アトラシアン ソフトウェアには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

“効果的”と浮かれているのは顧客サービス担当者だけ?

今回は、「チームの教科書」的なテーマから、少し離れた話をする。それは、「チャットボット」だ。

企業の経営層の方々は、果たしてご存知なのだろうか。自社のサイトのチャットボットが顧客から激しく嫌われていることを。

こう言うと、多くの方がこう切り返してくるだろう。

「知っているよ、そんなこと。何しろチャットボットは機械だからね。人と同じようにはいかないさ。でも時代はAI。人の“機械的な反復仕事”は、AIに肩代わりさせるのが常識だよね。」

確かに、そのとおり。しかし、ここで留意していただきたいことがある。あなたの会社の顧客は、自分に対するサービスを機械的な反復仕事であるとは、まったく考えていないことだ。PwCによる最近の調査でも、顧客はより人間的で、より“非機械的”なサービスを求めていることが明らかにされている。

調査によれば、世界各国の顧客の59%(米国に限れば64%)が、今日の企業はサイトの自動化やデザインのトレンドに執着し過ぎで、最高の顧客体験を創出できるはずの“人との接触”を疎かにしていると見ているという。また、60%の顧客が、平均点以下の体験を数回しただけで、ブランドに対するイメージを悪化させているようだ。

一方で、自動化のテクノロジーをどう使えば顧客体験を改善できるかを理解している企業の経営層は、全体の半数にも満たないという。

高級ブランドが指し示す道

もちろん、AIなどの技術に絶望感を抱く必要はなく、そこには希望もある。

例えば、アメリカン・エクスプレス(アメックス)やリッツ・カールトンのような“賢明”な企業は、AIを“対顧客”に使おうとはせず、内部的な効率化にのみ用いようとしている。つまり、AIによって社内業務の自動化・効率化は進めるが、AIを顧客対応の“表舞台”に立たせるようなことはしていないわけだ。

こうした戦略の下、リッツ・カールトンでは、各社員に対し、顧客体験向上のために年間2,000ドルの予算を自由に使っていい権限を与えている。

また、アメックスでは、顧客サービスの担当者に対し、コールセンターのエージェンシーとより密接に連携し、顧客との関係強化を図るよう指示を出した。結果として、同社の顧客サービス担当チームは、お決まりのスクリプトによって顧客からの問い合わせに対応するのではなく、コールセンターのオペレーターが必要だと感じる時間をかけて、顧客への対応を自由に行わせるという、ある意味で“自動化”とは真逆の方針を打ち出した。結果として何が起きたのか──。それは、顧客の契約継続率が劇的に高まったことである。

ツール、人、プラクティス

断っておくが、上記2つの企業はテクノロジーの活用に消極的な会社ではなく、むしろその逆だ。ITによって顧客の購買履歴を引き出すためのプロセスを改善するなど、顧客体験の改善に向けて相応のIT投資と努力を払ってきた。そうした彼らが指摘しているのが、優れた顧客体験は、良質の「ツール」と「人材」、そして「プラクティス」の3つがそろって初めて実現されるというものだ。

以下、これら3つの要素について、少し説明を加えておきたい。

■ツール

アメックスが賢明だったのは、自動化のテクノロジーやサイト分析のテクノロジーを、あくまでも自社のスタッフに顧客情報を提示するための技術として用いてきたことだ。アメックスが投資してきたような自動化の技術やサイト分析の技術によって恩恵を受けるのは、顧客対応スタッフだけではない。営業担当者やマーケティングチームは、これらの技術によって、見込み顧客がサイトのどこで脱落しやすいのかを把握し、より魅力的な「ショッピング体験」の創出に役立てることができる。また、プロダクトマネジャーは、サイト分析を通じて、顧客が最も頻繁に遭遇している問題をつかむことができ、プロダクトの改善にいち早く取り組むことが可能になる。

■人材

顧客サービスを担う人材を雇用する際に、自社の“文化”にフィットしているかどうかを判断材料の一つにするのは大切だ。ただし、文化的な適合性に偏りすぎると、チーム内のメンバーの考え方が非常に似通ったものになり、改革・改善のアイデアが生まれにくくなる。したがって、文化的な適合性よりも、人材が持つ“価値”で人を選び、顧客対応の前線で働くチームが、顧客のために、自らサービス改革・改善のイニシアチブを取れるようにしておくことが大切だ。

■プラクティス

プラクティスに関しては、下記3点を意図的に推進することがきわめて重要と言える。

①透明性:顧客との対話の透明性を確保することは非常に大切なことだ。例えば、顧客サービスの担当チームが行ったサイト分析の結果を、組織全体で共有することで、顧客に対する貴重な洞察を得ることができる。また、顧客に対して、既知の問題や改革・改善の手段をオープンにすることは、自社のブランドに対する顧客のロイヤルティを高める一手となる。

②自律性:顧客サービスの担当チームや、チーム内の個人に自己裁量で動ける権限を与え、自律的に、かつ迅速に行動できるようにしておくことも重要だ。こうすることで、サービスの改革・改善のスピードが高まるからである。

③コミュニティ:顧客と密接につながることができるコミュニティを築き上げ、顧客に接し続けることで、顧客がモノを選ぶときの選択基準やモノの使い方、自社に対する新たなニーズなど、さまざまなことを学んでいくことができる。その情報を組織全体で共有すれば、さまざまなレベルで、顧客の日々の動きがとらえられるようになる。

おそらく、あなたの会社のライバルたちは、依然として自動化されたサイトで顧客に対応しようとしているはずだ。また、ある調査によれば、企業の約90%が、“デジタルフロント”の取り組みについては、よりよい顧客経験を生み出すことが第一優先事項ではないとしているという。だとすれば、あなたにとって大きなチャンスである。というのも、ある調整によると、消費者の約70%が、よりよい顧客体験がブランドを切り替えるきっかけになりうるとしていたからである。

AIを使うのもいいが、競争優位を確保したいと考えるならば、その使い方を早急に改めたほうがいいかもしれない。