アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、生産性向上に有効とされている手法について、その実効果のあるなしを検証する。

その手法は本当に有効なのか?

「もっとお金が欲しい」「もっと車が欲しい」──。私はそういった唯物論者的な欲望はないが、こと仕事になると、「もっと成果を上げたい」「もっと生産性を上げたい」「もっと成功したい」という欲求が頭をもたげてくる。もし、1日の時間が数時間延長できるとしたら、間違いなく、生産性向上の中毒患者のごとく「もっとできるぞ、もっと、もっと……」と働き続けるかもしれない。

世の中ではこれまでも、人の生産性を上げるうえで有効とされる手法がさまざまに紹介されてきた。ただし一方で、それらの手法が本当に効果的かどうかの検証はあまり行われてこなかったように思える。そこで本稿では、仕事の生産性を高める手法として米国でよく知られている7つの方法にスポットを当て、その実効性について検討することにしたい。

検証1「とにかく働き続ける」

この考え方の真逆の考え方として、「働き続ける時間が長くなればなるほど、生産性は低下する」という見解がある。確かに一定の時間、働き続けると人の脳は疲弊する。その結果として、細かな部分が見えなくなり、関係する点と点を結び付けることができなくなる。

ただし、持続可能なペースを守りさえすれば、長時間働き続けることに問題はなく、そのほうが結果的に有効な場合がある。書籍『Emotional Intelligence』の共著者であるトラビス・ブラッドベリー(Travis Bradberry)博士は、「1時間働くたびに15分の休憩を入れる」というペースを推奨している。この15分の休憩のときは、メールのチェックも禁止である。すべての仕事をいったん止めて15分間の完全な休息を取る。こうして次のラウンドに臨む準備を整えれば、あなたの脳は再び創造性を取戻すのである。

検証2「忙しさを維持する」

この考え方の背後には、「忙しい=生産的」という発想がある。実際、忙しく働いていると、何かを生産しているような気分になる。ただし、その忙しさに本当に意味はあるのだろうか。スポーツの世界で言う「無駄な動き」に類するものではないだろうか。そして、それは本当に正しい何かを生産するための忙しさなのだろうか。

単に多様な仕事を猛烈な勢いで処理しているからといって、それらの仕事のすべてに価値があるとは限らない。また、忙しさが生産性を阻害することもある。実際、あまりにも多忙だと、私たちはつい一つ一つの仕事の完成度を低下させがちになる。要するに、時間がないことを言い訳にして“生焼け状態”で一つの仕事を終わらせ、次に移ろうとしてしまうのである。そのように中途半端な生産物を出し続けることを、生産性とは決して呼べないのである。

ゆえに、そんな状態にある自分に気づいた際には即刻、仕事のやり方を見直すべきである。その際、結論として一週間における自分の労働負荷を20%削減する(つまりは、ワークデイ約1日分の労働負荷を減らす)ことが必要だとしたら、あなたはどの仕事を切り捨てるだろうか。ただ、それが何であれ、真の生産性向上のために労働負荷の20%削減が必要であるなら、それに向けて仕事の切り捨てを断行すべきである。それが自分の仕事の価値を高めること、言い換えれば、自分の付加価値労働生産性を高めることにつながるのである。

検証3「プレッシャーを取り入れる」

結論から先に言えば、プレッシャーは仕事の生産性を落とす以外、何の役にも立たないということである。

実のところ、人間はプレッシャーに弱い。私たちはストレスを受けると、脳の前頭前野の部分(創造性や論理的な思考を司る部分)が機能しなくなる。そして、コルチゾールとアドレナリンのレベルが急上昇し、パニックに陥る。その結果、仕事は焦りで不完全なモノとなり、アウトプットは惨憺(さんたん)たる結果となる。

反対に、常に前向きに仕事ができる環境は、従業員の生産性にプラスの効果を与える。このような“ポジティブワーキング”の環境は、従業員同士の強い結束と信頼関係によってもたらされるものだ。互いのミスを許容し、ミスを隠したり、責めたりするのではなく、ミスから学ぼうとする。また、全員が目的を共有し、互いに信頼し、尊敬し、感謝し合う──。そのような文化が、ポジティブワーキングの環境を生み、一人ひとりの生産性を高めていくのである。

検証4「最も厄介な仕事を最初に片付ける」

小説家マーク・トウェイン(Mark Twain)の言葉を借りれば、最初に最もやりたくないタスクを片付けてしまうのが、物事に当たるうえでのルールであるという(下記の引用を参照)。

「朝一番に、生きたカエルを食べてしまえば、その一日は、それ以上最悪のことは起こらない」── マーク・トウェイン

この考えには、私も賛成である。また、多くのビジネスパーソン(米国の場合)が、このトウェインの教えに従って、仕事をするときには最もやりたくないこと、あるいは厄介なことから手をつけるというルールを守っている。

ただし、このアプローチには一つの落とし穴がある。それは、カエルを食べる勇気がなかなか出ずに、着手を先延ばしにしてしまうことだ。これにより、他の仕事への着手も結果的に遅れてしまい、生産性を落とすことになる。

生産性コーチのキンベリー・メッドロック(Kimberly Medlock)氏は、このような先延ばしを回避する方法として、ワークデイ一日の業務時間のおよそ20%(つまりは90分間)を最も重要な仕事(あるいは、厄介な仕事)のためにブロックすることを推奨している。

検証5「マルチタスクを追求する」

「マルチタスク」を、人の生産性を高める一手と考えている方は、その考え方を即刻捨て去るべきである。

そもそも、人の脳はコンピュータのように、正しくマルチタスクが処理できないことがすでに証明されている。つまり、私たち人間は情報を逐次的に処理することしかできず、異なる複数の情報のストリームをパラレルで処理することはできないのである。

それでも、なかにはマルチタスクをしているふうを装う方もいる。ただしそのとき、その人の脳は膨大なエネルギーを使いながらタスクの切り替えを行っているにすぎない。そしてタスクを切り替えるたびに、いちいち思考の連なりを後戻りして、やり残したことはないかどうかを確認し、タスクを前に進めていく。これは明らかに効率的とは言えず、効果的でもない。しかも脳の疲弊は激しくなり、生産性は悪化の一途をたどることになる。

ゆえに、マルチタスクという考え方は捨て去り、タスクを一つずつ、適切な休憩を挟みながら進めていくことが重要である。仮に、あなたの仕事のスケジュールがマルチタスクを前提にしたものであるならば、スケジュール自体を見なすことが肝心だ。

検証6「すべての会議への出席を断る」

仮に、会議があなたの生産性を犠牲にしていると考えるなら、会議に出ないという決断を下す前に、会議のあり方を改めることに力を注いだほうがよい。

正しく作られた会議は、非常にクイックに多くの成果をチームや組織にもたらす。例えば、チームの全員が、物事の背景事情についての情報・資料を共有していれば、1回の会議でさまざまな有効な選択肢を考案することができる。また、適切なメンバーが集まり、リアルタイムに意見を交わすことで、より価値の高い、創造的で堅牢なソリューションがスピーディに想起される可能性も高まる。

検証7「生産性向上アプリをスマホにインストールする」

Appleの「App Store」やGoogleの「Google Play」には、業務の生産性向上を目的にしたスマートフォン/タブレット用のアプリが数多く(数百種のレベルで)ある。これらのビジネスアプリの市場は、すでに500億ドル規模に達しているという。

となれば、「一つぐらいは、自分たちの業務にピタリとフィットし、生産性の向上に役立つアプリがあるだろう」と考えるのが当然である。ところが、驚くべきことに、大抵の場合、そのようなアプリは見つからないのが通常なのである。

それでも、スマートフォンを仕事の生産性向上に活かすチャンスはある。それは、スマートフォンの電源を切ってしまうこと、あるいは、最低でもスマートフォンからの通知をミュートしてしまうことである。

『Experimental Psychology』ジャーナル誌の 2015年の調査レポートによると、米国フロリダ州立大学の研究者たちが次のような発見をしたという。

「人は自分のスマートフォンが鳴ると、たとえそれを見なくても、音によって心が揺さぶられる」

とはいえ、仕事をしているときは、とにかく自分の視界からスマートフォンを遠ざけることが重要である。『The Willpower Instinct』の著者で、米国スタンフォード大学で心理学の教鞭をとるケリー・マクゴニガル(Kelly McGonigal)氏も、「スマートフォンが机の上にある状態は、人の集中力の大きな妨げになる」と指摘している。

さらに、すべての会議に有形のアウトプットの供出と関係者への共有を求めるようにすることで、会議を有効で生産的なものにすることができるのである。

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ビジネスの世界には、まったく根拠のない作り話が意外と多くある。ビジネスにおける“神話”は、何の役にも立たず、面白くもなく、厄介な迷信に過ぎないものがあまりにも多い。その意味でも、本稿の記述が、皆さんの生産性向上の一助になれば幸いである。