アトラシアン ソフトウェアには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

コラボレーションは「買うモノ」ではない

今日、仕事上の問題解決に創造性が必要とされるケースが増えている。おそらく、この傾向は今後ますます強まっていくだろう。

このような時代において、チームの仕事が常に“効果的”であるためには、メンバー間の強固なコラボレーションが必須となる。そして、チームにおけるコラボレーションの強固さを保つためには、仕事のあり方や従業員に対するプラクティスのあり方を常に見直し、継続的な改革・改善を図ることが重要と言える。

にもかかわらず、組織のリーダーはよく、ITのツールですべが解決できると思い込む(IT好きの米国のリーダーたちは特にこのワナに陥りやすい)。例えば、以下のような具合である。

「えっ? チーム内でのノウハウやアイデアの共有が足りないって? ならば、新しいツールを入れよう。それで万事がうまくいく」──。

だが、ITの環境をどんなに整えたところで、リアルな世界での正しい行動がなければ、組織内のコラボレーションは活発化しない。「闊達なコラボレーション」は「お金で買えるモノ」ではなく、また、コラボレーションの問題を解決してくれるツールも世の中には存在しないのである。

賢明なリーダーが遂行している3つの施策

では、コラボレーションにかかわる問題を解決し、チームのパフォーマンスを高めるにはどうすればよいのだろうか──。

実は、コラボレーションの活性化に成功しているリーダーたちは、共通して次に示す3つの施策を遂行している。

①チームの自律的な意思決定を促進する
②“クロスファンクショナル”なチームを形成する
③チームレベルでダイバーシティをきかす

以下、これらの施策について説明を加えたい。

【施策①】チームの自律的な意思決定を促進する

組織のリーダーの犯しやすい過ちは、「チームの中で、自分が最も賢く、物事に対して正しい判断が下せる」と思い込んでしまうことだ。

だが、本当に賢明なリーダーはそれが単なる「思い込み」に過ぎないことを認識している。それゆえに、彼らは、現場で働くチームに意思決定の権限を与え、メンバー各人が持つ知識・経験をフルに活用させながら、自律的に、すばやく行動を起こすことを奨励している。

もちろん、チームの意思決定や行動に一貫性を持たせたり、統制をとったりするために、明確なビジョンを示すことは大切だ。賢明なリーダーたちは、そうしたうえで、現場で働くチームに行動に関する自己裁量権を与え、「自分たちが、チームのオーナーである」という意識を根づかせている。これにより、仕事に対するチームのメンバーのモチベーションは、グンと向上することになる。

その逆に、仕事に対する意思決定の権限が与えられていないチームの場合、仕事に対する当事者意識が薄れ、報酬以外に、自分たちが何のために働いているかが見えなくなる。これでは、チームのパフォーマンスは上がっていかない。

【施策②】組織横断型の“クロスファンクショナル”なチームを形成する

近年、企業IT世界で「DevOps」という用語を目にする機会が増えている。DevOpsとは、企業ITシステムの開発(Development)と運用(Operation)の担当者、ないしは、それぞれの担当組織が一体となって機能することを意味する言葉だ。

企業ITにかかわりの薄い方は奇妙に思えるかもしれないが、企業ITシステムを「開発する組織」と、開発されたシステムを「運用する組織」は、別組織であることが多い。しかも、両者の間に相互理解や相互協力、あるいは信頼関係が確立されていない──もっと単純化して言えば“仲が悪い”場合が通常だ。

ところが近年では、企業の事業を支えるITシステムを猛スピードで立ち上げたり、改善したりする必要性が高まっている。それに伴い、(企業の事業戦略に沿って)開発と運用が密接に連携して動くこと──言い換えれば、開発・運用の組織横断的な“クロスファンクショナルチーム”を形成することが強く求められるようになった。それが、DevOpsという用語を生み、それに対するニーズの拡大につながったのである。そして今日、これと同様のことが、企業のあらゆる部門・部署で起きている。

このように、異なる組織で働くメンバー同士のコラボレーションを活性化させ、一体となって機能させるうえでは、組織の壁を越えたクロスファンクショナルチームを形成し、そこに各部署のメンバーを所属させることが良策と言える。また、少なくとも、何らかのプロジェクトに対し、異なる組織のメンバーを参加させることが必要とされるだろう。

例えば、筆者自身も、自分の会社(アトラシアン)で2つのチームに所属している。うち一つは6名から成るチームだが、そのメンバー全員が異なる組織に所属し、直属の上司も異なっている。いわば、この6名は、あるプロジェクトに対して、“パートタイマー”として参加しているわけだ。ただし、6名全員が毎日、そのプロジェクトでの仕事をこなし、アクティブに動き、成果に責任を持っている。

言うまでもなく、6名のメンバーはそれぞれが異なる専門スキルを持ち、考え方も違う。ただし、こうしたスキル・発想のダイバーシティ(多様性)は、より的確でスピーディな意思決定や行動につながる場合が多い。賢明なリーダーたちは、そのことを十分に理解しており、ゆえに、クロスファンクショナルチームの形成に力を注いでいるのである。

【施策③】チームレベルでダイバーシティをきかす

人材のダイバーシティは、組織におけるコラボレーションの活性化や生産性向上には不可欠な要素だ。ただし、このダイバーシティのあり方について、少し間違ってとらえている方もいる。

例えば、ある会社のリーダーとこんな会話を交わしたことがある。

某リーダー:「うちの会社は、社員の40%が女性。どうだい、ダイバーシティがきいているだろう」
筆者:「それらの女性の方々は、どのような仕事をされているのですか。まさか、全員がマーケティングや人事の仕事をされているわけではないですよね」
某リーダー:「いや、まあ、大多数はマーケティングと人事の仕事をしているんだが……。それに何か問題があるのかね? キミは一体何が言いたいんだ?」

ここで筆者が指摘したのは、「ダイバーシティは、全社レベルではなく、チームレベルできかすべき」という点だ。そうすることで、組織の各チームに異なる知見やスキル、バックグラウンドを持った人材が集まり、それぞれのメンバーが日々、互いに影響し合い、気づきを与え合いながら、共感の輪を確立していくようになる。これにより、チームのコラボレーションが生産的になり、パフォーマンスが高められていくのである。

同様に、従業員に対するプラクティスも重要だ。筆者はこれまで、DevOpsの取り組みの中で、同じ過ちを繰り返し、崩壊したチームを幾度も目にしてきた。すべてのチームが、自分たちのシステムを試し、プラクティスを積み、自らを変化させる機会を与えられていたにもかかわらず、である。

プラクティスに対する意欲が部門や部署レベルで欠落していれば、そのグループで働く個々人も「プラクティスを積まなくても問題はない」と考えるようになる。結果、チームの能力は底上げされず、常に同じような壁に突き当たり、その壁を乗り越えられずにいるのである。

繰り返すようだが、プラクティスの欠落といった問題を含めて、チームのコラボレーション/パフォーマンスにかかわる問題は、ツールでは解決できない。問題の根源は、「人間」にあり、IT側ではなく、人間側の課題解決に力を注ぐことが重要だ。

例えば、最近では、コラボレーションの活発化を目指して、オフィスのすべての壁をホワイトボード化している企業が増えている。

ただし、自分のアイデアを自由に披露し、オープンに意見を交わす風土が社内になければ、そのようなオフィス環境に対して、誰も“心地よさ”や“便利さ”を感じることはないだろう。またそれは、オンライン型のホワイトボードについても同様であり、それを導入しただけで、組織におけるコラボレーションのあり方が変わることはないと言い切れる。まず成すべきことは、組織全体やチームに潜在するコラボレーションの阻害要因を取り除くことである。

筆者は、コラボレーションのことを、人同士の信頼と心理的な安心感、異論の尊重、意見の闊達な交換、そして組織的なダイバーシティをいかにして確立するかの科学であり、アートであるととらえている。それらの確立には、テクノロジーはそもそも必要ではない。