『OKR(オーケーアール) シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法』

著者 :クリスティーナ・ウォドキー[著]、二木 夢子[訳]
出版社  :日経BP社
出版年月日:2018/3/15

OKRの導入には「失敗例」が多い

「働き方改革」で勤務形態が変化しつつあるなか、社員の働きを評価するために「目標管理制度(MBO:Management by Objectives)」を導入している企業が多い。

MBOは、個人の目標を測定可能な結果で評価することで上司が部下をマネジメントする手法だ。本書のテーマ「OKR(Objectives and Key Results)」は、そのMBOを発展させたものと言える。

本書は2部構成になっている。第1部は小説仕立てでOKRの効果を紹介し、第2部で具体的な導入手順を解説している。

小説による解説は、米国のビジネス書によくある手法だ。ストーリーを描くことでより記憶に残りやすくなる。一般的なストーリーは、「背景紹介」→「問題発生」→「新手法の導入」→「新手法による解決(最も解説したい部分)」→「その後の発展」となっている。

本書はそれに“ひねり”を加えていて、「背景紹介」→「問題発生」→「新手法の導入」→「新手法の失敗」→「新手法の再導入」→「新手法による解決(最も解説したい部分)」→「その後の発展」となっている。新手法の「失敗」と「再導入」が追加されている。

失敗からの挽回は、ストーリーテリングの王道だ。とは言え、単にドラマチックなだけでなく、実際にOKRの導入に失敗例が多いことを示している。そのため、第2部では「OKRの導入にはどの会社も最初は失敗する」と言い切り、挽回するための指針を提示している。

失敗の原因を分析することが重要

小説仕立ての第1部は、OKRの導入事例としてだけではなく、米国のスタートアップ企業の話なので興味深い。

「小規模な生産者から高品質のお茶を仕入れ、高級レストランやカフェに販売する」というビジョンを共有している共同創業者が、発注用Webサイトの改善に手間取っているうちに資金が底をつき始める。そこで、食品納入業者を使った一括販売にシフト。個々のレストランを対象にビジネスをするよりも効率が良いからだ。しかし、それでは納入業者の力が強くなって、自分たちのビジョンから離れてしまうというリスクがある。

強力な代理店と契約することで安定した売上を確保できるが、代理店の圧力で値下げやそれに伴う品質低下が発生することはよくある話だ。製品から自社の名前がなくなり、代理店が設定した独自ブランドに変わることもある。これでは自社のビジョンを世の中に伝えるのが難しくなる。

そして、創業者たちは、会社のビジネス状況を社員が理解していないことが最大の問題だと気付き、本題であるOKRを導入。しかし、失敗する。その後、再度チャレンジし、社員が進行中のビジネスを正しく評価できるようになるという展開である。

第2部では、OKR導入の実践的な手順を紹介している。第1部のストーリーが頭に入っていれば、納得できる内容だ。先に書いたように、失敗することが想定されている。覚悟しておく必要はあるが、「失敗するのが当然だ」と開き直るのではなく、失敗の原因をきっちり分析することが重要となる。

過程をほめると「次はもっと頑張ろう」に

OKRをベースとした目標設定は、Googleをはじめ、米国企業で広く使われているそうだ。もちろん、日本でも適用できる。「日本には馴染まない」とされたものが日本に根付いた例はいくつもある。

OKRでは、抽象的な目標(Objectives)を掲げるが、結果(Key Results)は測定可能な数値のみで評価する。確かに、「測定できないものは改善できない」ので、数値で評価することは良いことだと思う。ただし、本書には明記されていない問題がある。それは、「人を結果だけで評価するとモチベーションが下がり、新しいことにチャレンジする意欲をなくす」という事実だ。

数値による評価で「できた/できなかった」は明確になるが、できなかったときの気分の落ち込みは大きい。その結果、「できないことをしないようにしよう」、つまり「できることだけしよう」となり、新しいことにチャレンジする意欲を失う。

モチベーションを維持し、チャレンジ精神を失わないためには、結果ではなく過程をほめることもまた重要である。これにより、自己評価が上がり、「今回はできなかったけど、次はもっと頑張ろう」と思えるようになる。

日本で導入されているMBOの多くは、こうした問題を抱えている。多くの場合、MBOは個人評価と結びつくため、その内容は上司とだけ共有され、同僚とは共有されない。そのため、結果が悪かったとき、仲間と相談することが難しく、気分の落ち込みを回復できない。

所属部門だけでなくビジネス全体を理解

OKRでは、以下の3つの工夫をすることでMBOの問題を解決しているように思える。これはあくまでも「推測」であり、本書にずばり書かれている内容ではない。

第1に、OKRは全社員で共有される。そもそも単なる個人評価を目的としたものではない。あくまでも、ビジネス推進のツールだ。他部署の目標を見ることで、自分の所属部門だけでなく、ビジネス全体を理解できるようになる。

第2に、頻繁なコミュニケーションを併用する。本書では週に1回としているが、上司がフォローするためであろう。数字の未達成によるモチベーション低下を、上司とのコミュニケーションで補うのだとすれば、週に1度のミーティングは適切と思われる。

第3に、OKRの評価指標は達成できる見込みが半分くらいのレベルに設定する。多くのMBOは100%達成が当然とされているが、もともと達成可能性が低いのなら、評価指標を下げるべきだろう。

「あとがき」には、「OKRはMBOから生まれた」とあるが、両者の違いについては明記されていない。確かに「OKRの全社共有」「頻繁なコミュニケーション」「ストレッチ目標」など、必要な要素については本文に書かれているが、なぜそうする必要があるのかは記述されていない。

このように、本書には残念な点もあるが、全体としては読みやすく、実践的で実用的だ(理由は抜けている場合もあるが)。ビジネス目標を達成するため、社員の求心力を高める方法を探している方にはぜひお勧めしたい。