大手企業で仕事に追われる毎日を送り、ふと気がつくと40代前後。チームを率いる立場の自分がいる。今の自分、今の会社、そして上司・部下に100%満足しているわけではないが、転職しても、よりよい暮らしが得られる保証はどこにもない。
そんな中で、自分の未来をどう描けばよいのか──。悩める中間管理職者に、健康社会学者の河合 薫氏がワンポイントアドバイスを贈る。

アドバイザープロファイル
河合 薫(かわい かおる)
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究に関わるとともに、講演・執筆活動を精力的に展開。働く人のインタビューをフィールドワークとし、その数は700人に迫るという。日経ビジネスオンライン/ITmediaビジネスオンラインにもコラムを連載中。

相談者A氏プロファイル
● 職位:大手企業の中間管理職者
● 年齢:40代前半
● 直面する課題:部下のスキル、仕事への態度、精度のバラツキ
● 転職希望:なし
● キャリアップの意欲:あり

今回紹介する相談者A氏は、某大手企業に新卒で入社し、ある業務分野のスペシャリストとしてキャリアを積んできた人だ。現在は、中間管理職者として、数名の部下から成るチームを率いている。上司との関係は悪くはないが、悩みの一つは、部下たちのスキル、仕事に対する姿勢、仕事の精度にバラツキがあり、チーム全体のパフォーマンスを底上げするのに相応の苦労を強いられていること。この悩みに対して、河合 薫氏がアドバイスを贈る。

デキナイ部下にこそより積極的に話しかける

河合氏:では、Aさんの悩みについて改めて聞かせてください。

A氏:簡単に言えば、部下のスキル、働く意欲にバラツキがあることです。部下のうち一人は非常に頼りになり、仕事も正確なのですが、他の一人が、仕事をさぼりがちで、チームの皆が自席で黙々と仕事をしているのに、一人だけフラリと席をたち、長時間、戻ってこないこともしばしばです。そんな彼の態度に、チーム内はもとより、他のチームからも非難の声が漏れ聞こえてくる。そうした中で、どうチームをまとめ上げ、全体のパフォーマンスを上げていくかが、自分にとって大きな課題になっています。

河合氏:なるほど、それはなかなか大変だと思いますが、気になることが一点。もしかしたら、Aさんご自身で、その「デキナイ部下」との間に、無意識のうちに壁を作ってはいませんか。

A氏:と言いますと。

河合氏:例えば、コミュニケーションを取る回数と時間。これは、上司によく見られる傾向なんですが、「デキル部下」とは、話がしやすいので、自ずとコミュニケーションを取る回数・時間が多くなります。ところが、「デキナイ部下」、あるいは、あまり評価していない部下との間では、無意識のうちに心の壁を作り、コミュニケーションを取る回数・時間が相対的に少なくなりがちなんです。思い当たりませんか。

A氏:うーん、そう言われると、確かにそうかも……。

河合氏:相手とのコミュニケーションって、自分から心を開かないと上手くいかないんですよね。なのでデキナイ部下にこそ、より積極的に話しかけ、自分の意志・考えを明確に伝え、正しい方向へと導いてあげることが大切です。

相談者へアドバイスをする、健康社会学者の河合 薫氏

優れた上司は演技力がある

河合氏:例えば、仕事中に、自席からフラリといなくなるのは、その人のワークスタイルで、だからと言って、与えられた仕事をまったくしていないわけではないですよね。

A氏:ええ、仕事の精度に多少の難はありますが。

河合氏:でしたら、その部下のスタイルを認めながらも、サボりに見られる態度を続けることが、その人にとってマイナスになることを粘り強く説き、働き方を改めさせることが上司の役割です。リーダーシップを発揮し、チームをまとめるにはフォロワーである部下の協力は欠かせません。まずは問題ある部下との距離感を縮めることから始めてみてください。そして、その人への期待感を言葉で明確に伝えること、その期待感を日々の対話という態度で示し続けることが肝心です。

A氏:それほど期待していなくても、ですか。

河合氏:部下の力をもっと引き出したい、あるいは、チーム力を底上げしたいのなら、ときには演技も必要です。『自分はあなたの味方であり、常に気にかけているし、期待もしている』──。ある意味、それは上司のスキルだと割り切って、そうした態度を示し続けることが重要です。部下は、上司が思う以上に、上司の行動・言動をよく観察していますし、聞いています。その普段の行動・言動から、自分がよく思われていない、期待されていないと感じたら、働く意欲をますます減退させていくのが部下なんです。

組織の外に目を向ける

河合氏:Aさんの場合、上司との関係はどうなんでしょうか。また、昇進に対する意欲はありますか。

A氏:上司との関係は良好だと思いますし、昇格・昇進に対する意欲も相応に持っているつもりです。

河合氏:でしたら、おそらく、先に申し上げたようなことを心がけ、チームを率いる力を増せば、昇格・昇進の可能性がグンと高まるはずです。

さらに、もう一つ、40代のビジネスパーソンにとって大切なことは、今いる組織の中だけではなく、組織外での人脈を数多く形成し、知見・知識の幅を広げることです。

A氏:それはどういうことですか。

河合氏:組織でキャリアを積む中で、40代というのは最も大切な時期です。もちろん、40代で活躍できるかどうかは、30代でいかに鍛練を積み、実績を積み上げてきたかで決まりますが、40代では、それにプラスして、自分の専門領域以外での人脈形成や知識・知見の獲得が必要になります。それに力を注ぐことで、昇格・昇進も含めて、新しい可能性が開けてきます。

A氏:なるほど、わかりました。今日お聞きしたことを、早速、明日から試してみます。

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