『奉仕するリーダーが成果を上げる! サーバント・リーダーシップ実践講座』

著者   :真田茂人
出版社  :中央経済社
出版年月日:2012/10/17

画像: 【BOOKレビュー】チームの強化に役立ちそうな本──勝手にレビュー #004 サーバント・リーダシップ実践講座

役職に関係なく「誰でもリーダーシップ」

従来「リーダーシップ」は、組織のトップにだけ必要な資質とされてきた。そこには、目標達成のための強い意志と実行力、そして周囲を巻き込む求心力が要求される。しかし、リーダーシップにはさまざまな形があるし、上級管理職のみに必要な能力というわけでもない。本書は、「サーバント・リーダーシップ」という新しいタイプのリーダーについての解説書だ。

本書では最初に「リーダーシップ」とはどういうものかを明らかにし、「マネージメント」との違いについて述べている。リーダーシップが「こうしたい」という思いと、「ついて行きたい」というフォロワーの気持ちに由来するものなのに対して、マネージメントは肩書きや役割に依存する。リーダーシップには必ずしも役職が必要ではなく、近年のビジネストレーニングでは「誰でもリーダーシップ」という考え方が広まっている。本書でも、こうした考えを取り入れている。

続いて解説されているのが、「君臨型」と呼ぶ従来型のリーダーだ。強烈な個性を持ち、強い意志と求心力を備え、自ら実行するタイプのリーダーは、歴史小説に登場する戦国武将やスポーツ界のトップ、著名な経営者などによく見られる。

しかし、現在の社会状況では1つの目標を全員で共有することが難しくなり、君臨型のリーダーでは人がついてこない。異なる価値観を持ち、自律的に働く個人のモチベーションを高め、変化に対応し、創造性を発揮するための環境を作ることこそ、現在のリーダーに求められる資質であり、これがサーバント・リーダーシップにつながる。

能力を引き出して進みたい方向に導く

サーバント・リーダーシップは、以下の5つのバリューを持つ。

①個人を尊重する
②人々を勇気づけ、ビジョンの実現へ導く
③他者に貢献(サーブ)する
④人の持てる力を引き出す
⑤個人の成長へとつなげる

「サーバント」は「使用人」という意味だが、個人を尊重し、他者に貢献することで、その人の能力を引き出し、進みたい方向に導くというのがサーバント・リーダーシップの本質のようだ。

本書の後半では、サーバント・リーダーシップの実例が数多く紹介されている。サーバント・リーダーシップの概念は米国生まれなので、多くは米国の事例だが、日本の事例も紹介されている。ただ、豊富な事例は本書の魅力であるものの、全体にエピソードが多すぎて表面的にしか触れられていないのは残念な点でもある。

日本の事例も多くあることからわかるように、サーバント・リーダーシップは日本でも受け入れられている。日本では「返報性の原理」が働きやすいからかもしれない。返報性の原理は、誰かに何かをしてもらったら、お返しをせずにはいられない人間の感情の一つだが、リーダーがメンバーに尽くすことで、メンバーはリーダーにお返しをする気持ちが自然にわいてくる。強制ではなく、自然に起こる気持ちがリーダーシップの源となるということだろう。

「自分は何者か」を自問することが出発点

本書ではアップル共同創業者のスティーブ・ジョブズが君臨型のリーダーとして紹介されている。しかし、スティーブ・ジョブズの経歴を見ると、必ずしもそうとも言えない。ジョブズは、若い頃から禅に傾倒しており「自分は何者か」ということは考えていたはずである。

謙虚さを自覚し、「自分は何者か」を自問することがサーバント・リーダーシップの出発点になると本書は指摘する。スティーブ・ジョブズは、そのあまりにも身勝手な行動に、創業者であるにもかかわらずアップルを追放された。おそらく、自らの言動により社を追われたことで、謙虚さを身につけたのだろう。アップルに呼び戻されたあとの活躍はご存じの通りである。

こうしたことから、君臨型であっても、成功するリーダーはサーバント・リーダーシップの考えを取り込んでいることが推測される。できればそこまで踏み込んで考察して欲しかったところである。

本書では、一見君臨型リーダーシップに見えて、実はサーバント・リーダーシップの考え方を取り入れている例として、プロ野球の中日ドラゴンズで監督を務めた落合博満氏を挙げている。スティーブ・ジョブズについても、もう少し掘り下げて評価すればさらに興味深い内容になったのではないだろうか。

サーバント・リーダーシップで「日本再生」?

サーバント・リーダーシップは、調整型のリーダーが多い日本では好まれる傾向にあるだろう。「日本企業の問題を救うサーバント・リーダーシップ」という章では、日本の社会の現状を他の国と比較しながら、日本再生を語っている。ここは、本書で最も読みごたえのある個所だと言える。

しかし、それだけに、他国との比較に雑な考察が目立つのは残念だ。例えば、「シアトルは雨が多いのでインドアを楽しむ」とある。米国西海岸北部の都市シアトルの冬は確かに雨は多いが、車で2時間も行けばスキーが楽しめる。また、盛夏は晴天が続き、7月の降水量は冬の東京の半分以下である。すぐそばのオリンピック国立公園には、ハイキングコースがいくつもあり、アウトドア活動は盛んだ。

「日本は農耕民族」という説明にしても、国民性に影響したという証拠はない。世界に農耕民族はたくさんいるが、どの民族も同様に日本人的な性質を持っているという話は聞いたことがない。また、日本での師弟関係を示す「守破離」という言葉を紹介しているが、その後に続く実例は師から継承したものを「守」(守る)レベルに留まったために失敗したものばかりで、「破」(破る)や「離」(離れる)のレベルに到達した話は登場しない。

このように、調査不足だったり、ステレオタイプの言説を鵜呑みにしていたりする問題はあるものの、主題であるサーバント・リーダーシップについての解説は、事実に基づく考察が行われており、的確で読みやすくはある。個々のエピソードは掘り下げ方が浅く、週刊誌の見出し程度の情報量しかないが、参考にはなるだろう。リーダーシップについて模索している人には、一読の価値はありそうだ。

This article is a sponsored article by
''.