『ビジネスモデル for Teams 組織のためのビジネスモデル設計書』

著者   :ティム・クラーク[著]、ブルース・ヘイゼン[共著]、今津 美樹[訳]
出版社  :翔泳社
出版年月日:2017/11/16

強力なツールでビジネスモデルを「可視化」

日本では、働いている人のほとんどが何らかの組織に属している。そして多くの人が組織や自分の仕事について不満を抱えている。そういった状況を解決する「処方箋」となりうるのが「ビジネスモデル for Teams 組織のためのビジネスモデル設計書」だ。

本書は、「個人」「チーム」「組織」という3つのレベルで考えるべき内容を提示する。そして、全員が「ビジネスモデル」について理解することを求める。組織のビジネスモデルを理解することで、全社的な目標が明確になり、組織のためにチームは何をすべきか、チームのために個人は何をすべきかがはっきりするという。

本書には登場しないが、「3人のレンガ職人」の有名な寓話がある。ざっとまとめると、次のようになる。

━━ 旅人がレンガを積んでいる職人に「あなたは何をしているのですか」と尋ねると、職人は、険しい顔で「レンガを積んでいる」と答えた。別の職人にも尋ねたら、平気な顔で「壁を作っている」と答えた。さらに別の職人に尋ねたところ、喜びに満ちた顔で「大聖堂を作っている」と答えた。

この寓話から、個人、チーム、組織に関する本質を読み取ることができる。個人の仕事としてはつまらないことでも、チーム全体では普通の仕事になり、組織全体では社会に貢献している達成感を味わえる。組織の目標を理解することは、楽しく仕事をするための不可欠な要素だ。

組織、チーム、個人の目標を理解するために、本書ではビジネスモデルを明確にする「ビジネスモデル・キャンパス」という強力なツールを紹介している。ビジネスモデル・キャンパスは「キーバートナー」「主な活動」「価値提案」「顧客との関係」「顧客セグメント」「コスト」「主なリソース」「チャネル」「収入」の9つの要素からなる1枚のシートだ。これにより、ビジネスモデルを可視化することができる。

自社のビジネスは知っていても、ビジネスモデルを理解している人は意外に少ない。ビジネスモデル・キャンパスの各要素を埋めていくことによって、意識していなかったことを自覚できる。また、同じビジネスモデル・キャンパスを、組織レベル、チームレベル、個人レベルで適用すれば、組織と個人の葛藤を解決するツールにもなる。

スキルは「スタイル」と一体で考えるべき

組織人として、個人に求められる職業能力が「スキル」だ。プログラマーはプログラミングのスキルが重要だし、営業職は顧客の課題を理解し、適切な製品を提案するスキルが必要となる。

しかし本書は、スキルだけでは組織の中で十分な力を発揮できないという。スキルと並び重要なものとして「役割(ロール)」を挙げている。

多くの組織で、明示的あるいは暗黙のうちに役割が決められている。「新しく入社した人の面倒を見る人」「プレゼンテーションのうまい人」「経営者の心に響くストーリーを考える人」というように、各自が得意なところでチームに貢献しているだろう。

スキルだけでなく、役割も評価することで、個人は組織の中で自分の能力を生かし、“居場所”を作れるようになる。例えば「後輩の指導」は、通常ビジネススキルとは見なされない。しかし、面倒見が良く、分かりやすい説明をする人に「後輩の指導者」としての役割を明確に与えれば、その人のモチベーションは上がり、組織全体に貢献していることを実感できる。

もちろん、一定のスキルを身に付けることは、組織人としての大前提だ。しかし、高いスキルがあっても、提供方法が不適切な場合は効果が上がらない。プレゼンテーションはうまいのだが、顧客の質問をさえぎるような行動をしていると信頼が得られないだろう。「あの人はよくできる人なんだけどねえ」と言われるだけである。逆にプレゼンテーションがへたで人当たりだけ良くても、「あの人はいい人なんだけどねえ」になってしまうだろう。

要は、スキルを適切に提供できる「スタイル」を身に付けることが大事である。スキルとスタイルは一体で考えるべきだとして、本書ではこれを「スカイル」(スキル + スタイル)と呼び、その重要性を説く。

残念ながら、本書には専門知識であるスキルの習得方法はもちろん、スタイルについての詳細な解説はない。スタイルは、どのような職業でも共通化できると思うので、そこは掘り下げてもらいたかった。

本書の活用は「仲間とともに」がお勧め

本書は、米国人が執筆し、事例は豊富だが、ほとんどが米国企業または米国を中心とする国際企業についてである。しかし、内容は普遍的なものであり、特に国による事情を考慮する必要はない。

また、本書には、ビジネスモデル・キャンパスをはじめとするワークシートを使った思考が提示されている。ワークシートは、ビジネストレーニングでは一般的な手法だが、日本の社会人研修は精神論が多く、見慣れない人もいるかもしれない。しかし、本書にはシートの記入例も掲載されているため、理解するのは決して難しくはないはずだ。

とはいえ、ワークシートを十分活用するにはチームでの作業が不可欠となる。1人でシートを埋めることが無駄だとは言わないが、3~4人くらいのチームで作業した方が「気付き」が得られる。それに、1人でやると継続は難しいかもしれない。2人だと意見が対立したときに調整ができず、5人以上だと発言しない人が出てきて効果が薄れる。3、4人がベストではないだろうか。

本書をただ読むだけでも、組織のビジネスモデルの重要性を理解し、チームや個人の力を有効に活用するヒントは得られるだろう。しかし、実践で生かすためには、仲間を募って作業することを強くお勧めする。全社的な取り組みでなくても、「社内勉強会」という形で良い。得られるものは大きいはずだ。