チームパフォーマンスはメンバーのハピネス(幸福)度で左右される──。この法則はさまざまな成長・成功企業によって実証され、多くの企業の間での共通認識となりつつある。加えて、コロナ禍の影響により、ビジネスパーソンのストレスや不安が膨らみがちになる中、チームのハピネス、あるいは「ウェルビーイング(well-being:身体的、精神的、社会的に良好な状態)」を保つことの重要性が以前にも増して高まっている。
本稿は、そうしたチームのハピネスを向上させる方策に焦点を当てた3回連載の1回目だ。連載では、ハピネス度向上の指南役として、チーム開発のプロフェッショナルであり、株式会社環(KAN)のCHO(チーフハピネスオフィサー)でもある椎野磨美氏に協力を仰ぐ。その初回である今回は、チーム内ハピネスの基礎を支える「コミュニケーション」のあり方について椎野氏に伺った。

そんなつもりで言ったわけじゃ……

読者諸氏は、同僚や部下との対話の中でこんなふうに感じた経験はないだろうか。

「そんなつもりで言ったわけではないのだけれど……。もしや意図が伝わっていないのか?」

ほめたつもりで言った言葉が、相手にそれが伝わらず、逆に傷つけられたような反応を示される。軽い注意のつもりで投げかけた言葉で相手が想像以上に委縮してしまう。自分の意図がなかなか相手に伝わらず、何回説明すれば分かってくれるのだとイライラを募らせる──。そんな経験を持つチームリーダーは多いように思える。

このようなコミュニケーションの齟齬(そご)に突き当たったとき、大抵の人は、コミュニケーションの難しさを痛感する。ところが、「なぜ難しいか」の理由ついてはあまり深く追求しようとせず、世代の違いや付き合いの年数、相手の性格、社歴、ともすれば血液型などに原因を帰着させようとする向きは少なくない。もし、あなたもそうだとすれば、考え方を改める必要があるようだ。

KANのCHOでチーム開発のプロフェッショナルである椎野氏は次のように言い切る。

画像: コミュニケーションのスキル不足がチームに不幸な結果を招く
── 連載:チームリーダーに贈る「組織のハピネス」を高めるテクニック【第1回】

「もし、ともに働く同僚・部下、上司とのコミュニケーションに難しさを感じているとすれば、自分のコミュニケーションスキルが不足していると考えてください」

椎野氏によれば、人とのコミュニケーションに齟齬を生じさせてしまう最大の要因は、人によって言葉の受け止め方や言葉から受ける印象が違うことを認識していない点にあるという。

例えば、「自己主張が強い人ですね」という言葉に対して、日本で育った人の多くは「わがまま」「我が強い」といったネガティブな印象を受けるが、米国で育った人の多くは「自分の意見を言葉にして明確に伝えられている」というポジティブなワードとしてとらえるという。

「このように、言葉から受ける印象は、人の生まれ育った環境や文化的な背景によって異なりますし、日本人同士であっても、言葉から受ける印象が異なる場合が多くあります。そのことを認識したうえで、自分の意図を正確に相手に伝えられるよう、言葉を選び、文章を組み立てることが大切です。それを相手に合わせて適切に行える能力が『コミュニケーションスキル』と呼ばれるものです」(椎野氏)。

コミュニケーションは科学である

椎野氏によれば、上述したようなコミュニケーションスキルはトレーニング/コーチングによって身につけることができるもので、生まれながらにそのスキルを持っている人はいないという。なぜなら、言葉は、成長の過程で習得するものだからだ。

ところが、日本の場合、日本語がネイティブ言語の人が大多数を占める社会であるがゆえに、「言葉が通じて当たり前」「話せて当たり前」という意識が強く、コミュニケーションスキルをスキルとは見なさず、その習得に相応のトレーニングが必要である認識も、米国などの多民族国家に比べて圧倒的に低いという。そのため、企業の新人教育やマネージャー研修においても、コミュニケーションスキルの習得に重きが置かれるケースは少なかったと椎野氏は指摘する。

こうした中で、コミュニケーションスキルを持たないリーダーが、同じくコミュニケーションスキルを持たないチームのメンバーをマネージするという状況が作られていく。その結果として、チーム内のコミュニケーションが機能不全に陥り、不要な揉めごとが起きたり、対人関係を理由にチームから離脱する(あるいは、会社を辞める)人が出たりといった不幸が多く引き起こされてきたのである。

チームは、そもそも一つのゴールを共有する共同体だ。そのため本来的にはチーム内で揉めごとは起こらないはずだが、些細な意思疎通の齟齬により、信頼関係に亀裂が入ることが間々あると、椎野氏は説く。

「例えば、チームのメンバーが、何らかのフィードバックを求めてリーダーにメールを出したとしましょう。このとき、メンバーは大抵の場合、リーダーからのフィードバックがすぐにもらえると期待します。ところが、リーダーは、その期待感に気づかず、他の仕事を優先させ、メンバーの期待よりも遅いタイミングで返事を出すようなことをしてしまいがちです。結果として、メンバーはリーダーから大切にされていないと感じて不満を抱き、そのようなことが幾度か繰り返されるうちに、リーダーへの不満が募っていきます。メンバーにとって、リーダーから無視されることはキズつくことであり、それに近い行為をされるのは不愉快なことだからです」

画像: コミュニケーションは科学である

言うまでもなく、このような状況が生まれるのは、コミュニケーションの単純なミスによるものだ。つまり、メンバーが『何時までにお返事ください。できない場合は、いつまでにお返事がいただけそうかを伝えてください』といった希望をメールに明記しないために生じる意思疎通の齟齬であり、誤解といえる。

「メンバーとリーダーのどちから一方にでもコミュニケーションスキルがあれば、このような誤解を防ぐことができます。依頼する側のスキルがあれば、フィードバックを求めるメールに返信の希望期限を明記しないような単純なミスは起こりませんし、返信希望期限が明記されていなかったとしても、依頼される側にスキルがあれば、すぐに返信希望期限を確認するので、そのミスが続くことはありません。ところが、どちらにもコミュニケーションスキルが不足していると、このような単純なミスにも気づけず、生じた誤解が修復されずに終わり、不幸な結果を招くことになります。その意味でも、チーム内での意思疎通や対人関係に問題を感じたら、まずはリーダーが、自らのコミュニケーションスキルの獲得・向上に向けて動くことが重要です」と、椎野氏は語り、こうも続ける。

「チームを率いる立場の方は、リーダーだから、自分にコミュニケーション能力があると根拠なく思い込まないことです。また、チームリーダーとして、メンバーの希望や期待、あるいは不満を把握することが大切ですが、それらはすべてメンバーから『本当の気持ち(感情)』を受け取ることでわかることです。伝えられて気づくもので、超能力者でない限り、伝えられていない相手の心が読めるようなことはまずありません。ですので、コミュニケーションスキルとして相手が本音を言いやすくする術(すべ)を身につけておかなければならないわけです。コミュニケーションは科学であり、そのスキルは技術であり、技能です。事実、AI(人工知能)などの今日のテクノロジーを使えばコミュニケーション力の計測・数値化も可能です。ゆえに、まずは自身のコミュニケーションのレベルを客観的に分析して現実を正しく認識し、足りていない技術の習得に力を注ぐことが大切です。そして、それが自分の率いるチームに不幸を招かないための要点と言えるのです」(椎野氏)。

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