アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、プロジェクトオーナーとして成功を収めるための心得を紹介する。

プロジェクトオーナーの能力が成否を分ける

皆さんもよくご存知のように、会社のプロジェクトには2つのタイプがある。1つは全てが順調にいくプロジェクトであり、もう一つは全てがうまくいかず、崩壊してしまうプロジェクトである。

プロジェクトによって、このような違いが出てしまう要因はいくつかある。なかでも大きな要因と言えるのが、プロジェクトオーナーの能力の違いだ。要するに、プロジェクトオーナーが有能か否かによって、プロジェクトの成否が大きく左右されるのである。

そこで今回は、プロジェクトオーナーとして成功するための心得を紹介したい。

オーナー vs. マネージャー vs. スポンサー

プロジェクトオーナーは、よくプロジェクトマネージャーと混同されることがある。ただし、プロジェクトにおける両者の役割には大きな違いがある。また、プロジェクトオーナーは、プロジェクトスポンサーでもない。

プロジェクトオーナーとプロジェクトマネージャー、そしてプロジェクトスポンサーの役割がどう違うかは、「オーナー」「マネージャー」「スポンサー」という言葉の意味の違いを考えれば理解が早まる。

まず「オーナー」とは、モノゴトの所有権を持つ人を指し、所有するモノゴトが成功することで周囲からの信用・信頼・評価という“クレジット”を手にできる。その一方で、所有するモノゴトが失敗した場合には、失敗に対する説明責任を果たさなければならない。ゆえにオーナーは、モノゴトの成功に対して高いレベルの責任を背負っていると言える。

これに対して「マネージャー」とは、現場における日々のオペレーションがスムーズに回るようにする人のことを指し、上層部の意向を現場に伝える連絡係と“車輪の潤滑油”の両方の役割を担っている。

さらに「スポンサー」とは、モノゴトを遂行するための資金を供出し、バックアップする人のことを指す。企業のプロジェクトにおいては、一般的に経営幹部やディレクターがスポンサーの役割を担う。プロジェクトスポンサーは、プロジェクトの予算を決定し、プロジェクトの遂行に周辺チームの支援が必要な場合は、それを周辺チームに伝えて支援を仰ぐ役割も担う。

いずれにせよ、プロジェクトオーナーは、ビジョンを打ち出す“ビジョナリー”でなければならず、問題を特定して解決することに情熱を注げる人でなければならない。また、自身がオーナーシップを握るプロジェクトが自社の大目標と一致することを確認したうえで、スポンサーから資金を調達し、プロジェクトを他の利害関係者(ステークホルダー)とともに補佐しなければならない。さらに、編成されたプロジェクトチームのモチベーションを高いレベルで維持するのも、プロジェクトオーナーの役割である。この役割を遂行する際、有能なプロジェクトオーナーは、チームのメンバー各人がプロジェクトの価値に対する理解を深めて共感し、能動的にプロジェクトに貢献するように仕向けることができる。

一方のプロジェクトマネージャーは、プロジェクトオーナーのビジョンを受け入れ、ビジョンの実現に向けた作業(タスク)を洗い出し、マイルストーンを設定する。そのうえで、各マイルストーンに到達するために必要なタスク計画を策定して、計画を遂行するのに適した人材を社内から集めてチームを組織する。また、チームのキャパシティプランニングや、タスクの依存関係の調整・管理、週ごとのタスク計画の立案、さらには、プロジェクトの進捗状況の管理・報告は、全てプロジェクトマネージャーが担うことになる。

組織が大規模で、上層部の役割分担が明確に決められている企業では、プロジェクトオーナーとプロジェクトマネージャー、プロジェクトスポンサーの役割を、それぞれ異なる人が担うケースが多い。それに対して、組織の規模がそれほど大きくない企業では、プロジェクトスポンサーとプロジェクトオーナーが同一の人であったり、一人がプロジェクトオーナーとプロジェクトマネージャーの役割を兼務したりすることがよくある。実際、私が所属するアトラシアンのマーケティング部門では、大抵の場合、プロジェクトオーナーとプロジェクトマネージャーの役割を一人でこなさなければならない。これはなかなか骨の折れる作業で、もしあなたがプロジェクトオーナーとマネージャーを兼務することになったら、自身の労働時間の3分の2をプロジェクトに費やせるよう、日々の定常業務の量を調整することをお勧めしたい。私の経験上、そうしないと本当に大変なことになる。

プロジェクトオーナーの日々の仕事とは?

プロジェクトオーナーは、プロジェクトマネージャーに比べて、“現場仕事”をそれほど多くこなすわけではない。ただし“忙しさ”という観点から言えば、プロジェクトマネージャーよりも多忙と言えるかもしれない。

まず、プロジェクトオーナーは、プロジェクトの最高責任者として、その価値を高めるための活動を毎日のように展開しなければならない。例えば、自身のプロジェクトが、会社の目標達成にどのように貢献しているか(あるいは、貢献しうるかを)他のステークホルダーと話し合うのはもちろんのこと、プロジェクトのターゲット顧客からフィードバックを集めたり、プロジェクトチームがマイルストーンに到達するたびに祝福したり、部門内でプロジェクトの価値や進捗についての説明・報告を繰り返し行ったりする必要がある。

また、プロジェクトに問題が発生するたびに高次の意思決定を下す責任を背負っている。例えば、プロジェクトの進捗が計画より遅れているのであれば、プロジェクトのスコープ(対象範囲)を縮小するか、タイムラインを延長するか、あるいは、チームのキャパシティアップに向けてメンバーを増員するか(ないしは、メンバーを交代するか)を決定しなければならない。

ただし、計画の細かな実装方法については、全てをプロジェクトチームに委ねるのが得策である。例えば、Webマーケティングの計画であれば、製品の販促用に特別なページを自社のWebサイトに設置するか、またはブログ記事が必要かどうかなどは、プロジェクトチームの判断に任せるのが適切で、そのような意思決定にまでプロジェクトオーナーが関与する必要はないと言い切れる。

もう一つ、プロジェクトオーナーの重要な役割と言えるのが、プロジェクトチームが必要とするリソースの調達である。例えば、プロジェクトチームがWeb開発者による1週間の作業を必要とするならば、それを満たす人的リソースを何らかの手段を講じて調達しなければならない。また同様に、プロジェクトマネージャーから、タスクの依存関係の問題を解決したり、タスク遂行上のボトルネックを解消したりするための支援を求められる場合もある。プロジェクトオーナーは、そうした要請にも適切に対応する必要がある。

プロジェクトにオーナーシップが求められるワケ

実ところ、プロジェクトによってはオーナーがいなくてもうまくいく場合がある。ただし、大規模かつ複雑で、長期的なプロジェクトの場合、プロジェクトオーナーの存在は必要不可欠と言える。

繰り返すようだが、プロジェクトオーナーは、プロジェクトのビジョンと全体的な方向性を決定する責任者である。したがって、自分の描いたビジョンや方向性と、プロジェクトが実際に進む方向性との間にズレが生じていないかどうかを適宜点検する役割を担うことになる。この役割を担うプロジェクトオーナーがいることで、プロジェクトマネージャーは、プロジェクトのビジョンの達成に向けた計画づくりやタスクの進捗管理、プロジェクトチームのサポートという自身の仕事に集中して取り組むことが可能になり、自身のアイデアや創意工夫もフルに生かすことが可能になるのである。

また、プロジェクトの進行中は、チームのメンバーもプロジェクトマネージャーも、目先の業務に追われ、プロジェクトを取り巻く周囲の変化になかなか気づけない。そうした変化を常に注視して、必要に応じてプロジェクトの計画や方向性に変更をかけることができるのも、プロジェクトオーナーの存在意義である。

プロジェクトの途中で、その方向性に変更をかけるのは、あまり良いことではない。ただし、市場のニーズやテクノロジーは絶えず変化しており、企業はその変化に応じて事業戦略や目標を変化させる必要がある。そして、そうした変化にプロジェクトの方向性をフィットさせるのは当然のことだ。しかも、プロジェクトの完了に近づいてから方向性の変更を余儀なくされるよりも、極力早い段階で方向性変更の判断を下し、変更を実行に移したほうが作業の無駄は少なくなる。その大切な役割を担えるのはプロジェクトオーナーだけと言えるのである。

成功のために必要な能力

では次に、プロジェクトオーナーに必要とされる能力について、改めてまとめておきたい。優れたプロジェクトオーナーが共通して備えている能力は、以下の6つである。

1. 戦略的思考力
優れたプロジェクトオーナーは、自社の目標達成を妨げている問題を特定し、それらの問題を解決するための戦略を、実行可能な施策へと落とし込む能力に優れている。

2. 情熱
プロジェクトは、プロジェクトオーナーの熱意が周囲に伝搬することで成功へとつながっていく。というのも、オーナーのビジョンと熱意に対するプロジェクトチームの共感・共鳴が、メンバー各人に働く意味を持たせ、成功に貢献しようとするモチベーションの喚起・維持につながるからである。

3. コミュニケーション能力
プロジェクトオーナーは、コミュニケーターとしての能力も優れていなければならない。今や、プロジェクトチームはメンバーが各所に分散して働いているケースが増えているので、プロジェクトオーナーがプロジェクトのビジョンやその変更・更新、フィードバックを発信するだけでは、チーム内の共通理解が深まらず、一体感が薄れてしまう可能性がある。したがって、ワンオンワンミーティングの場を設けるなど、チームのメンバー全員にプロジェクトに対する自分の考えやビジョンを正しく、確実に伝えられるコミュニケーションチャネルを使いながら、意思疎通を図っていかなければならない。また、ビジョンの変更・更新をメンバーに伝える際には、メンバー全員が変化に無理なく適応できるようなタイミングでコミュニケーションの場をセットすることが大切である。

4. 共感力
プロジェクトの成功には、プロジェクトオーナーのビジョンに対する周囲の共感が必要だが、それと同時に、プロジェクトオーナーにも相手の意見や状況を受け入れ、共感できる度量が必要とされる。実際、プロジェクトオーナーは、プロジェクトのターゲット顧客やステークホルダーからのフィードバックを収集するだけではなく、プロジェクトチームメンバーからのアイデアに耳を傾け、受け入れ、メンバー各人が突き当たる可能性のある全ての問題に対する理解を深めなければならない。プロジェクトが直面する全ての問題は、結局のところ人の問題である。ゆえに、プロジェクトオーナーは、人間性と相手への共感を土台にしながら、問題解決の道筋を描いていくことが大切である。

5. 危機察知能力
全てのプロジェクトは必ず問題に突き当たる。したがって、プロジェクトオーナーには、問題発生を早期に検知したり、予測したりする能力も必要とされる。

6. 変化への適応力
今日では、市場や社会が変化するスピードが猛烈に速い。自分たちが地歩を固めてきた市場にいきなり新手の競合が出現し、多くの顧客を奪われたり、昨年まで有効に機能していたビジネス上の戦術が、今年は全く通用しなくなったりするような変化が絶えず起きている。ゆえに、プロジェクトについても、方針の変更、予算の削減、チームメンバーの入れ替えといった変化を強いられるのが当たり前になっている。ゆえに、プロジェクトオーナーは、数々の変化に適応しながら、プロジェクトの行く手を阻む障害をかわし、ゴールへと導いていかなければならない。

守るべき原則

プロジェクトオーナーが実際に直面する課題は、自社の業種や組織文化、推進するプロジェクトの特性・目的・期間、ターゲットとする顧客などによってさまざまに異なってくる。したがって、いかなるガイドブックでも、プロジェクトオーナーとして、どのように意思決定を下せば良いかの画一的で完璧なアドバイスは提供できない。

ただし、以下に示す原則に従うことで、少なくとも、自分がオーナーシップを握る全てのプロジェクトを間違った方向に導いてしまうリスクは回避できるはずである。

原則1: 「Why(理由)」から始める
プロジェクトオーナーが従うべき原則の一つは、プロジェクトを始める「理由」を明確にすることから、全てをスタートさせることである。

例えば、あなたが、チームを細かく管理したくないタイプ──つまりは、マイクロマネジメントの非有効性を知るタイプのマネージャーであるとしよう。そして、あなたのプロジェクトにかかわるチームのメンバー各人に、それぞれが持つ能力を最大限に発揮させ、生涯最高の仕事をさせたいと望んでいるとする。

そうした望みを叶える有効な手だては、チームのメンバー各人に目的意識を強く持たせることである。それには、メンバー各人に当該プロジェクトの価値を理解させ、それぞれの共感を獲得しなければならない。要するに、そのプロジェクトを推進し成功に導くことが、自分の顧客、組織・チーム、あるいは自分自身にとって、どれほど大きな意味・価値を持つものなのかを、チームの全員が理解し、共感することが重要なのである。それがなければ、チームのメンバーは能動的にプロジェクトの成功に貢献しようとする意欲を高く保つことはできない。結果として、チームを動かすためにマイクロマネジメントを遂行せざるをえなくなり、プロジェクトを前に進める推進力がどんどん弱まっていくことになる。

したがって、プロジェクトを始動させる際のキックオフミーティングの場では、「なぜ、そのプロジェクトを始めるのか」「このプロジェクトは誰に対して、どのような価値を提供するものなのか」といった事柄について、チームのメンバーと徹底的に話し合い、チームが目指すゴールとしてまとめ上げることが大切である。また、プロジェクト始動後の会議では、会議ごとにプロジェクトのゴールを確認するようにする。加えて、プロジェクトチームで共有する全てのドキュメント、チャート、スライドデッキ、チャットチャネルの上部にプロジェクトのゴールを必ず掲出するようにするのも有効である。

原則2: 情報の伝達はタイムリーに
プロジェクトオーナーにとって、プロジェクトに関係する人々に対し、適切なタイミングで、適切な情報を伝えるのは労力・努力のいる作業である。しかし、そのための努力は必ず報われる。実際、プロジェクトオーナーからの明確な指示・指導がなければ、プロジェクトチームは間違った方向へとプロジェクトを導きかねない。また、プロジェクトオーナーが、チームの情報ニーズを先読みして適切な情報を適切なタイミングで提供することで、物事の進捗はスムーズになる。

原則3: 信頼はマイクロマネジメントに勝る
先に触れたとおり、プロジェクトに対するチームのモチベーションを高く保つためには、プロジェクトの価値に対するメンバー各人の理解と共感が必要だが、そのほかにも重要な要素がある。それは、チームの「自律性」の確保だ。例えば、チームのメンバー各人が、プロジェクトオーナーから信頼され、それぞれが担当する仕事について優れた判断を下すと思われていると感じることができれば、それぞれのモチベーションは自ずと上がっていく。そして実際にも、メンバー各人に判断の多くを委ねたほうが、創造性に富んだソリューションが生み出される可能性が高まるのである。

その逆に、マイクロマネジメントによってチームの仕事を細かく管理しようとすると、メンバーの憤懣(ふんまん)が蓄積され、各人の仕事の質を低下させることになる。

原則4: 優先事項は計画に勝る
当初に立てた計画に従うことは、基本的に良いことであり、プロジェクトチームにとっても、計画に沿ってモノゴトを進められるのは、快適で心地良く、安心感のある作業である。しかし、繰り返すようだが、世の中の変化は激しく、計画の変更を余儀なくされるケースは多くある。このような場合には、当初立てた計画の遂行をいったん中断させて、最優先で解決すべき課題に取り組むのが、プロジェクトの正しい進め方と言える。つまり、計画よりも変化への対応を重視すべきなのである。


以上、プロジェクトオーナーの役割と成功のための心得について紹介した。この内容が、プロジェクトオーナーとしての成功を目指す方々の一助になれば幸いである。

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