今日、チームのコミュニケーション/コラボレーションを支えるITツールの選択肢は多岐にわたっている。日本の企業は、その選択肢の中から何を主として活用しているのだろうか。また、その選択は、チームの生産性にどのような影響をもたらしているのだろうか。アトラシアンが先ごろ行ったアンケート調査を基に、その疑問を解き明かす。

チームの生産性とITツールの使い方を点検

今回の調査は、『ITmediaビジネスオンライン』の協力の下、2019年秋にオンラインアンケート形式で実施した(回答は匿名形式)。調査対象は、日本企業で働くビジネスパーソン。その職種は営業からマーケティング、総務・財務・情報システム、生産系と多岐にわたり、267件の有効回答を得ている(回答者属性は本稿末に記載)。

調査の目的は、日本企業が、チーム内のコミュニケーション/コラボレーションを支えるITツールとして主に何を使用し、それがチームの生産性にどのような影響を与えているかを明らかにすることにある。

言うまでもなく、企業がコミュニケーション/コラボレーションツールを使う究極的な目的は、チームの生産性、あるいはパフォーマンスを高めることにある。その前提に立ったうえで、今回の調査結果を眺めてみると、コミュニケーション/コラボレーションツールの活用が、チームの生産性向上/パフォーマンス向上に必ずしも結びついていない現状が浮かび上がってくる。以下、その調査結果について見ていくことにしたい。

回答者の8割強が「チームパフォーマンスは普通以下」と自己評価

まずは、今回の調査回答者が、自分の所属部署(チーム)の生産性/パフォーマンスをどう評価しているかをご覧いただくことにする。その結果は図1のとおりだ。

(資料:アトラシアン株式会社 調査)

ご覧のとおり、回答者の8割強(81.3%)が、自チームの生産性/パフォーマンスを「普通以下」と評価し、「あまり高くない」「かなり低い」というネガティブな評価の合計も36.7%に及ぶ。

では、チーム内の協業(コラボレーション)の効率性はどうなのか。上の結果からも容易に推測できるように、この点についても「普通以下」の自己評価が7割強を占めている。また、「かなり非効率」「あまり効率的ではない」というネガティブな評価が全体の4割を超えた(図2)。

(資料:アトラシアン株式会社 調査)

このようなコラボレーションの非効率性を生む要因の一つとしては、情報の共有・伝達がうまくいっておらず、チームメイト間での「仕事の内容・進捗」の把握が十分にできていない点が挙げられる。実際、今回の調査で回答者に投じた、「所属部署(チーム)全員の『仕事の内容・進捗』を把握できていますか?」という問いに対して、「完全に把握できている」と答えた向きは1割にも満たなかったのである。

もちろん、こうした状況のすべての原因が、ITツールにあるとは言い切れない。とはいえ、問題の一部が、ITツール、あるいはその使い方に潜在している可能性は高く、実際、回答者の3人に1人以上(35.2%)が、所属部署(チーム)の「コラボレーション環境(IT環境)」に対して不満の声を上げ、その比率は「満足」「大いに満足」と答えた向き(23.6%)よりも10ポイント以上高かったのである(図3)。

(資料:アトラシアン株式会社 調査)

目立つメール依存と低いチャットの利用率

では、上記のような回答を寄せた方々は、日常的にどのようなコミュニケーション/コラボレーションツールを活用しているのだろうか。

その回答結果の一つが、図4である。これは、所属部署(チーム)内の「情報共有」「情報伝達」によく使うITツールを尋ねた結果である。

(資料:アトラシアン株式会社 調査)

見てのとおり、回答者の9割以上がメールをチーム内での情報共有・情報伝達に頻繁に活用している。今日、組織内での情報共有・情報伝達の手段として、メールの非効率性がさかんに指摘され、チャット(テキストチャット)ツールの活用を推す声が高まっている。ただし、上の結果を見る限り、日本では、ビジネスにおけるチャット活用の効果がそれほど広く認知されていない、あるいは評価されておらず、チーム内コミュニケーションツールの主流は依然としてメールであることが分かる。

ご存知の方もおられるかもしれないが、こうした傾向は日本特有のものであるらしく、総務省の調べによると、日本企業におけるチャット導入率は23.7%で、米国(67.4%)やイギリス(55.9%)、ドイツ(50.6%)の半分にも満たない状況であるという(*1)。

*1 参考:総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究(2018)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd144220.html

こうした“メール依存”とも言えるような日本の状況は、コラボレーションの場面では多少緩和され、チャットツールをはじめとする他のツールを使う傾向も見受けられている。ただしそれでも、他のツールと比べてメールを使おうとする回答者の比率は圧倒的に多く、コラボレーションの場面においても、メールが中心的な役割を演じていることが分かる(図5)。

(資料:アトラシアン株式会社 調査)

足りないツールの上位に「社内Wiki」

先に示したとおり、回答者の多くは、上で示したようなIT環境に不満を抱いており、情報共有やコラボレーションの効率化、さらにはチームの生産性/パフォーマンスの向上に向け、より利便性の高い環境を求めている。

では具体的に、今回の回答者はどのようなツールが不足していると感じているのだろうか。その調査結果は図6に示すとおりである。

※小数点第2位以下をまるめているので、合計が必ずしも100%にならない場合がある。
(資料:アトラシアン株式会社 調査)

この結果で注目すべきは、「社内Wiki」が、最も足りていないツールの上位にランクされていることだ。前出の図4・図5の結果から、日本の組織では社内Wikiがほとんど活用されておらず、普及もしていないことが分かる。その背景として、社内Wikiに対する認知が他のツールに比べて低いことが考えられるが、それでも、個々人の経験や知見が簡単に共有でき、チーム内のディスカッションも展開しやすいといった社内Wikiの有用性を認める向きも相当数存在し、それが図6に示すような結果につながったと言えるだろう。

メールをあまり使わないチームのほうがハイパフォーマンス(!?)

いずれにせよ、今回の調査結果からは、日本企業のチームの大多数は、自チームの生産性/パフォーマンスやコラボレーションの効率性を普通以下と見ており、一方で、チーム内でのコミュニケーション/コラボレーションをメール中心で回そうとする傾向が強くあることが分かった。

こうした状況を総合すると、“メール依存”のコミュニケーション/コラボレーションスタイルから脱け出し、さまざまなツールの特性を把握して、それぞれを適所で有効に活用することが、チームの生産性/パフォーマンス向上のカギを握っていると言えそうである。

それに関連して、今回の結果をクロスで集計したところ、少し興味深い結果が得られたので、付記しておく。その結果とは、メールを情報共有・情報伝達のITとして“あまり使っていない少数派”のほうが、メールをよく使うとした多数派よりも、自チームの生産性/パフォーマンスを肯定的に評価する傾向が強いというものである(図7)。この辺りも、今後のツール選びの参考になるのではないだろうか。

*A:「とても高い」「高いほう」とした回答者の比率の合計
*B:「あまり高くない」「かなり低い」として回答者の比率の合計
(資料:アトラシアン株式会社 調査)


参考データ:回答者の属性