アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

同僚からのフィードバックには価値がある

自分の仕事に対して、同僚に意見を求めることは決して愉快な行為ではないし、勇気のいる行動でもある。

例えば、自分に対する年間の評価査定において、「同僚の評価」という項目があるとしよう。おそらく多くの人が、その評価に対して恐れを抱くはずである。

とはいえ、自分の仕事に対して、同僚からの意見を求めることは実に有益である。初めのうちは、そうすることを「税金の支払い」のように感じるかもしれない。ただし、いずれは、その行為が自分の成長への投資だと思えるようになる。実際、私の経験上、同僚からの意見が仕事の改善に“役立たなかったこと”は一度もない。

もっとも、同僚から意見を、仕事の“糧(かて)”にするには相応のテクニックがいる。そのテクニックはいくつかあるが、私が好んで用いているのは、デザインシンキングの考え方に基づく「スパーリング」と呼ばれる手法だ。これは、遂行中の仕事を評価するための構造化された手法であり、非常に合理的なテクニックである。

以下、その手法について少し説明を加えたい。

もともとは芸術同士の作品批評

スパーリングとはもともと、芸術家やグラフィックデザイナーが、互いの作品を批評し合い、お互いの仕事を改善するための手段であった。それが今日では、あらゆる種類のプロジェクトに適用され始めている。

例えば、アートほど視覚的要素が重要とならないソフトウェア開発プロジェクトでも、スパーリングの手法は有効だ。実際、私は以前、開発者たちが、システム設計の批評にこの手法を用いているのを見た経験がある。

また、アトラシアンのプロダクトマネジャーも、デザイナーや技術サポート担当者と、製品についてのスパーリングセッションを持っている。さらに、経営幹部のメンバーたちも、顧客戦略の策定や予算の優先順位付けを決めるための手法として、スパーリングを取り入れている。

スパーリングの4つの要素

では具体的に、スパーリングとはどのような手法なのだろうか。
まず、スパーリングに必要不可欠な要素は以下の4つである。

  1. あなたの仕事を敬意をもって批評してくれる2~4名の同僚
  2. 30分程度の下準備
  3. 30分程度のスパーリングセッション
  4. 視覚的なプレゼンテーション資料

30分間の下準備で行うべきこと

スパーリングにおける下準備とは、同僚をスパーリングセッションに招く前の準備を指している。

その準備として最初に行うべきことは、「同僚のフィードバックは糧になる」と信じる心の準備である。その準備ができていなければ、セッションのときに素直に同僚の批評を受け止められなくなる。それと同様に大切なことは、自分が本当に他者の意見が必要な岐路に立たされているか否かを確認することである。

そのうえで、同僚たちに自分の仕事のどの部分を批評してもらうかのスコープを熟考する。たとえば、大規模なネットワーク構造のプランを、1回のスパーリングセッションで評価してもらうというのは、かなり重たい。

ここまでの準備でおそらく30分の大部分は消費するはずである。そこで残りの2~3分は、仕事に対する自分のアプローチが、どのようなデータに基づくものかを説明するための準備を行う。具体的には、自分が行ってきた競合調査や顧客に対するヒアリングの結果を集めておけばよい。

以上の下準備を済ませれば、自分の仕事ぶりを守る用意ができたことになる。ただし、スパーリングにおいては、決して“ディフェンシブ”になってはならない。スパーリングセッションにおける批評は、あくまでも仕事に対してのものであって、あなた自身に対する批評ではない。ゆえに、主張するときは、自分の正しさをしっかりと主張し、聞くときは、常に低姿勢で素直に相手の言葉に耳を傾けることが大切である。

セッションをスタートさせたら……

スパーリングセッションをスタートさせたら、最初の5分を自分の仕事の状況説明に費やす。このとき、同僚と文脈を共有するために、十分な情報を伝えるのが肝心である。ただし、いき過ぎた説明は避けたほうがよい。

また、批評を受け終えたのちには、セッションの最初に示した図に戻り、受けた指摘をどう反映させていくかの説明を行う。このとき、同僚たちからの質問を受け付け、その疑問点についての議論を交わすことも大切だ。ただし留意すべきは、その議論の方向性が“問題解決モード”に突入しようとするのを食い止めることである。スパーリングで大切なのは、批評を受け、議論を交わすことであって、問題を解決することではない。

スパーリング=プラクティス

同僚たちの批評に耳を傾けたり、議論を交わしたり、新しいアイデアを得たりすることは、あなたにとって間違いなく有益である。

もちろん、同僚たちからの指摘や疑問にさらされるのは、決して心地のよいことではないし、むしろ、厳しいひとときかもしれない。ただし、奇跡的なことは、大抵、そうした環境の中で起きる。

また、スパーリングセッションに呼ぶ同僚は、あなたが信頼を置き、かつ、あなたとはものの見方や考え方がまったく異なる人であるのが理想だ。そうした同僚は、あなたのアイデアを、あなたの想像を超えるものへと発展させる可能性があるからである。

その意味でも、多様なスキルやバックグラウンドそして視点を持つ同僚たちに対して、自分の仕事を開示し、批評されることを恐れたり、躊躇(ちゅうちょ)したりしてはならない。常に、“ぬるま湯”的で、心地のよい環境の外に居続けることが、あなたの仕事の成長と改善につながるのである。

スパーリングはあくまでも“プラクティス(鍛錬)” であって“バトル(戦い)”ではない。スパーリング中に、ボクサーが“パンチ”を受けるのと同じように、いくつか知的な打撃を被るだろう。ただしそれは、あなたを倒そうとする“パンチ”ではなく、あなたをより強くするためのものであると、ご記憶いただきたい。

ボクシング選手にしても、独力で鍛錬を積む人は誰もいないし、それでは強くなれない。それと同様に、会社勤めであっても、他者の知見や経験との“疑似的な戦い”を繰り返し、鍛練を積まなければ、自信を成長させることはできないのである。

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