プロ野球セントラル・リーグの人気球団、横浜DeNAベイスターズ。同社は横浜ベイスターズのオーナーがDeNAに切り替わった2011年12月1日に誕生した。誕生後の2012年シーズン以降、次から次へとユニークな集客施策を打ち出し、ホームゲームの観客動員数を急伸させたことで広く知られる。その躍進を支えているのは、組織の縦横を貫くチームワークであるという。

常識を覆す観客動員

 横浜ベイスターズ時代最後の2011年シーズン、ホームゲームの観客動員数は約110万2000人で、横浜スタジアムの座席稼働率は50%に過ぎなかった。チーム成績も1998年に日本シリーズを制して以来長く振るわず、スタジアムには閑古鳥が鳴く──。それがかつての現実だった。

 しかし現在は状況が一変している。横浜スタジアムはいつも大勢の観客の笑顔で溢れ、スタジアムを中心にユニークなイベントが毎月開催され、地域全体が盛り上がる。2017年シーズンのホームゲーム来場者は11年の倍近い197万9000余人に達し、座席稼働率は96%を超えた。ファンクラブ会員の数も18年現在では、11年の14.4倍となる9万2399人に上る。

 周囲をさらに驚かせたのは、チーム成績の上下とはほぼ無関係に観客動員が右肩上がりで伸びていったことだ。16年と17年のシーズンこそ2年連続でAクラス入りし、17年シーズンでは日本シリーズ進出を果たしたが、それまではチームはBクラスが定位置だった。例えば、13年シーズンはリーグ5位で、15年はリーグ最下位。ところが、13年の動員数は142万人(座席稼働率66%)と11年対比で大幅な伸びを示し、15年も181万を動員して稼働率は90%に達した。

 つまり、チーム成績とはほとんど関係のないかたちで、横浜スタジアムの動員数はぐんぐんと伸びていき、「チームが強くなることで観客が集まる」というプロスポーツの常識を覆してきたのである。

 こうした成長を、データ分析によって支えてきたのが、経営・IT戦略部だ。

 「経営・IT戦略部の役割は、どのファンにどうアプローチすれば動員増につながるかをデータ分析によって指し示すことです。その結果に基づいてイベントとチケット販売のチームが最適な施策を展開することで実際の成果につながります。その成果を上げるために、チーム連携のプロセスと仕組みを、試行錯誤の末に構築できたことが観客動員増につながったと考えています」と、経営・IT戦略部の林裕幸氏は強調する。

挑み続けることに価値がある

 横浜DeNAベイスターズは、データ分析の結果から集客ターゲットを「アクティブサラリーマン」に絞り込み、成功を収めたことでもよく知られている。アクティブサラリーマンとは、「仕事が終わってから飲みに出かけたり、土日もアウトドアやスポーツを楽しんだりする20代後半から30代のサラリーマン層」として球団が独自で定めている。13年からこの層をメインターゲットに据えて、マーケティングやイベントなどの活動を積極的に展開し、動員数をみるみる伸ばしていった。

画像: 横浜DeNAベイスターズ 事業本部 経営・IT戦略部 部長の林裕幸氏

横浜DeNAベイスターズ 事業本部 経営・IT戦略部 部長の林裕幸氏

 「実のところ、12年からデータ駆動のマーケティング施策を打とうとしたのですが、手元には来場者のデータがほとんどない状態でした。ですから、2012年シーズンはとにかく思いついた施策はすべて打ち、一方で、アンケートなどから地道にデータを集めることに終始したんです。アクティブサラリーマンというターゲット層を明確化し、施策のPDCAを回せるようになったのは13年シーズン以降のことです」(林氏)

 こうしたことから、12年シーズンでは失敗施策も数多かったとイベント事業部の鈴木淳氏は振り返り、こんな失敗談を明かしてくれた。

 「夏休み目前の3連休の企画として、『シャボン玉ホリデー!!』と銘打ち、スタジアム内でシャボン玉を一斉に飛ばすというイベントを実施しました。ところが、風船とは違ってシャボン玉はすぐに弾けて、その泡がお客さまの食べ物や飲み物に落ちてきます。結果、数多くのクレームをいただいて、すぐにとりやめになりました。今では笑い話ですが、イベントを仕掛けた当時の私は相当にへこみましたね(笑)」

 本人の落ち込みとは裏腹に、周囲はそれを責めるでもなく、新しい施策を矢継ぎ早に打っていった。

 「新しい試みには失敗はつきものですし、データのない当時は失敗施策が山のようにありました。それでも失敗の経験は後の成功の糧になりますし、そもそも当社のコーポレートアイデンティティに『良質な非常識』という言葉があるように挑戦することが大切だという考え方があります。これまで誰もやっていないような新しい施策を打ち、ブラッシュアップして『良質』を追求していくのが当社のやり方ですし、そのスタンスは今も変わりはありません」(林氏)

スタジアムを一杯にする「満員プロジェクト」

 チケット部の原惇子氏は、イベント施策と連動させてチケットを拡販する役割を担ってきた。そうしたイベントがチケット拡販に大きく貢献した一例として、17年春から展開してきた「BLUE☆LIGHT SERIES」を挙げる。

画像: 横浜DeNAベイスターズ 事業本部 チケット部 部長の原惇子氏

横浜DeNAベイスターズ 事業本部 チケット部 部長の原惇子氏

 これは試合後、観客が青色に光るグッズやペンライトでスタジアムを彩り、音と花火で盛り上がるという企画だ。17年に初めて開催し、18年は横浜スタジアムのシンボルでもある「Y型照明塔」をモチーフにした青く光る「ハマスタ照明塔ペンライト」を使って会場の一体感を演出。試合後には著名アーティストが、スタジアムを埋め尽くした観客をさらに盛り上げた。

 「平日春先のナイターは、屋外スタジアムでの寒さや新年度の忙しさもあって、集客に公式戦で一番苦労する時期です。年々多くのお客さまがご来場くださるようになった現在でも集客が難しい状況には変わりありません。開催からまだ2年ですが、経営IT戦略部、イベント事業部の協力の下、チケット販売、グッズ販売、スタジアム売り上げのいずれにも大きく貢献するイベントとして成長を続けています」(原氏)

 ちなみに、BLUE☆LIGHT SERIESの初回の担当責任者は林氏で、今年の担当責任者が鈴木氏なのだという。実を言えば、鈴木氏が現在部長を務めるイベント事業部は18年に新設されたばかりの部署だ。イベントの企画は、これまでチケット部がコントロールし、実施はイベントごとにプロジェクトチームが編成されて行われていた。

 「イベントのプロジェクトチームの目標はスタジアムを満員にすることで、社内では『満員プロジェクト』と呼ばれていました。17年の段階でこの目標が十分達成できるようになってきたことから、年10~12回のスペシャルイベントでお客さまを楽しませ、今までにない感動を与えることを目標にイベント事業部を創設したのです」(鈴木氏)

プロジェクトチームが組織を強くしてきた

 上述したイベント作りのように、目的に応じてさまざまなプロジェクトチームを部門横断で立ち上げるのは、横浜DeNAベイスターズの特性でもある。観客動員のためのプロジェクトだけでなく、スタジアム内で販売されるオリジナルビールやオリジナルフードの開発、Webサイトやオンラインショップの充実、神奈川県内の子どもへのキャップのプレゼント、女性のためのスペシャルイベント「YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL」など、さまざまな企画の中で部署横断のチームが編成され、結果を出してきた。

 「ことあるごとに部門横断のプロジェクトチームを編成するというのは当社の文化です。これにより、組織の壁を越えた人間関係が構築されますし、若手にプロジェクトを仕切らせることでマネジメントを自然に学べるというメリットもあります。このような文化があることで、組織全体がどんどん強くなっていったという実感が強くあります」(林氏)

 若手に仕事を任せるという点では、各部門内にもそうした文化が定着していると原氏は説明を加える。

 「チケット部は、20代前半から50代まで年齢の幅が広く、キャリアもさまざまなスタッフが集まった組織です。大きな仕事を若手に任せ、若手スタッフは新しい観点で仕事を進め、刺激的な風をもたらしてくれる。それを経験豊富なスタッフがそれぞれの視点でインプットし、全力でサポートする。そんな風土がチケット部だけでなく、当社の組織全体にあり、全体的なモチベーションにつながっていると感じます」(原氏)

異なるスペシャリティが上手く混ざり合う

 では、こうしたプロジェクトチームの文化や若手に仕事を任せる風土がなぜ生まれ、育まれたのか──。

画像: 横浜DeNAベイスターズ 経営企画本部 イベント事業部 部長の鈴木淳氏

横浜DeNAベイスターズ 経営企画本部 イベント事業部 部長の鈴木淳氏

 鈴木氏は、新体制をスタートする際に3つの異なる文化が融合したことが大きいのではないかと指摘する。同氏の言う3つの異なる文化とは、もともとのベイスターズ出身者、DeNAからの出向者、そして、まったく違う分野からの転職組のことを指す。

 「DeNA出身者はベンチャービジネスのプロですが、プロ野球のビジネスは素人。ベイスターズ出身者はプロ野球の知見とノウハウはありますが、ITやマーケティングは詳しくない。転職組は他球団出身者や経営コンサルト、ITエンジニアなどとバラバラです。そうした多様なスキルとバックグラウンドを持った人間が、互いを尊重しながら、スタジアムの動員増、チケット収入の増進、お客さまの満足度向上といった共通のゴールを猛スピードで達成しようと一致協力してきたわけです。その中で、特定のスペシャリティを持った人間でプロジェクトチームを組み、各人のスキルを最大限に活かそうとする文化や、若手のアイデアをうまく取り入れようとする風土が自然に醸成されたと考えています」

挑戦は当たり前

 こうした文化とデータ駆動の合理的な施策によって、横浜DeNAベイスターズは、年間約198万人を横浜スタジアムに動員することに成功した。ただし、スタジアムという“ハコ”のキャパシティにはどうしても限界があり、プロ野球のホームゲーム試合数も年間約70試合と決められている。横浜スタジアムの収容人数(現在約2万9000人)は観客席の増設により、2020年に3万5000人にまで拡張される予定だが、それでもキャパシティに上限があること──つまりは、来場者収入に上限があることに変わりはない。事業の継続的な成長・発展を目指す上では新たな展開を考えていく必要がある。

 そんな中で、横浜DeNAベイスターズが推進している一つが、さまざまな取り組みをスタジアムの外に大きく広げることだ。例えば、試合が行われるスタジアムだけでなく、街中でのライブビューイングでより多くの人に試合を楽しんでもらいながら、地域活性化を図る。加えて、同社ではオフィシャルホテルの展開や、オリジナルビールを楽しめるバーもすでに手掛けている。

 「これは、いかにスタジアム以外で消費者とのタッチポイントを作り、ベイスターズや野球そのものに愛情を持ってもらうかの取り組みと言えます」(鈴木氏)

 この取り組みのベースにあるのは、行政やパートナー企業と一緒になってスポーツを通した街づくりを進める『横浜スポーツタウン構想』だ。毎年実施している「勝祭(かっさい)」と呼ばれるイベントを球場外に広げ、18年には『VICTORY☆STREET』と称し、スタジアム近くの日本大通りを8月10~12日の3日間封鎖してライブステージや飲食、物販エリアを展開した。

 さらに同社では現在、新たなスポーツ産業を生み出す共創基地として、運営する複合施設「THE BAYS」内にシェアオフィス兼コワーキングスペースも設置している。

 「当社の事業の柱はあくまでもプロ野球試合の興行で、スタジアムの動員数を高いレベルで維持できなければ、すべての取り組みに人を引き付ける魅力はなくなります。ただし、そこをコアにして新たな取り組みをどんどん仕掛けていかなければ、次の成長・発展も望めません。当社の強みは、すべての部門がそうした新たな挑戦を続けることを当たり前に感じていることだと思います」(林氏)

 良質な非常識に挑戦し続ける──。それは名ばかりのスローガンではなく、成果を生み続ける組織、チームの姿をそのまま表現した言葉のようだ。


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