで、組織の暴走に歯止めがかからない状況がさまざまな組織で見受けられているという。

そんな状況を打開するには、従業員たち(若手に類する従業員たち)が、上司に具申し(オピニオンを出し)、それでも上司が変わらなければ、その上司の元から脱出する(エグジットする)ことが大切であるという。こうすることはリスクの大きい行動に思えるが、著者によれば、劣化した上司に無理に従うことのほうが自分にとっての将来リスクは大きく、また、組織外で通用するスキルや知識、そして組織外での評判/信用を獲得・蓄積し、自身のモビリティを高めておけば、具申やエグジットのリスクはほぼなくなり、それができるのも、ニュータイプの特性であるという。

さらに、ニュータイプは、問題のあるシステムに自分を最適化しようとはせず、一応は適応しながらも、したたかにシステム内での発言力・影響力を蓄え、システムを改変する運動を展開する能力も持つと、本書は指摘している。

なお、以上のようなニュータイプの思考・行動様式をまとめると次のようになる。

  • 問題への正解を探すのではなく、問題を探し当てる。
  • 未来を予測するのではなく、構想する。
  • KPIで組織を管理するのではなく、意味づけによって組織のパフォーマンスを高める。
  • 生産性を上げるだけにこだわらず、遊びも取り込む。
  • 組織のルールに無批判に従うのではなく、自らの道徳観に従う
  • 一つの組織にとどまらず、複数の組織でキャリアを積む。
  • 綿密に計画し実行するのではなく、とりあえず試す。
  • 経験に頼るのではなく、学習能力に頼る。

本書では、こうしたニュータイプの思考・行動様式が、オールドタイプのそれとの対比の中で24個紹介されている。使い方の一つは、記されているニュータイプ/オールドタイプの思考・行動様式と自分のそれとを比べながら、自分がニュータイプか、それともオールドタイプかをチェックして、ニュータイプへの転換を図るために何をすべきかを検討することである。

年配の方は、おそらく本書で問題視されているオールドタイプの行動を数多くとってきたはずで、ニュータイプへの転換を図ることはかなりハードルの高い試みのように思える。とりわけ、ニュータイプのキャリア戦略に基づき、自分のキャリアの見直しを行おうにも、そのための時間的な余裕はすでに失われている可能性もある。

とはいえ、日本人の平均寿命は、2018年ですでに男性が81歳を、女性が87歳をそれぞれ超え、2017年と比較して男性は0.16年、女性は0.06年上回ったという(公益財団法人 保険文化センター調べ)。この2018年当時に50歳の方が定年を迎え、60歳になる、あるいは40代中ごろの方が60歳になるころには、さら平均寿命が延び、新たな仕事を見つけて10数年程度は現役で活躍しなければならなくなる可能性がある。そう考えれば、ニュータイプの思考・行動様式を可能な限り取り入れて、自己改革を図り、これからの時代への対応力を高めておくことも必要なのではないだろうか。人生は短いようで長く、やり直しは意外と多くできるのである。