アトラシアンには、働き方改革のエキスパートが多くいる。その一人が、ワーク フューチャリストのドム・プライス(Dom Price)だ。彼は企業組織のリーダーに向けて、変革のためのメッセージをコラム形式で発信し続けている。この連載では、そのエッセンスをお伝えしていく。

リモートワークを否定する無駄

米国企業の中には、遠隔地勤務の従業者(以下、「リモートワーカー」と呼ぶ)を、なぜか本社のオフィスに強制的に呼び戻そうするところがある。

こうした組織のリーダーたちは、よほど自分の目の届くところに部下を置いておくのが好きらしい。ただし、そうすることにビジネス上の効果はあまり期待できないし、チームの未来にとってもよいこととは思えない。

いかなる業種・業態の企業でも、最も大切な資産は人材である。その人材に、自分の価値を最も引き出しやすい場所で仕事させるというのは、実に理にかなった行いと言える。

実際、自分のチームにとって完璧な人材が入社を希望してきたとしよう。このとき、チームリーダーならば、その人材の働く場所に柔軟性を持たせてでも、自分のチームに引き入れたいと考えるはずだ。しかも、リモートワークをサポートするテクノロジーはまさに“分刻み”で進化している。そんな中で、すべての従業員に、一つの場所での勤務を強い続けるというのは合理的とは言えず、従業員のモチベーションアップにつながりにくいことも多い。加えて考えてほしい。本社機能は大都市にあることが望ましいのだろうが、大都市のオフィス賃料は総じて高く、極めて多くの企業が拠点を構えたがるので賃料相場は上がりこそすれ、大幅なダウンは見込めない。そんな場所にあるオフィスに、その場所に常時いる必要のない従業員まで集めてしまうというのは不経済ではないだろうか。

大切なのは「分散型チーム」という考え方

賢明な組織のリーダーの多くはすでにリモートワークの利点に気づき、その価値を最大化することに力を注いでいる。そうした彼らの取り組みは、ある意味で、「分散型チーム」を形成する試みとも言える。つまり、チームの新しい形態として「分散型」を取り入れ、有能な人材の協業を、場所の制約を受けずに推進するという考え方である。

この考え方を発展させると、自社の従業員であるチームのメンバーだけではなく、サプライヤーやパートナー、そして顧客までもが、分散型チームを構成し、成功へと導く重要なメンバーになりうることがわかる。その意味で、分散型チームをマネジメントする力を増すことは、サプライヤー、パートナー、顧客との関係を強化し、それぞれの力を上手く活用する能力を高めることにつながると言える。

チームパフォーマンスを決定づけるもの

もちろん、すべてのメンバーが同じ場所で働くチーム(以下、「集中型チーム」と呼ぶ)であっても、高いパフォーマンスを発揮することは可能だ。チームのパフォーマンスを決定づけるのは、チーム形態とはまた別のところにある。

私がアトラシアンの一員になったころ、企業のチームがなぜ崩壊するかの研究を重ねていた。会社、カルチャー、使うツールが同じであっても、優れたパフォーマンスを発揮するチームと、崩壊してしまうチームがある。両者の違いは、果たしてどこにあるのか──。

その研究を進めた結果、健全でハイパフォーマンスなチームは、共通して以下の4つの特性を持っていることが明らかになった(当然、ローパフォーマンスのチームにはこうした特性は見られなかった)。

①認識の共有:チーム内で解決すべき課題に対する認識が共有されている。また、チーム全員が、課題解決に必要なスキルを互いに持っていると確信しており、信頼し合っている。

②フルタイムオーナーの存在:何らかの活動結果やチームのミッションについて最終責任を持つ人が必ず一人存在する。

③バランスの取れたメンバー構成:チームを構成するメンバーのスペシャリティ、スキルがほどよくブレンドされている。メンバー同意の下で職務や責任範囲も明確化されている。

④明確な価値と指標:メンバー全員が、自分のチームが他にはないユニークな価値を持っていることを理解している。また、業績は、ステークホルダーやメンバーの合意に基づいて設定された、測定可能な目標によって評価されている。

このフレームワークには、優れたチームを「驚くほどのパフォーマンス」を発揮するチームへと成長させる力があるほか、崩壊の危機にあるチームを立ち直させる力もある。

メンバーの自律性に心地よさを感じる

チーム形態が分散型か集中型かによらず、リーダーは自律分散型の働き方や意思決定に慣れ、それに心地よさを感じるようでなければならない。また、それにより、チームのメンバーが時差のある遠方で働いていてもさほど気にならなくなるはずだ。

私が、チーム開発に協力した企業の中で、最も大きな成功を収めている会社は、チームリーダーの90%が、『最も優れた意思決定が下せるのは、現場に最も近い部下(チームメンバー)である』ということを理解し、自律分散型の働き方・意思決定を推進している。

一方で、チームリーダーがすべての意思決定権を握り、“カタツムリ”のようなスローなペースでビジネスを回しているところも依然としてある。このような企業は、優秀な人材を集めることも、雇用し続けるのも極めて難しいと言わざるをえない。

もちろん、意思決定のリスクが高く、状況が複雑で、判断ミスが会社全体に大きな負のインパクトを与えかねないものは、リーダーが自ら意思決定を下す必要があるだろう。ただ、それ以外の判断は個々のメンバーに委ねるのが意思決定の的確性とビジネススピードを増すことにつながる。

“オープン”をチームのデフォルトに

私たちの誰もが『自分たちはオープンである』と思いたがる。だが、多くの企業は、情報を縦割り組織の“サイロ”に閉じ込め、チーム間での共有を図ろうとしていない。こうした閉鎖性が生む負の効果は、メンバー間の日常的な会話が少ない分散型チームにおいては、さらに増幅される恐れがある。ゆえに、分散型チームを有効に機能させようとするなら、チームの情報や洞察をオープン、かつタイムリーに共有することが必須だ。同一の情報を、テレワーカーを含むチーム全員が同じタイミングで共有していないと、例えば、テレワーカーの数時間分、あるいは数日分の労働が無駄になる可能性がある。

私は、社内用Wikiを好んで使っているが、それは、プロジェクトの計画やドラフト、各種のレポートをWebページとして作成し、作成したページに対して他のメンバーがフォローしたり、コメントを出したりするのが簡単に行えるからだ。こうしたリアルタイムでオープンな情報共有が、各人の仕事を研ぎ澄ましていくのである。

分散型チームを機能させるのは簡単ではない。ただ、それにトライすることで、チームリーダーは、透明性、自律性、継続的な改善というチーム力アップの土台を築く好機を得ることができる。明日にでもチームの誰かにリモートワークをさせ、チーム全員で未来の働き方を体験してみてはいかがだろうか。

This article is a sponsored article by
''.