新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の長引く流行により、社員が散り散りになって働く期間が長期化し、組織・チームの一体感、熱量が下がっていく――。

その問題解決の一手として、クラウドERPを提供するベンチャー企業freeeは、全社員約500人参加のオフサイトイベント「freee Spirit」をオンライン上で決行した。その背景にある同社の社内コミュニケーション戦略を明らかにしながら、アフターコロナのチームづくりとチームリーダーの在り方について考察する。

社員全員がフルリモートで働く中で

画像: freeeムーブメント研究所ICX 関口聡介氏

freeeムーブメント研究所ICX 関口聡介氏

freeeは、クラウド会計ソフトの開発・提供元として2012年7月に設立されたベンチャー企業だ。「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、パッケージ製品が主流の会計ソフトの市場にクラウドサービスで参入した。以降、freeeのサービスは個人事業主や中小企業の間で急速に普及し、同社のビジネスはハイペースで成長を続けた。

今日、同社のプロダクトラインは、会計ソフトのみならず、人事労務のクラウドサービスや、中堅企業向けのERP(統合基幹業務システム)ソリューションなどへと広がっている。また言うまでもなく、ビジネスの成長とともに組織の規模も拡大し、設立時には2人だけだった同社の社員数は19年時点で500人を超えている。

そうしたfreeeではコロナ対策として、20年3月から全従業員を対象に原則在宅勤務(フルリモートワーク)の体制をとった。その中で浮上した問題の1つが、同社の新年度が始まる毎年7月に実施してきた全社員参加のオフサイトイベント(キックオフイベント)「freee Spirit」(以下、フリスピ)をどのように催すかだ。

フリスピは、社員全員が会社の方針やfreeeの組織文化をあらためて確認・体験するための場であると同時に、全員参加で議論を交わす場でもある。なかでも、全員参加によるディスカッションは、Googleのようなオープンでフラットな組織を志向する同社においてとても重要なコミュニケーションだという。

ここで言う「オープンでフラットな組織」とは、人と人との相互信頼を土台に心理的な安全性が担保された環境の中で、組織内に「情報の壁」を作らず、失敗・ミスも含めて、あらゆる情報をオープンに共有しながら、社員全員が対等の立場で意見やアイデアを出し合い、お互いを高め合える組織を指している。

freee社内の組織開発とコミュニケーション設計を担当するムーブメント研究所ICX(Internal Communication & experience)チームの関口聡介氏は言う。

「当社は、会社のビジョンに共感した社員1人1人が自律的に動き、その熱意が周囲に伝搬することで、より良い相乗効果を生み出していく“ムーブメント型チーム”であり続けたいと強く願っています。それには、組織がオープン、フラットであることが不可欠で、会社としても、組織をまたいだオープンでフラットなディスカッション、あるいは、自由闊達(かったつ)なコミュケーションが行われる場をできるだけ多く提供することに力を注いできました。

フリスピはそうした場の1つで、会社にとっては、社内で散見されるコミュニケーション上の課題を一挙に解決できる絶好の機会といえるものです」

コロナ禍で弱まったチームの結束を強化する

関口氏によれば、ここ数年来、フリスピでのコミュニケーション設計は、社員同士の「偶然の出会い」を創出することに軸足を置いてきたという。

先に触れた通り、freeeでは毎月多くの社員が入社しており、社員にとっては自分の見知らぬ相手がどんどん増えている状況にある。ただし、この状況は決して悪いことではなく、逆に、未知の誰かと知り合い、自分のアイデアや見識、思考を広げられるチャンスが膨らんでいると見なすことができる。

「私たち人間は大抵の場合、100人までなら、それぞれの顔と名前、人となりが覚えられます。ですので、その限界点に達するまでは、社内の見知らぬ相手と積極的につながるべきです。ところが、日々の仕事に追われていると、自分の知らない相手と“偶然出会える”機会があまり得られないのが通常です。そこで当社では、多目的型のオープンスペースを本社ビルのワンフロアを使って設置するなど、社員同士の出会いの場の創出に取り組み、ここ最近のフリスピも出会いを引き起こす場として機能させてきたのです」(関口氏)。

そうしたなか、コロナ禍の影響で、人と人との接触が厳しく制限され、社員同士が“偶然出会う”機会はほとんど失われた。

「そのため、今回のフリスピ(フリスピ2021)についても、本来的には社員同士の偶然の出会いに軸足を置くべきで、そうしたかったのですが、結局、コロナ禍に終息の気配が見えず、社員全員フルリモート参加でのイベントを設計するしか方法はなくなりました。言うまでもなく、社員500人が参加するオンライン上のイベントで、偶然の出会いを創出するのは簡単なことではありません。また、その実現のために時間とコストを掛けても、投資に見合うだけの効果が得られるとは思えませんでした」と、関口氏は明かす。

画像: 「asobiba」と呼ばれるfreee本社内のオープンスペース

「asobiba」と呼ばれるfreee本社内のオープンスペース

リモートコミュニケーションの可能性を追求

こうしてfreeeは、フリスピ2021におけるコミュニケーションのメインテーマを「偶然の出会い」から以下の2点に設定した。同社にとっては、コロナに伴う全社リモートワークによって発生した課題に対する新たなチャレンジとなった。

  1. フルリモートワーク体制下で弱まりつつあった“既知の社員同士のつながりを取り戻し、強化する
  2. リモートでのコミュニケーションの新たな可能性を追求する

このうち前者(1)の施策として、フリスピ2021では、社員500人を5~6人ずつのグループに分け、見知った社員同士でグループを構成させ、リモート会議ツールの「Remo」を使った仮想会場のテーブルにつかせた。そのうえで、特定のテーマに沿ってテーブルごとのディスカッションを行わせたり、グループ対抗のゲームをさせたりして、見知ったメンバー同士のつながりを強めていったのである。

画像: ビデオ会議ツール「Remo」を使ったフリスピ2021の仮想テーブル(仮想イベント会場)のイメージ。画面はフリスピ2021で展開された「きき茶」ゲームの場面

ビデオ会議ツール「Remo」を使ったフリスピ2021の仮想テーブル(仮想イベント会場)のイメージ。画面はフリスピ2021で展開された「きき茶」ゲームの場面

一方、もう1つのテーマ──すなわち、「リモートでのコミュニケーションの新たな可能性を追求する」施策としては、参加者全員でVR(仮想現実)体験を共有する試みが実施された。

この施策は、フリスピ2021用として、ハコスコ社(東京・渋谷)に作成してもらった組み立て式のVRゴーグルを、全社員の自宅にあらかじめ送付しておき、ゴーグルの組み立てからVRコンテンツの視聴までの体験を、ネットワークを介して全社員で共有するものだ。

VRコンテンツとして用意されたのは、関口氏らICXチーム手作りの「オフィス仮想ツアー」で、VRゴーグルで、freeeの過去から現在までのオフィスを巡りながら、組織の歴史と文化を体験する趣向のコンテンツである。

「このコンテンツの作成には、かなりの手間とコストを要しましたが、結果として、社員たちの好評を博しましたし、多くの社員に、フルリモートワークだからこそ成しえるチーム体験やコミュニケーションのスタイルがあることに気付いてもらえたと考えています。

今日のテクノロジーと創意工夫があれば、リアルな場で直接コミュニケーションをとるよりも、むしろフルリモートワークのほうが、チーム内の意思疎通が円滑になり、結束力が高められる可能性が十分にあります。フルリモートワークが働き方の標準になるであろう、これからの時代に向けて、そうした可能性は今後も追求していくつもりです」(関口氏)

また、同様の考えから関口氏は今後、Remoなどのツールを使いながら、社員同士の“偶然の出会い”を活性化させる仮想空間の整備・強化にも注力したいとしている。

画像: フリスピ2021で使用されたハコスコのVRゴーグル

フリスピ2021で使用されたハコスコのVRゴーグル

アフターコロナのリーダーは部下を輝かせる“ジャーマネ”が理想

freeeでは、コロナの終息後(つまりは、アフターコロナ)において、社員の働き方をコロナ以前の状態に戻すかどうかなど、働き方の具体的な方針は固めていない。ただし、基本的な考え方は、社員1人1人が最も働きやすい環境を選べるようにすることだという。

「どこで、どう働くのが最良なのかは、人によってさまざまです。ですから、会社にとって大切なのは、社員1人1人が各人の才能・能力を最大限に発揮できるよう、フルリモートワークを含めて、働き方・働く環境の選択肢を可能な限り多く持つことです」(関口氏)。

また、今日では、数多くのビジネスパーソンがフルリモートワークを体験し、その合理性・利便性に気付き、アフターコロナのフェーズでも、フルリモートワークを継続させたいと願う向きが相当数いる。

「そのため、当社においてもフルリモートワークが働き方の標準的な選択肢になる可能性が大いにありますし、そうなれば会社としては、フルリモートワークを志向する社員たちが、より快適に働ける環境を用意しなければなりません。また、リモートワーカーがいるチーム、あるいは、リモートワーカーだけで構成されるチームのパフォーマンスが最大化されるよう、コミュニケーションの在り方ももっと進化させていく必要があると考えています」(関口氏)

さらに、関口氏は、フルリモートワークが当たり前になる時代においては、チームのメンバー1人1人の自律的なアクションを引き出し、会社やチームのミッション遂行に向けて、メンバー各人の才能・能力を最大限に引き出すリーダーシップがより強く求められるようになるとする。

「フルリモートワークというのは、個人の自主性・自律性に依存した働き方です。この世界では、成すべきことを上司から部下に伝え、管理・監督するような古めかしいマネジメントの手法は一切通用せず、チームのメンバー各人が、会社やチームに貢献したいという意志を強く持てるかどうか、また、そうした意志を持ったメンバーが、それぞれの能力・才能を最大限に発揮できるかどうかで、全てが決定づけられます。従って、これからの時代は、部下の自律的な行動と能力・才能を最大限に引き出すための環境を用意することが、チームリーダーにとって、より重要な役割になるはずです」

ちなみに、freeeでは、チームを率いるマネージャーのことを「ジャーマネ」と呼んでいる。これは、freeeのマネージャーの役割が、タレント事務所のマネージャー(業界用語でジャーマネと呼ばれる)と同じであることに由来するネーミングだ。

周知の通り、タレント事務所のマネージャーは、担当するタレントを輝かせるために、タレントが自分の才能を最大限に発揮し、活用できるような場・環境を用意することが仕事である。それと同じく、freeeにおけるマネージャーも、チームのメンバー各人が、それぞれの才能・能力を最大限に発揮し、輝けるようにすることが最大の使命であるという。

こうした“ジャーマネ”の取り組みこそが、アフターコロナ時代に求められるチームリーダーシップなのかもしれない。

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