企業の成長・発展の原動力として、社員の「エンゲージメント」の重要性・必要性がしきりと唱えられるようになった。その火付け役とも言えるのが、社員のエンゲージメントをバネに設立15年で東証一部への上場を果たしたアトラエのCEO、新居佳英氏だ。話題の書籍「組織の未来はエンゲージメントで決まる」の共著者でもある同氏に、アトラエにおける組織のあり方と理念、未来への思いを伺った。

出発点は「なぜ、会社はつまらないのか?」の疑問から

「世界中の人々を魅了する会社を作る」──。アトラエの社員一人一人は、この会社のビジョンに共感し、実現に向けて「自分の力を自発的に発揮し、貢献している」という。それが、アトラエの創業者兼CEO、新居佳英氏がいうところの従業員エンゲージメントだ。この従業員エンゲージメントに力を注ぐことで、アトラエは2003年の創設から15年で東証一部上場を果たした。

新居氏は、人材会社のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒で入社し、後に戦略子会社・インサイトパートナーズを立ち上げ、アトラエ創設へと至った。そうした経験を糧にアトラエで立ち上げた事業は、成功報酬型の求人メディア「Green」である。これは、自社にフィットした人材を探す企業と、自分に適した職を探す人をインターネットで結び付けるメディアで、19年2月26日現在、2853社が1万5000人を超える求人を展開している。成功報酬型なのでサイトでの求人は無償で、人材を獲得できた時点でアトラエへのフィーが発生する仕組みである。

このビジネスを中核にアトラエは成長の階段を上り、18年度(9月期)も23億600万円を売り上げ、営業利益は6億9100万円と増収増益を達成している。

もっとも、新居氏によれば、Greenの事業が立ち上げたくてアトラエを創設したわけではないという。起業の出発点は、「日本の会社員たちは、なぜ、つまらなそうに働いているのか」「仕事が、つまらないのはなぜなのか」という、長く抱き続けてきた疑問にあった。

画像: アトラエの新居佳英CEO

アトラエの新居佳英CEO

「例えば、プロのスポーツチームを見ると、誰もが楽しそうにチームの勝利のために自分の力を最大限に発揮しています。各人は人生をかけて必死に戦っていると思いますが、つまらなそうな人は一人もいない。ところが、同じ“職業人”であるはずの企業の社員は、大多数がつまらなそうに働いている。これは絶対におかしいと、学生時代から考えていました」と、新居氏は語り、次のように続ける。

「そもそも会社というのは、かかわる人を幸せにするための仕組みです。中でも大切なのは働く人の幸せで、従業員が働くことに幸せを感じ、各人の能力をフルに発揮してくれないような会社には、これからの成功・成長はあり得ません。言うまでもなく、会社の力は人の力で成り立っています。クリエイティブな会社とはクリエイティブな人がいて能力を発揮している会社のことであり、技術力のある会社とは、技術力のある人がいて能力を発揮している会社です。そう考えれば働く人を幸せにすることが、会社にとって極めて大切なことで、それによって優れた商品やサービスが生まれれば顧客が幸せになります。顧客が幸せになって会社の業績が上がれば株主が幸せになります。そうした本来あるべき幸せのサイクルを作ろうとアトラエを立ち上げたんです」

新居氏の言う「働く人が幸せになれる会社」とは、すなわち、従業員エンゲージメントの高い会社を意味する。新居氏によれば、そのエンゲージメントの起点は会社のビジョンやミッション、目標に対する共感にほかならないという。

「これまでの日本企業は、囲いを作り、『この囲いの中で言われた通りに働くならば、生活を保障する』という形で人を集めてきました。ただし、そのような囲いはすでに壊れていて、人は好き勝手に囲いを出入りし始めています。となれば、人が企業に集まる理由はビジョンやミッション、目標への共感でしかなく、それに共感できる人の集合体が会社であり、本来的な姿と言えます。ですから、従業員のエンゲージメントについても、会社のビジョン、ミッション、目標への共感が出発点で、それがなければエンゲージメントもあり得ないんです」

完全オープンな情報共有

ここで、新居氏の言う「従業員エンゲージメント」の定義を整理しておくと、以下のようになる。

従業員の一人一人が、企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲

上述した通り、この貢献意欲の起点はビジョン、ミッション、目標への共感だが、貢献意欲を維持・継続させるためには相応の施策の展開が必要になる。そのため、アトラエでも従業員エンゲージメントを維持・継続するための制度を敷き、施策を実践してきた。その主なものは下記の4つだ。

  1. 完全オープンな情報共有
  2. 完全フラットな組織作り
  3. 360度評価
  4. 全員株主

このうち「完全オープンな情報共有」とは、経営やチーム、個人で情報を閉じることなく、失敗やミスを含めて、すべてを全社員に開示することを意味する。

「仕事にかかわるすべての情報を全社員で共有し、一人一人が、仕事上の必要な判断を下せるようにするのが、アトラエのやり方です。経営上の数値もすべて社員全員に開示していますし、チームや個人の失敗・ミスも必ずオープンにすることをルールにしています。アトラエには、失敗やミスを攻める人間はいませんが、それを隠ぺいすることは誰も許そうとしません。実際、失敗やミスの責任を追及したところで組織にとってほとんど意味はなく、むしろ大事なのは、そこから学び、同じ失敗を繰り返さないようにすることなんです」(新居氏)

もちろん、重要な社会基盤の運用を担うような企業では、失敗やミスは許されず、アトラエのようなやり方は通用しない。「ただし、アトラエの事業のように先がまったく読めないようなビジネスでは、どのような判断が正解かが、私も含めて誰にも分からないことが多くあります。だからこそ、全員が同じ情報を共有した上で、それぞれが意思決定を下し、小さな失敗を繰り返しながらPDCAのサイクルを迅速に回していくことが大切なんです」と新居氏は強調する。

一方で、社員個人では責任が背負いきれない意思決定を迫られる場合もある。そのためアトラエでは、社員全員が信頼を寄せるプロジェクトリーダーが集まり、大型の投資など、重要案件の意思決定を下すための会議も催している。

また、同社では、オープンな情報共有を制度として運用するために、個別のチャットメッセージ送信を禁じており、特別な事情がない限り、常に全社員が閲覧可能なところでメッセージを送ることが義務付けられている。さらに、人同士、あるいは各セクション同士の交流/コミュニケーションを活性化させるための施策にも力を入れ、グループワークでさまざまなテーマのディスカッションを行う場も定期的に設けているという。

組織は完全フラット、社員全員が株主

一方、「完全フラットな組織」も、アトラエの大きな特色の一つだ。アトラエの組織には上下関係はなく、取締役以外の肩書(役職)もない。ゆえに、出世という概念はなく、あるのは、エンジニアやデザイナーといった職務だけだ。このフラットな組織において、プロジェクトごとにチームが組まれ、そのチームの中でそれぞれの役割が決まり、プロジェクトを取り仕切るリーダーが決まるといった格好である。

「組織階層がまったく存在しないというのは奇妙に感じるでしょうが、プロスポーツのチームにも役割分担を示すポジションはあっても、上下関係はありません。サッカーチームのキャプテンも試合ごとに都度決まる。それと一緒です」

この完全フラットな組織構造の中で、一人一人が自分に課された役割を、責任を持ってこなし、臨機応変に協力したり、率直に意見を出し合って互いに高め合ったりする文化がアトラエには根付いているという。

「フラットな組織が機能するのは、規模の小さな会社だけと思われがちですが、制度疲労を起こしやすいのはむしろ階層型のほうです。階層が深くなればなるほど、リーダーや責任の所在が曖昧になり、ほとんど機能しなくなります。アトラエの現在の社員は50人程度ですが、仮にそれが2倍、3倍になっても完全フラット型で十分機能すると考えています。また、各チームは自律分散で動いていますので、かなりのスケールが可能でしょう。10万人規模の米Googleでさえ組織の階層は非常に浅い。変化の激しい知識産業社会で生き抜くためには、フラット型が一つのあるべき組織構造だと確信しています」

もっとも、完全フラットな組織では、上下関係がないゆえに社員を評価する上司がいない。その問題を解決するために同社が17年度から採用しているのが「360度評価」の制度だ。これは周囲の同僚たちが、「会社への貢献」を指標に同僚を評価する制度である。

さらに、「全員株主」は、アトラエが16年に実施した施策であり、社員一人一人を会社のオーナーにしてしまう試みだ。通常の持ち株制度のように社員が自社株を購入するのではなく、特定譲渡制限の付いた株式を社員に付与するという、日本では前例のなかった取り組みでもある。

「前例がなかったために、実現には相当の手間がかかりましたが、どうしても講じたかった施策です。というのも、自発的な貢献意欲が社員全員にあり、名実ともにオーナーシップを持って欲しいと強く願っていたからです」

社員全員が経営者であり、運命共同体──。それは、従業員エンゲージメントの究極的な姿と言えるかもしれない。そうしたアトラエの一員になり、幸せになるには、単に優秀で仕事ができるというのとはまた別の資質が求められる。

ともに働く人を選ぶときに、新居氏が最も大切にしているのは、アトラエのビジョンに共感できるかどうか、同社が目指す山の頂(いただき)に向けて一緒に冒険ができるかどうかだという。それができなければ、どんなに優秀でも、その人にとっては非常に居心地の悪い会社になるはずだ。

「どんなに実現難度の高いビジョンや夢でも、それを本当に実現したいと願って突き進めば、必ず幸福になれると私は信じています。ですから、アトラエに限らず、会社が人を採用するときも、人が会社を選ぶときも、それぞれの描く将来ビジョンや目標、夢が相手と一致していなければならない。そう考えています」

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