2019年6月19日、アトラシアンのプライベートイベント「Atlassian Team Tour: Future of IT」が東京・渋谷ヒカリエで開催された。ここでは、そのイベントの中から、2つの講演をピックアップし、エッセンスをお届けする。2つ目は、米国Flexcel Network社の創業者ソフィー・ウェイド(Sophie Wade)氏による「働き方の未来:結果を出すためのチーム作り」。同氏はアトラシアンが世界主要都市を巡って開催した「Atlassian Team Tour: Future of IT」において、他都市でも講演を行なった。
1つ目の講演については、こちらをご覧ください。

「働く」ことの定義を見直す

演壇に立ったソフィー・ウェイド氏は、次のように話を切り出した。

「ここにアナという女性がいます。彼女は、オープンで包容力のある職場で働いていて、自分のアイデアが会社に聞き入れられ、きちんと評価されることに喜びを感じています。その職場では、自分を含め周囲のさまざまなアイデアが受け入れられ、建設的なフィードバックの下で改善されていくといいます。しかも、失敗を許容し、失敗から多くを学ぼうとする文化もある。アナは私にこう語ってくれました。『自分の職場が大好きです!』と」

ウェイド氏は、IMGやYahooなどで戦略/ファイナンス担当のマネージャーなどを歴任し、のちに独立。「未来の働き方(Future of Work)」に関するコンサルティングを展開するFlexcel Network社を立ち上げ、ワークフォースイノベーションスペシャリストとして活動している。

同氏が紹介したアナは、ある会社の「高齢者向け住宅部門」で働いている。仕事の内容は、決して華やかではないが、職場に対するアナのエンゲージメント(能動的な貢献意欲)はすこぶる高く、職務を変えたいと考えたことは一度もなく、転職などは論外であるという。

実際、アナの会社は、社員のモチベーションや満足度を高めることに熱心で、社員のためにさまざまな仕組みや環境、ツール、サポートを提供している。そうした社員向けの施策が評価され、この会社は『働きやすい企業』としてアワードも受賞している。

「アナの職場は、働く環境として理想的なものといえ、そこで働く各人は未来型の働き方を実践していると言えるでしょう。アナの職場のように、『働くこと』の定義を見直すことで、個々人が持つ可能性を解き放ち、多くのオポチュニティを生み出すことが可能になります。またこのような職場は、形骸化した既存のルールを見直し、なぜそのルールが必要なのかを考え、ルールが適切でない場合には、それを捨て去ることによって実現されるものでもあります」(ウェイド氏)。

変化を加速させる3つのドライバー

ウェイド氏によれば、企業の働き方改革を加速させる主なドライバーは3つあるという。

その一つは、人材不足だ。とりわけ日本の場合、少子高齢化の影響で労働人口が減り続け、あらゆる業種・業態で人手不足が深刻化している。

「このような状況下では、働き方を早急に変えて、より多くの女性や高齢者に活躍してもらえる環境作りに力を注がなければならないはずです。それと併せて、優秀な人材の能力・労働力を、複数の企業でシェアすることも真剣に検討しなければなりません」(ウェイド氏)。

また、2つ目のドライバーは、仕事に対する従業員エンゲージメントの低さである。

あるグローバル調査によれば、自分の仕事に対して高いエンゲージメントを持つ社員の比率は、グローバル平均で15%でしかないという。なかでも日本の数値は6%と極めて低く、反対に“まったくエンゲージメントを感じていない”とする向きが22%にも及んでいるそうです。

「これは嘆かわしい現実です」と、ウェイド氏は眉をひそめ、こう続ける。

「仕事に対する社員のエンゲージメントの低さは、社員の付加価値生産性の低下に直結する問題です。例えば、オフィスに出社はするものの、なぜか一向にやる気が出ず、無意味な残業を繰り返してしまう。その逆に、仕事に没頭し過ぎてオーバーワークしたり、バーンアウトしたりする─。これらは仕事に対するエンゲージメントの低さに原因がある場合が多く、日本のみならず、欧米でもよく見られる現象です。その状況を早急に変えなければ、深刻な事態に陥る可能性があるのです」

残る3つ目のドライバーは、テクノロジーの進化だ。
例えば、モバイルやクラウドの普及・発達によって、時間と場所を選ばない働き方が可能になり、遠隔地にいるチームメイト同士が情報をシェアする速度も、それぞれがオフィスにいるときとほとんど変わらなくなっている。

「テクノロジーの進化は不可逆的でスローダウンすることはありません。ゆえに企業は、テクノロジーの進化に合わせて、業務プロセスやビジネスモデルを柔軟に変えていく必要があり、そうしなければ、すぐに時代に取り残されてしまうでしょう。実際、マッキンゼーの研究によれば、かつての大企業は、業務プロセスやビジネスモデルの見直しを2~3年に1度のサイクルで行ってきましたが、そのスパンは年々短くなり、今日では18カ月が平均的であるそうです。このように、時代の変化への対応スピードを増していかなければ、大手企業でも倒産のリスクがあるのが今の時代です。その意味でも、変化へのすばやい対応は、企業の存続を左右する経営課題と言えるのです」(ウェイド氏)。

変化へのプロアクティブな対応を

ウェイド氏がコンサルティングした企業の中には、上述したような変化への対応を成功させているところも多くあるという。

「例えば、ある企業のCEOは、変化に対する自社の対応力を増すために、ミレニアル世代の若い社員の意見を積極的に取り入れる方針を固め、社員のパフォーマンスレビューを年次から週次に切り替えました。そのうえで、見どころのある若手を積極的に幹部社員に登用したのです。結果として、若手社員のモチベーションがアップしただけではなく、若い社員に刺激を受けたシニア世代が、会社の改革案をさまざまに提案するようになったのです。それに伴い、若手とベテランのコミュニケーションも活発化し、世代を超えたコラボレーションの輪が広がっています」

もちろん、人というのは大抵の場合、変化を嫌い、おそれ、現状に相当の不満がない限り、「今のままでいたい」と考えがちです。しかし、変化の時代とされる今日では、「そのよう姿勢はとってはならないものです」とウェイド氏は語り、こう続けます。

「ですから、シニア世代を含めたすべての社員が変化に対してネガティブであってはならず、逆に変化を積極的に受け入れ、プロアクティブに変化に対応することが大切です」

カギは「認識」「適応」「サポート」

では、変化へのプロアクティブな対応には、何が必要とされるのだろうか─。その答えとして、ウェイド氏が掲げたのは「認識」「適応」、そして「サポート」の3つだ。

このうち「認識」とは、自社の置かれた状況を正しく理解することを指す。

「例えば、客観的な視点で、自分たちに何が足りていて、何が足りていないのかをしっかりととらえることが大切です。また、自社によるビジネスモデルの変更がどんなインパクトを生むのか、新しいがテクノロジーが自社にどんな影響を与えるのか、さらには、自社の社員がどのような事情や考えの下で仕事をしているのかを正しく認識しておくことが重要です。大抵の場合、自分のことを最も知らないのは自分です。ですから、自己認識を確かなものにして、自分たちの目標を達成する適切なシナリオを描く必要があるのです」(ウェイド氏)。

一方、ウェイド氏が言うところの「適応」とは、文字どおり、環境の変化にうまく適応することを指す。

繰り返すようだが、テクノロジーの進化によって、モバイルワーク、リモートワーク、在宅勤務など、多様な働き方が可能になり、企業はその変化に適応していくことが必要とされている。そのためには、働き方に対する新しい考え方を受け入れ、ツールの使い方にも習熟する必要があると、ウェイド氏は指摘する。

さらに「サポート」とは、社員に対して、それぞれのミッションや目標を達成するのに適した環境を提供することを意味している。そうしたサポートの重要性を示すエピソードとして、ウェイド氏は次のような事例を示す。

「私の知るキャサリンという女性は、昇進の話をもちかけられた際に、プライベートな時間が犠牲になることを恐れて、その話を断りました。キャサリンの上司は、昇進の提案を断られたことにショックを受けましたが、それと同時に、個々の人材の能力を活用するには、それぞれの事情や考え方に合わせた働き方を採用する必要があると考え、キャサリンに対しても、これまでのワークライフバランスを崩さない働き方を約束しました。それによってキャサリンは昇進の要請を受け、今では、新しいポジションで自身の能力をいかんなく発揮し、活躍しています」

この事例を踏まえながら、これからの変化に備えた働く環境のあるべき方向性について、ウェイド氏は次のように話を締めくくる。

「テクノロジーも含めて、企業を取り巻く情報は目まぐるしい変化を続けています。その中で、いま、自分のチームで何が起きているかを正確に認識し、適切なかたちで適応できる環境を整えることが重要です。そのうえで、メンバーがお互いを尊重しながら、サポートし合う環境を整えることで、環境の変化に柔軟に対応できるチームが作れるのです」

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