チームパフォーマンスはメンバーのハピネス(幸福)度で左右される──。この法則に則り、チームのハピネスを向上させる方策に焦点を当てた本連載(3回連載)。その2回目として、1回目でも少し触れた「EQ/エモーショナルインテリジェンス(感情知性)」について改めて掘り下げる。今回も、ハピネス度向上の指南役としてチーム開発のプロフェッショナルであり、EQの専門家(EQトレーナー/プロファイラー)でもある株式会社環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)、椎野磨美氏に協力を仰ぎ、EQに関するお話を伺った。

そもそもEQとは?

「なんでそんな簡単なことができないんだ!」
「そんなミスをするなんて信じられない!」
「キミにそんなことを言われる筋合いはないぞ!」──。
あなたの会社の中には、こんなふうに部下を始終叱咤しているリーダーはいないだろうか。

このように怒りっぽい性格の人、ないしは、すぐにカッとなり、自分の憤る感情を抑制できない人が組織・チームのリーダーとなり、自分の感情をマネージするスキルを持たないまま仕事に臨むと、部下たちはことあるごとに怒鳴られ、「ハピネス」とは程遠い精神状態の中に置かれる。また、上司の怒りをかうのを避けたいという意識を強く持つようになり、自分の意見を自由に発言しようとはしなくなる。と同時に、すべてのミスを隠そうとし始め、結果として、組織・チームとしてミスに対処する初動が遅れ、大事へと発展してしまうおそれも強まることになる。

もちろん、リーダーではなくとも、組織・チーム内のメンバーが自分の怒りをマネージするスキルを持っていないと、メンバー同士、あるいはリーダーとメンバーとの関係が悪化し、組織・チームの瓦解の危機に直面する可能性が大きくなる。

そんな事態に陥らないためにも、あるいは、組織・チームの心理的安全性や「ウェルビーイング(well-being:身体的、精神的、社会的に良好な状態)」を保つためにも、今日ではリーダーはもとより、組織・チームの各人が自分の「怒り」を抑制する「アンガーマネジメント」の能力、ないしスキルを持つことが重要とされている。

そして「EQ」は、こうした「怒り」を含めた人(自己・他者)の感情──具体的には「喜び」「信頼」「心配」「驚き」「悲しみ」「嫌悪」「期待」、そして「怒り」といった感情を適切にマネージするために必要とされる「知性(インテリジェンス)であり、感情をうまく使う能力のこと」を指していると椎野氏は言う。

EQが注目を集めたきっかけ

日本では古くから、自分の感情をしっかりとマネージできる人、あるいは他者のことを思いやれる人を「人格者」「人間ができた人」、あるいは、よりシンプルに「大人(おとな)」と表現し、尊敬・敬愛の対象としてきた。また、感情をマネージする人の能力が「IQ(知能指数)」で計測可能な知性とはまた別のところにあるということも直感的に理解していたようにも思える。読者諸氏も「あの人は、頭はいいかもしれないけど人格者ではない」といった言葉を耳にした経験があると思うが、そうした言葉は、感情をマネージする能力がIQではない何かであると認識していたことの現れと見なせる。

とはいえ、日本では旧来、「人格者」が自分の感情をどのようにマネージし、他者を思いやれているかのメカニズムやスキルを探究しようとはせず、感情がうまくマネージできるかどうかは「生まれ育ち」「精神の鍛え方」「生来の性格」など、どちらかと言えば非科学的で属人的な要因によって決まると結論づけてしまうことが多かった。怒りっぽい性格の人がよく「精神修行が足りないぞ!」とたしなめられるのは、そのためである。

言うまでもなく、仮に「精神修行が足りない」と人からたしなめられても、「どんな修行を積めば良いか」は漠然としかつかめない(全くつかめない場合もある)。また、そうたしなめた当人も「修行の中身」についてはあまり深く考えていなかったりする。結果、怒りっぽい性格の人は、その性格を修正したい、感情をマネージしたいと考えても、その方法がなかなかつかめずにいたのではないだろうか。

それに対して、脳生理学や心理学の見地から、感情をマネージする知性やスキルとはどういうものかを科学的に解明する取り組みが「エモーショナルインテリジェンス(感情知性)」の研究であると椎野氏は説く。

同氏によれば、この学術研究は1990年ごろから活発化し、ニューヨーク・タイムズの元科学記者で心理学者のダニエル・ゴールマン氏が1995年に発表した書籍『Emotional Intelligence(エモーショナルインテリジェンス)』がヒットしたことで広く一般に知られるところとなったという。また、同じ1995年にニューヨーク・タイムズ誌がエモーショナルインテリジェンスの特集を組み、その中でIQと対比させる目的でエモーショナルインテリジェンスを「EQ(Emotional intelligence Quotient)」と表現した。以降、エモーショナルインテリジェンスは、学術研究領域ではEI(Emotional Intelligence)が使用され、一般用語としてはEQが知れわたり、使われるようになったと椎野氏は説明を加える。

1995年に火が付いたEQブームはいったん下火になり、それから20年以上の時を経て以前にも増して大きな関心・注目を集めるようになった。その契機となったのは、2017年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で「2020年のビジネスパーソンに必須のスキルTOP10」の第6位にエモーショナルインテリジェンスがラインクインしたことだ。また、Googleが2012年に実施した調査研究プロジェクト「プロジェクトアリストテレス」によって、パフォーマンスの高い人材は共通して「心が穏やかで満たされた状態(=マインドフルネスの状態)にある」という事実が突き止められた影響も大きいと、椎野氏は指摘する。

Googleでは、この調査結果を受けて、自分の心の状態(感情の状態)を見つめて調整するマインドフルネスの実践プログラム「Search Insight Yourself(SIY)」を社員研修に取り入れ、その手法を記した書籍が大きな反響を呼んだ。この研修プログラムは、EQを鍛えるプログラムともいえ、結果として従業員各人やチーム、ひいては組織のパフォーマンスを高めるうえでEQを鍛えることの重要性が改めてクローズアップされるかたちとなったという。

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