『マーケティングとは「組織革命」である。』

著者   :森岡 毅
出版社  :日経BP社
出版年月日:2018/5/24

画像: 【BOOKレビュー】チームの強化に役立ちそうな本──勝手にレビュー #005 マーケティングとは「組織革命」である。

みなぎる自信

同書は、マーケティングの教則本であると同時に、劇的な成功事例から組織改革のメソッドを学ぶための一冊と言える。著者は、マーケティング戦略のコンサルティングファーム、株式会社刀の森岡 毅 代表取締役。同氏は2010年にP&GからUSJに移籍し、経営危機にあったUSJをマーケティングの力でV字回復させた人として知られている。2017年にUSJのCMO(チーフマーケティングオフィサー)の職を辞して独立、現在に至っている。

USJの劇的再建の立役者だけに、本書に記されている同氏の言葉は自信に溢れ、説得力がある。また、泥臭ささもある。

例えば、本書の「第2部」は、「社内マーケティングのススメ~下から提案を通す「魔法」のスキル~」というテーマの下で構成されている。内容は、組織での地位が低いチームリーダーが、会社の上層部をどう説得・懐柔し、提案を押し通すかのハウツーである。記されている手法はどれも「魔法」ではなく実体験に基づく手法で、現実味に溢れている。そんな第2部のタイトルに「魔法」という言葉が使われているのは、著者がUSJの再建を支えたアトラクション「ハリー・ポッター」の仕掛人だからだ。同書によれば、ハリー・ポッターの始動には450億円の投資が必要で、著者がその企画を練り上げ、上申したのはCMOになる以前のマーケティング部長のときだったという。その立場で巨額の投資を経営幹部に認めさせたスキルが第2部では披露されており、ゆえに「魔法」のスキルというわけである。

販促プロモーションは狭義のマーケティング

同書は、販促プロモーションの仕事は「狭義のマーケティング」であって本来のマーケティングではないと指摘する。また、マーケティング部門が狭義のマーケティングを続けると会社はダメになるとまで言い切っている。

同書によれば、広義のマーケティング(あるいは、真のマーケティング)とは「市場価値を創造する仕事全般」をさしており、それができるようになるには、マーケティングノウハウの習得と組織改革をセットで遂行することが不可欠であると論じている。ちなみに、ここで言う「組織改革」とは、マーケティング部門の改革だけを指しているのではない。会社組織全体を消費者視点でドライブできるように変化させることを意味し、その実現のカギは、マーケティング戦略の下で商品開発を機能させることにあるという。

消費者向け製品の市場に身を置く方で、この考え方に異を唱える向きは少ないのではないだろうか。実際、たとえば、消費者向け製品のメーカーの間では、「良い製品(=機能・性能に優れた製品)を作れば売れる時代は過ぎ去った」と何年も前から言われ、顧客視点での企画・開発の重要性がしきりに唱えられてきた。その観点から言えば、同書で森岡氏が訴えていることは、今の時代では当然のことで、とりたてて目新しい考え方ではない。

ただし、マーケティングが重要であると単に唱えることと、実践して成果を上げることには大きな違いがある。とりわけ、日本のメーカーの場合、たとえ一般消費者をメインターゲットにしていても、開発・生産側に対するマーケティング部門の発言力は、いまだにそれほど強くないのが実情ではないだろうか。その中で、マーケティング部門が会社組織全体の変革や意識改革を牽引していくというのは、並大抵の努力では成しえないはずである。森岡氏も、同書の中で(組織改革の試みは)猛烈な逆風にさらされたと明かしているが、それを跳ね返したところに同氏の馬力を感じる。またそれを実践して、成功を収めたマーケターが日本に存在するということは、他のマーケターの希望につながることのように思える。

余裕のある組織は早晩滅ぶ!?

先に触れたとおり、森岡氏はP&GからUSJに移籍した人で、P&Gには新卒で入社している。つまり、同氏がマーケターとして辣腕を振るってきたのは、一般消費者相手のビジネスでのことである。

ゆえに、対企業のビジネスを展開するB2B企業のマーケティング担当者は、森岡氏のメソッドは自分たちにはあまり役立たないのではないか、と考えるかもしれない。確かに、同書に記されている対消費者マーケティングの戦術については、B2B企業のマーケターが参考にできる部分は少ないかもしれない。だが、第2部の社内マーケティングのメソッドは、事業モデルがB2CかB2Bかによらず、すべてのマーケターの参考になるはずである。

また、同書に記されているチームパフォーマンスの発揮のさせ方も、一見の価値がある。

同書の中で森岡氏は、組織が最高の結果を出すには、誰かが余力を残しているようではダメで、人が緊張感なく過ごせるような組織は遠からず滅びると断言している。言い換えれば、目標に向けてチームのメンバー全員が全力を出し切ることが成功につながるというわけだ。

これと同様の考え方は、米国の成長企業にも見受けられるが、この辺りは、森岡氏がP&G世界本社(米国)にいたころに会得したメソッドなのかもしれない。また、同書では、全力を出し切り、成果を上げた人員に対する評価・報酬のあるべき制度についても具体的に示されている。その点でも、チームパフォーマンスを最大限に高めたいと考えるリーダーにとって参考になるはずである。

USJはテーマパークで、テーマパークはイベントを連日興行しているような事業体だ。イベントは、常に「コト」を起こすことで人を引き付けるビジネスである。そのビジネスで大きな成功を収めた森岡氏のマーケティングと組織改革のメソッドは、「モノ」作りから「コト」作りへの変革を急ぐ企業人にとっても一読に値するものと言えそうである。

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