経営手法としてのアジャイルの活用法を指南

著者:ベイン・アンド・カンパニー:ダレル・リグビー、サラ・エルク、スティーブ・ペレズ、石川順也/市川雅稔(監訳・解説)、川島睦保(訳)
出版社:東洋経済新報社
出版年月日:2021/8/20

「アジャイル」は、ソフトウェア開発の手法として広く知られているが、本書はその手法を広く経営に役立てる道筋を示した一冊だ。著者陣と監訳・解説者はすべて、経営コンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニーのパートナー(ないしは、アソシエイトパートナー)で固められている。

ご存じの方も多いと思うが、ソフトウェア開発手法としてのアジャイルも、プログラミングの技法/方法論ではなく、ソフトウェア開発を担当するチームが速やかに成果物をリリースし、改善を重ねながら、効果を高めていくためのコラボレーション手法、あるいはチームマネジメントの手法である。また、アジャイル開発の標準的な方法論である「スクラム」についても、考え方の原点は一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏の論文「The New Product Development Game(邦題/新しい新製品開発ゲーム)」にある。

そう考えれば、アジャイルの考え方は、そもそもソフトウェア開発の領域に閉じたものではなく、より広範な組織・チームに適用が可能なマネジメント手法であると見なすことができる。本書では、そうしたアジャイルの守備範囲の広さと可能性について次のように表現している。

日本の企業経営においては、これまでアジャイルが狭義に定義、活用される傾向があった。・・・中略・・・ しかし、アジャイルの経営コンセプトは、はるかに広義に企業の様々な場面での有効活用が可能で、企業にとって顧客支持と競争力の向上に直結する極めて実践的でパワフルなものである。

もっとも、「経営手法としてのアジャイル」(以下、アジャイル経営手法)は多くの誤解や混乱ももたらしていると、本書は指摘する。そうした現状を打開すべく、正しいアジャイルの適用方法や、アジャイル手法の活用に必要とされる組織のあり方、さらには、リーダーとしての振る舞い方を解説し、アジャイルに対する取り組みの健全性、実用性、安定性をより高めることが本書の目的であるという。

「アジャイル企業」になるため基礎と実践

本書では、アジャイル経営を実践し、“活き活きとした組織運営”を行う企業を「アジャイル企業(Agile Enterprise)」と呼び、そうした企業にトランスフォーム(転換)するための手法を以下の章立てを通じて詳しく説明している。

  • 第1章 アジャイルはどのように機能するのか
  • 第2章 アジャイルの拡大-社内でどこまでアジャイルを拡大するか
  • 第3章 どのレベルまでアジャイルを適用すべきか?
  • 第4章 アジャイルリーダーシップ
  • 第5章 アジャイルな計画、予算、そして検証
  • 第6章 アジャイルな組織、構造、人材管理
  • 第7章 アジャイルなプロセスとテクノロジー
  • 第8章 アジャイルの正しい実践法
  • 第9章 日本の企業への示唆

上記の章タイトルからも察せられるとおり、第1章から3章までは、アジャイル手法を経営に活かすうえで必要とされる基本的な知識を伝えるためのパートである。

第1章では、架空の菓子メーカーを例に挙げながら、アジャイル経営手法が何によって、どのように機能するかを紹介している。続く第2章では、航空機メーカーのSAAB社や業務アプリケーションベンダーのSAP社、金融サービス企業のUSAA社、さらには、自動車部品・工具メーカーのボッシュ(BOSCH)社などの事例を交えながら、アジャイルの適用範囲を拡大していくステップについて具体的に解説している。

本書によれば、アジャイルの適用範囲には適正なレベルが企業ごとにあり、それを下回るとアジャイルの効果は小さくなり、その逆に適用範囲を広げ過ぎると混乱を招くことになるという。そして、アジャイル企業への転換に失敗する多くの原因が、アジャイル手法の適正な適用範囲を見出せないことにあると本書では指摘し、第3章で適用範囲の最適解を見出す方法を紹介している。

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