モチベーションを下げる上司・同僚とどう戦うか

本書は、会社で働く中で、自身のモチベーションをどうコントロールするかのノウハウをまたとめた一冊だ。心ない一言で、人の働く意欲を削ぐ上司・同僚・部下たち、あるいはモチベーションを下げるモノゴトを、「モチベーション下げマン(略称:MSM)」と呼び、それとどう戦うかの方法を具体的に示している。

著者の西野一輝氏は、経営・組織戦略の独立系コンサルタントとして、人材育成や組織開発の支援を行っている人だ。大学卒業後に入社した大手出版社でビジネス関連の編集・企画に携わり、企業経営者や各方面の専門家など 2,000人以上に対して取材を行ってきた。本書は、そうした筆者の編集者としての経験やコンサルタントとしての経験に基づくものであり、以下に示す章立ての中で、会社によくいるMSMや、そのMSMへの対処法、モチベーションの制御法、さらにはモチベーションを高めることの重要性などが語られていく。

  • 第1章 こんなモチベーション下げマンはいませんか?
  • 第2章 やる気を失わせる「この一言」への反論術!
  • 第3章 モチベーションはなぜ重要か?
  • 第4章 自分の中にいるモチベーション下げマン
  • 第5章 自らのモチベーションを高める言葉
  • 第6章 モチベーション上げマンが人を動かす

本書全体が、著者の豊富な取材や経験に基づくものなので、記述には現実味があり、臨場感がある。言い換えれば、本書は、日本のビジネスパーソンにとって、いわゆる「自分ごと化」がしやすい内容になっているわけだ。例えば、本書では典型的なMSMとして以下のような人が挙げられている。

  • 部下の長所がわかっていない人
  • 何も発言しないノーバリューの人
  • 責任逃れをする上司
  • ミスの指摘が細かすぎる人
  • 無駄に反対をしてくる人
  • 勝手に期待して勝手に失望する人

また、人のモチベーションを下げる一言として、以下のような言葉が紹介されている。

  • 「前例はあるの?」
  • 「過去に失敗した例があるよ」
  • 「情熱が足りない」
  • 「目上をもっとリスペクトしないとダメだぞ」
  • 「君はもっとできると思っていた」
  • 「これやって何の意味があるんですか?」

いかがだろうか。上記は本書で紹介されている実例の一部だが、これだけを見ても、「自分もMSMかもしれない」「これまでMSM的な振る舞いをしていたかもしれない」「こんな一言を浴びせられたことがある」、あるいは「こんな一言を部下に言っていたかもしれない」と感じる方が大勢いるのではないだろうか。

本書の特徴の一つは、このような“あるある”の実例を挙げながら、“MSMな人・発言”への対処法を細かく、丁寧に説明している点にある。

その意味で、チームのモチベーション高く保ちたいと考えるミドルマネージャー層に向けた一冊であると同時に、部下、あるいは若手を含む全てのビジネスパーソンが、自分のモチベーションをコントロールするうえで参考になる指南書と言える。

ちなみに、上記の「これやって何の意味があるんですか?」というフレーズは、若手の部下から上司によくぶつけられるMSM的な一言として紹介されている。この言葉を部下からぶつけられたとき、上司がいきりたって「つべこべ言わずに、上司から言われたことは黙ってヤレ!」といった言葉を返すのが最悪の対応であることは、チームマネジメントについて論じる最近の書籍や記事でもよく目にするものだ。

ただし、本書でユニークなのは、年代が上の上司が、どうしてこうした言葉を発してしまうかの理由も、「これやって何の意味があるんですか?」という言葉にどう対応すべきかと併せて、しっかりと説明している点にある。

その理由を読めば、若い世代の方も、少しは上司の態度・気持ちへの理解が深まるのではないだろうか。

モチベーションの維持がリーダーの条件

先に示した本書の章立てからもわかるとおり、本書は単なるMSM対策──つまりは、モチベーションを下げる人や言葉、事象に対する対応策を示すだけのものではない。自分や部下、ないしは周囲のモチベーションを高く保つことの大切さとその方法を具体的に伝えることにもかなりの力点が置かれており、どちらかと言えば、著者の本来目的もそこにあるようだ。

著者によれば、人の働くモチベーションは低下していくのが通常であるという。

確かに、仕事で成果を上げ、モチベーションが高まったとしても、それは一時のことで、長期間は継続しない。

また、会社の仕事に慣れるまでは、失敗してモチベーションが下がることも多いが、逆に、達成感が得られる場面も多い。そのため、仕事に不慣れなうちはモチベーションを持続しやすいが、慣れてしまうと、かつて達成感を得ていたことが当たり前のことになり、仕事に対するモチベーションは下がっていく。

例えば、著者はかつて大手出版社に勤めていたようだが、この業界で書籍(単行本)の事業に携わった人は当初、自分の企画した本が書店に並ぶ、あるいは市販されるだけで相応の達成感が得られる。ところが、のちには、本が売れることを強く望むようになり、その望みがいったんかなうと、それ以上の成果が出せない本をいくら刊行しても、達成感が得られず、モチベーションが上がらなくなってしまうのである(これと同様の例が、本書内でも紹介されている)。

同様に、新規事業を立ち上げた当初は、おそらく、立ち上げにかかわったメンバー全員のモチベーションが高いはずであり、かつ、事業がハイペースで成長を続けると、メンバーのモチベーションは高く保たれる。ただし、大抵の事業は、ある時点で、成長が止まるか、鈍化する。それに伴い、ハイペースでの成長を体験してきたメンバーのモチベーションも下がっていくのが通常である。

本書では、こうした局面において、自分のモチベーションを維持するための方法も伝えている。

また、本書では、組織のモチベーションを高く保つことの大切さを、「(今の時代は)モチベーションをマネジメントする時代」と表現し、ミドルマネジメント層であるチームのリーダーが、部下であるメンバーのモチベーションをどう向上させるかの具体的な方法論も展開している。その内容はわかりやすく、かつ、実践的でもある。

部下のモチベーションを高めることがいかに重要かは理解しているのが、何をどうすれば良いかの答えがなかなか見つけられない──。そうした方々にとって、本書で展開されている方法論は、自分なりの答えを出すうえでの一助になるはずである。

著者   :西野一輝
出版社  :朝日新聞出版
出版年月日:2020/03/13

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