アトラシアン主催のイベント「Atlassian Team Tour 2020 Tokyo」(開催:2020年2月6日)では、アトラシアン製品の国内ユーザー企業4社がパネルディスカッションを行い、製品導入の実際について語り合った。この記事では、そのパネルディスカッションからエッセンスをご紹介する。

パーソル、富士通、リクルート、LINEがパネリストに

今回、ディスカッションのパネリストとして参加したのは、パーソルホールディングス(以下、パーソル) グループIT本部プロダクトオーナー上田大樹氏と富士通 サービステクノロジー本部 企画室 シニアマネージャーの西川俊晴氏、リクルートホールディングス(以下、リクルート) Employee Experience Design部 技術顧問の荒川裕紀氏、そしてLINE Enterprise ITセンター IT戦略室 室長の吉野一也氏だ。モデレーターはアトラシアンのエンタープライズ アドボケート 中沢礼が務めた。

上田 大樹氏
パーソルホールディングス株式会社
グループIT本部プロダクトオーナー

西川 俊晴氏
富士通株式会社
サービステクノロジー本部 企画室
シニアマネージャー

荒川 裕紀氏
株式会社リクルートホールディングス
Employee Experience Design部
技術顧問

吉野 一也氏
LINE株式会社
Enterprise ITセンター
IT戦略室 室長

中沢 礼
アトラシアン株式会社
エンタープライズ アドボケート

ディスカッションの主目的は、各社のアジャイルの手法やイノベーションの促進、変化に強いビジネス創造への取り組みについて探究しながら、アトラシアン製品の利用状況や導入の実効果について、来場者と情報を共有することにあった。

まず、各社の利用状況については、リクルートが「2013年にConfluenceとJira Softwareを導入し、アジャイル開発で活用」(荒川氏)、LINEが「2013年の創業時からConfluence、Jira Softwareを使っており、全社的な情報共有とチケット管理、タスク管理に使っている」(吉野氏)、富士通が「2016年にアジャイル開発のためにJira Softwareを導入し、のちにConfluenceも併せて利用」(西川氏)、パーソルが「2019年末にJira Service Desk などの評価を終え、ちょうど導入したタイミング」(上田氏)という。

こうした各社の利用状況を前提にしながら、ディスカッションは「各社の取り組み」「(アトラシアン製品)導入の実際」「今後の展望」という大きく3つのテーマに沿って進められた。

ディスカッションは、モデレーターの中沢(上写真右端)が各テーマに沿った質問を投げかけ、それに対してパネリストが「○」「×」札や一言回答を掲げながら議論を展開するというスタイルで進行した。

アトラシアン製品導入の理由をワンワードで答えるパネリストたち。その理由はさまざまだ。

4社すべてがアジャイル開発に取り組む

最初の大テーマ「各社の取り組み」において、中沢が最初に投じた質問は、「変革のための取り組みをしているか」である。この質問に対して、「○」と「×」を両方の札を掲げたリクルートの荒川氏は、その理由について次のように話す。

「当社の場合、社員たちが勝手に変革をしていく文化が根づいています。ですので、変革を起こすための特別な取り組みはしていません。ただし、社員が次々に想起する変革のアイデアに対して、IT部門がスピーディに対応しなければなりません。それを変革のための取り組みと言えば、そう言えるわけです。現場へのスピーディなサービス提供を可能にするために、ITの組織をどう運営するか、どのようにして情報が散らばらないようにするかなど、など、さまざまな取り組みを進めています」

これに対しパーソルの上田氏は、「私たちは組織の自律化をテーマに、組織のあり方とアーキテクチャを大きく変えようとしています。その意味で、リクルートさんの組織は、当社にとってのリファレンスモデルと言えるのですが、今の荒川さんのお話しから、組織の自律化が進むことで、IT部門で成すべきことが増える可能性がある点に気づきました」と語った。

次の質問は、現状の課題をワンワードで示すというもの。各社の回答は、「顧客志向」(パーソル)、「マインドセットの変革!」(富士通)、「業務のクラウドネイティブ化」(リクルート)、「拠点」(LINE)である。このうち「拠点」と答えた、LINEの吉野氏は、その課題の中身について次のような説明を加えた。「当社では事業の急拡大に合わせて、拠点もグローバル規模で次々増えています。従業員の言葉も考え方も違う中で、どう情報共有を行って協業していくかが課題になっています」

これに対しては、「当社にも同じ課題があり、共感します。どんなソフトウェアを使うかもそうですが、インフラやネットワークの足回りをどうするかも重要になりますね」(パーソルの上田氏)といった声が聞かれた。

さらに次の質問は、「アジャイルに取り組んでいるか否か」だ。この質問に対しては、4社すべてが「○」。LINEの吉野氏は、「当社には、『リーン&アジャイル』と呼ばれる専任チームがいて、開発だけでなくさまざまな業務のアジャイル化のコーチングを行っています。ビジネス自体も試行錯誤して育てていくモデルが多いので、全社でアジャイルに取り組んでいます」と説明した。

アトラシアン製品の効果・効用はいかに

続いて2つ目の大テーマであるアトラシアン製品導入の実際について議論された。その最初の質問は、「アトラシアン製品の導入理由(ワンワード)」である。各社の回答は、「投資対効果」(パーソル)、「デファクトスタンダード」(富士通)、「オープンさ」(リクルート)、「機能」(LINE)となった。

パーソルの上田氏は、「当社がJira Softwareの導入を決めたのは、従業員体験の高度化を目的に、サービスデスク機能の充実を図ろうとしたことがきっかけです。なぜ、Jira Service Deskを選んだのかと言えば、その投資回収に要する期間と機能とのバランスがいいと感じたからです。もう一つ、私たちが注目したのは、アトラシアンでは、売上高に対するR&D投資比率がとても高い点です。そうした会社の製品ならば信頼に値すると考えました」と理由を述べる。

また、Confluenceを使うリクルートの荒川氏は、「関係者の全員が同じページを共有・編集して、集合知をためていけるという、社内Wikiの持つオープンで高効率な情報共有のインタフェースがConfluence採用の決め手になりました」とする。

続く質問は、アトラシアン製品の導入・活用に際して、「社内に抵抗勢力がいたか否か」である。この質問に対して、富士通の西川氏が「〇」の札を掲げた。

「当社の上層部は、新しいツール・技術の導入に積極的なので、現場に導入するまではとてもスムーズでした。ただしそれで、現場での活用が一挙に進展したかと言えばそうではなく、一部の中間管理職層から抵抗を受けました。というのも、ツールの活用で、彼らは自分のマネジメントスタイルを変えていかなければならなかったからです。そうした変化に消極的なマネージャーたちから、『今までのやり方で十分だ』という抵抗があったということです」(西川氏)。

こうした抵抗への対処法は、「とにかく仲間を増やして、現場に定着させていくしか手はありません。自分の周囲が使い始めると、不満があっても使わざるをえなくなりますから」と、西川氏は話す。

この問答ののちに投じられた質問は、「アトラシアン製品の導入効果」である。その効果をワンワードで表現して欲しいという中沢の求めに応じて各社が提示した答えは、「Not Yet(13カ月後に投資回収予定)」(パーソル)、「(チーム間の)情報共有」(富士通)、「シンプル化」(リクルート)、「共有」(LINE)である。

「情報共有」との効果を掲げた富士通の西川氏は、「Confluenceでプロジェクトに関するドキュメントをWeb化し、ドキュメントの更新通知をチームのメンバーのみならず、社内の他チームにも送るようにしたことで、内容に興味を持った他チームのメンバーが積極的に情報を寄せてくれるようになりました。当初は、チーム内の情報共有のためにConfluenceを導入したのですが、今ではチーム間の情報共有に欠かせないツールになっています」と明かす。

また、LINEの吉野氏は、次のようにConfluenceの導入効果を説明する。

「すべての情報をConfluenceに集約したことで、当社では自分から情報を探しに行くスタイルが定着しました。そのため現在は、Elasticsearchを使い、Confluenceの標準機能とはまた別に全文検索の仕組みも構築しています」

情報共有のあり方で会社の文化、ビジネススピードは大きく変わる

3つ目の大テーマ「今後の展望」については、パネリストの各人が、今後の取り組みに関するキーワード ─ つまりは、重点課題を2つ挙げながら、その内容についての説明を加えるという形式でディスカッションが展開された。その中で、今後の展望を少し詳しく語る役割を担ったのはリクルートの荒川氏とパーソルの上田氏だ。

このうち、リクルートの荒川氏は、重点課題として「従業員体験の高度化」と「データガバナンスの強化」の2つを掲げ、次のような展望を示す。

「まず、従業員体験の高度化とは、働く環境のさらなる改善を意味しています。働く環境は、従業員やチームのパフォーマンスに大きく影響します。ですので、いかにして従業員体験を向上させていくかに力を注いでいくつもりです。もう一つのデータガバナンスの強化については、散り散りになったデータを整理整頓して、ガバナンスが効いた状態でデータサイエンスが行える環境を構築していく計画です」

一方、パーソルの上田氏が重点課題として示したのは、「自己組織化」と「価値駆動」だ。「この2つは、アジャイルの取り組みで特に意識していることです。結果として、広報/プロモーション活動の稼働時間を80%削減し、良質なフィードバックを得るという成果も上げています」

なお、今回のディスカッションの最後には、ツールの活用やアジャイルなどの取り組みを進めるうえでのアドバイスが、パネリストから来場者に向けて一言ずつ贈られた。

まず、LINEの吉野氏は「Confluenceのような情報共有ツールによって会社の文化、ビジネスのスピードはガラリと変わります。皆さんにも有効活用をお勧めしたい」と述べ、リクルートの荒川氏は、「とにかく巷(ちまた)のバズワードに惑わされないことが肝心です。自社の課題に合致したキーワードを定めて、それに従って取り組みを進めることが大切です」とアドバイスする。また、富士通の西川氏は、「何事もとにかくトライすることが重要です。失敗ものちの成功の糧になりますし、やれることに躊躇するのはもったいないことです」と語る。

さらには、パーソルの上田氏は次のようにアジャイル採用のメリットを唱える。
「当社では、アジャイルの導入でチームにさまざまな変化が起こり、スプリントに集中することで不毛な議論も大きく減らせています。すべからくアジャイルを適用すべき─。私はそう考えています」

ディスカッションでは、来場者とパネリストとのQ&Aが行われたほか、パネリストから来場者へのアドバイスも贈られた。